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わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第二十三章 

 リリカ(複写=アンナ)にとって、アリーシャが行方不明になった事は、予定外だった。

 当然、ダレルとソーを問い詰めたが、知らぬ存ぜぬの一点張り。

 一方で、女王様は、まったく面会してくれない。

 実のところ、あの二人を拷問したいところなのだが、革命を早期に成功させるためには、どうしても二人の協力が欠かせない。しかも、得体のしれないアーニーとかいうやつが裏にいる。

 これには注意が必要だ。

「おどりゃあ。えーつら、何考えとるんじゃ。」

 リリカ(複写=アンナ)は、今では、彼女の精神的な支配者であるビュリアに報告した。

「そう。まあ、犯人はダレルとソー以外には考えられないが、しばらく放っておきなさい。それよりも、具体的な行動を起こすのです。いよいよ、首相命令を発出しなさい。「人間食」の廃止に関する指令を出すのです。可能でしょう。」

「まあ、出すことは可能じゃと思います。しかし、いくらなんでも、女王がすぐ否定するじゃろうと、わいは思います。それで、終わりになっては困ります。」

「すぐに廃止でなくて良い。経過期間を設け、いずれ廃止の方向を打ち出すのです。打ち上げて見なくては、相手の動きがわからない。」

「かしこまりました、ビュリア様。仰せの通りに。」

「女王の動きを封じられれば良いが。」

「ビュリア様、現在、わいは、女王様の「巣」をさがしておるところじゃ。そこに入ったところを封印できればよいのじゃやが、まだ方策は考え中なのじゃ。」

「そなたが以前見つけた、あの土器の破片はどうなのか?」

「それも、研究を続けてはおります。まあ、しかし、なかなかに難しいのじゃ、じゃが、単純に活用することは、可能じゃと、わいは思おております。」

「そうか。ではまず、ダレルさんと、ソーさんの協力を求めなさい。そうして首相令を出しなさい。もし、あのふたりが抵抗するような事があれば、協力関係を拒否した可能性があるから、すぐに知らせなさい。」

「かしこまりました。」



 ダレルとソーはリリカから呼ばれ、「首相令」の草案を見せられていた。

 しかし、はっきり言って、ダレルにはあまりに温和すぎる内容だった。

「これでは、結局先送りしただけだよ。もっとはっきり期限を切るべきだ。例えば猶予期間はせいぜい一年とか。それでもまだ生ぬるいくらいだ。本当は今日から実施にしたいが、それではいくらなんでも準備が間に合わないからね。でも、いいかい、いまの状況は、急速に動いている。火星人の滅亡は、もう現実のものになった。それを防ぐためには、もっと荒っぽくやっていいと思う。実施は準備ができ次第、可能な限りすぐだよ。しかも最大一年以内に全火星で実施じゃなきゃダメだ。」

「一年は無理よ。食料の供給が絶対に間に合わない。いい、「普通人」たちをどうするの?彼らが食べるものをどうやって作るの? どんなに頑張っても最低ニ十年はかかる。急ぎたいのは、同じだけれども、無茶苦茶ではダメ。それと、アリーシャの居場所を言いなさい。今すぐ出せば、非は問わないから。」

「アリーシャは知らない。何度も言った通り。二十年じゃ間に合わない。緊急事態になってることを全火星人にまず、知らせる必要がある。いいかい、「普通人」も、「支配人」も、大部分は女王に操られているから、それだけ発表しても、きっと脳は理解ができないんだ。でも、それは、むしろ幸運と考えて、とにかくそこからすぐ始めなきゃ。火星人存亡の危機なんだ。他の事は大方ほっといても、ここに集中しなくては。」

「女王がけっしてほっておかない。過激な事したら、すぐにすべてが無駄になる。あなたが「食人」に反対してることは、女王もわかってる。だから、おだやかな法令ならば女王はきっと無視する。そこからやり方は考えたらいい。まず始める事が一番なんだ。」

「わかってるよ。でも、おだやかじゃ間に合わないよ。」

 二人は睨みあった。

「それじゃあ、埒が明かないな。」

 ソーが割って入った。

「お二人を見ていると、ハラハラするなあ。ちょっと休憩しませんか?お茶でも飲もう。」

「ぼくはそれでもいい。」

「いいですよ。のど乾いたし。」



「さて、君どう思う?」

 ダレルがソーに尋ねた。

「まあ、ああしてみる限り、精神的な問題点は見当たらないですよね。以前と変わりはない。あの「首相令」にしても、簡潔で実務的で、悪いもんじゃないように思いますが。」

「そうなんだ。ぼくにしてみればまったく物足りないが、女王を立ててやるなら、あのくらいしかない。後からがちょっとやりにくいから、もう少し前向きな表現にしてくれたら、ぼくはそれでいい。どうせ、あれが、あってもなくても、やることは同じなんだから。」

「まあ、ないよりあった方がいいでしょう。で、女王を隔離できそうですか?」

「そうだな。とににかく動きを止めない事にはどうしようもない。どうやら、「巣」をいくつも作っていて、こちらを困惑させるつもりのようだ。でも、今回は助っ人がいるからね。今どこにいるかの、場所の特定は間違いなくできると確信できた。周囲を固めてすぐには出られなくする方法が問題だった。でも、女王はどうやらブリューリによって、能力を制限されていることも間違いない。怪物になっているときは、特に体に縛り付けられていて、離脱不能と見てよいようだ。リリカには内緒だが、今夜実行する。もちろん相手が動けばだが。来てくれるよね。」

「ああ、それはもう、勿論ですよ。副首相どの。でも、当面は閉じ込めるだけ?」

「そうなんだ。解決にはならない。もっと根本的な方法を見つけないと、もしうまく閉じ込めたとしても。すぐに逃げられないとは限らない。巣を封鎖することを考えていたんだが、それでは逃げ道を作られてしまっている可能性も高い。そこで、食堂の家の改装をすることにして、突貫工事だが二日でやってしまった。通常の修理との見分けは周囲からは出来ないよ。あいては流動化する。徹底的に水漏れ防止策をとった。単純なやり方だけれどね。特製のロボットを使ったから、情報はまず漏れない。」

「うまくゆけばいいね。」

「失敗したら、またその時さ。」



「あなた、女王様がその後どうなったか、知ってる?」

「その後、と言われましても、自分の居た時間から先の事は知りません。」

「まあ、そうよね。でも、推測は出来る。でしょう?」

「まあ、おそらく女王様はブリューリ化が進んで、人喰い怪物になってしまいます。そのタイミングを計るのは、ブリューリ自身だとしか思えませんが。」

「まあ、正解かな。で、あなたはそれをどうするつもりだったの?

「ヒントとなる物質の発見はあったのです。でも、うまく解析できる前に、こうなってしまって・・」

「そうか。じゃあ、良いこと教えてあげましょう。あの物質は、絶滅してしまった火星の太古の植物から抽出できるのです。あなたの時代には、まだ知られていない物質です。作り方を教えて差し上げましょう。」

 リリカの意識の中で、その「ワクチン」とも言うべき物質の作り方が具現化した。

「ね、簡単でしょう。でも、まずこの植物を栽培しなくてはね。」

「どこにあるのですか?」

「実はね、同じものは、今の火星ではもう手に入らない。でもこれと同じ成分を持った植物を、「エウロパ」と「タイタン」で、採取できることがわかったの。そこで、現在、というのは、わたくしの地球の、」妹である友子、つまりヘネシー王女が、地球の支配者になったころの地球のタルレジャ王国で、栽培していたの。あなたの時代からは、ざっと二億五千万年ほど後の時代だけれど。」

「はあ、なんとなく、ですがわかります。」

「そう、そこにあなたはこれからゆくわけよ。で、そのブリューリ退治の決定薬をもって、あなたの時代に帰るわけ。ご自分の体にどう戻るのかは、自分で決着できますか?」

「正直言って、わかりません。」

「あらら、それじゃまるで「魔法使いのお弟子さん」みたいね。」

「は、なんですか、それ?」

「まあ、地球の偉い文学者さんが描いたお話なの。自分のかけた魔法のおかげで、痛い目に合う見習い魔法使いのお話よ。」

「わたしは、見習い魔法使い、なのですね。」

「まあ、そうね。でも、みんなそこから始まるわけよ。気にしない気にしない。」

「まだ地球に行くまで、一億年近くかかるのですね。」

「まあね、でもね、ここではあなたには時間が経過しない。だから、そんなの意味がない。」

「空間があるのなら、時間だってあるはずでしょう?」

「何かがあること自体が、ここでは虚無だもの。私もあなたも、存在しない。どんな物理的な方法でも観測できない。そんなもの存在しない。存在すること自体が、ここでは意味がない。でもね、どうやらここは、わたくしの故郷でもない。」

「は?」

「いいの、あなたがそれを聞くのは、まだこれからだから。でもね、あなたはこれから、その一億年という心理的な時間を、まあ、少しだけ減ったけれど、経験することになるわけよ。わたくしには感情もないし、愛情もない。苦しみも、悩みもない。あなたの心理条件は全く違う。もし望むなら、一億年寝かせてあげるけれど。どうしますか?」

「はあ?・・あの、もうすこし、このままあなたとお話していていいですか?」

「わかった。さすがはリリカさん。見込みあるわね。」

 おそらく女王、と思われる見えない何かが、そう言ってくれたが、そこには確かに何の感情も感じられなかった。






















 


































 

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