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三十五センチ下の○○点  作者: 白い黒猫
三十五センチ下の発火点
18/18

着地点

 失敗と言う訳ではないが、成功とも言えないクリスマスから、攻め手に欠き、手繋ぐ以上の事に及ぶ状況は作れなかった。国立競技場で天皇杯観戦しながら正月を共に楽しみ、映画観て、映画観て、映画観て、つまりは今までと何ら変わらない二人の状況。進んでいるのか後退しているのか? 俺は大きく溜め息をつく。


 ここまで事が進まないと、月ちゃんはそもそも俺のこと好きで何でもないのじゃないか? という所から疑ってしまう。


 そんな事考えながら、昼休み自分の席でおにぎりをぱくつく。すると目の前にチロルチョコが放られ転がる。

「何、コレ」

 俺は、そのチョコを投げてよこしてきた沢村先輩に、思わず尋ねてしまう。 

「バレンタインチョコだよ」

 威張るように、言い放つ沢村先輩に苦笑するしかない。あまりにも義理が前面に出過ぎて呆れる。

 リアクションしない俺に、沢村先輩は化粧っ気のない顔をニヤリととする。

「彼女もいない大陽くんが、今日一個も貰えないのは可哀想だから、お昼のついでに買ったきてあげたんじゃん。うちの課ってモテなさそうな人ばかりだから、気を使うよ!」


 沢村先輩の手にあるレジ袋にいっぱいのチロルチョコが入っている。それを皆に配る気らしい。

 こんなしょぼいバレンタインチョコ喜ぶヤツどれだけいるんだろうか? 安っぽさにも程がある! 義理義理すぎる空気が漂っていて、嫌がらせの域にまで達している。

 まあ、彼女の言う事は一理ある。俺のやっているシステムエンジニアは彼女を作るには向いてない職業である。時間が不規則で徹夜、深夜残業はざら、しかもデスクワークで外部の人と接する機会も少ない。理工系の学科は女性があまりおらず、女性と接する機会も少なく育った人が多く、そう言う意味では不器用なヤツが多い。

 俺は更に、中学、高校と男子校で育ってきたから尚更である。


 職場にいる女性は、同じシステムエンジニアしているだけあり、頭の回転も早く理性的で話し易いけど、いつもノーメークでパンツルック。性格もサッパリし過ぎて、逆に女を感じない。

 隣に立っている沢村先輩にしても同じ状況。

『昨日の日曜日、パチスロで七万取られて今月ピンチだよ!』

 なんて良く言ってるの聞くと女性としてというより、人間としてどうなのか心配する。

「彼女ならさ、俺いるよ」

 俺は、自分の事を棚上げし哀れんでくる沢村先輩に、訂正を入れておく。

「へ、マジ? ソレ、何次元の彼女?」

 失礼な人だ。

「人間の女性!」

「ふーん、じゃあ今日は、ラブラブデート?」

 なんかオバちゃんというかオッサンっぽいニヤニヤ笑いでそんな事を言ってくる。

「あのさ、最近の仕事の様子から、そんな事出来ると思う? 今日中に帰れるかも怪しいよ」

 だいたい平日のバレンタインを、レストランを予約してカップル二人でロマンチックになんて事できるの、学生か、定時で帰れるような楽な仕事しているヤツか、頭の中まで恋愛でピンクになった馬鹿くらいだろう。

「そっち、チョット最近荒れているみたいだね、ま、頑張って!」

 そう言って沢村先輩は去っていった。

 沢村先輩にそう言ったものの、俺の心に、漠然とした不安が沈殿していた。今日は平日だからバレンタイン何も貰えなくても仕方が無いと思っているけど。コレが週末と重なっていたら、どうだったんだろうかと。


 彼女の月見里百合子に告白して半年以上経つ。でも未だにキスすら出来ないってどういう事なんだろうかと。

 手を繋いで歩いたり、肩を抱き寄せても嫌がらないで寧ろ嬉しそうな顔を返してくる。なので彼女が俺の事を生理的にチョットという事はないと思う。


 名前を呼ぶのが恥ずかしい事もあって『百合蔵さん』という名前で呼んでいるのが悪いのか? コレでムードも台無しにしているのは否めない。


 チョットタイミングがズレているだけだと、自分に言い聞かせる。昼休みも終わったので仕事に没頭することにした。

 しかしこの仕事って、なんで無駄な繰り返し作業が多いのだろうか? プロジェクトで多数の人間でおこなっているので、その中の意志のズレとかあるのは仕方がないにしても、毎度の事ながらムカツクことが多い。


 気が付けばあっという間に午後七時過ぎになっていた。昨日も深夜まで作業していただけに、今日は日付が変わらないうちに帰りたい。


 気分を変えるために、マグカップをもって給湯室に行くことにする。マグカップには月ちゃんからもらった珈琲のティーバッグが既に入っている。俺は既に数回抽出した後のカップにまたお湯を注ぐ。

『あのさ、あのプレゼントした珈琲のティーバッグ、かなり薄めのアメリカンの珈琲になるでしょ』

 自分用にも買っていたらしい彼女が、夜の電話の時にそんなふうに悲しそうに言っていたのを思い出す。

『ん? そうだね、でも三杯くらい楽しめたから』

『え! 一杯目から既に薄かったのに、それで三杯?』

 とかなり驚かれたものである。仕事中の飲み物なんて、味がついてりゃいいという状況なので気にしなかったが、彼女からしてみたら信じられないような事だったらしい。


 珈琲味のお湯に近いアメリカンな飲み物を作り、席に戻ると携帯が何か着信していた。

 確認してみると、月ちゃんの帰るコールである。別に一緒に暮らしているわけではないけど、俺達はこうして互いの仕事が終わったらコールなりメールで連絡しあっている。

『今日マンションに寄って宅配ロッカーに荷物入れておきました。帰りに覗いてね!』

 え、今日、わざわざマンションに荷物を届けるってことは、間違いなくバレンタインプレゼント。

 そのメールに思わずニヤける。

 早く帰りたい。俺はウッスイ珈琲を一気飲みし、今までとは比べものにならない程集中して仕事に励む事にした。


 十二時前、なんとか仕事を終え家に帰れる事になった。俺は会社を出てすぐに、月ちゃんに電話する。

「お疲れさま! こんな時間まで大変だったね」

 彼女の労りの声に、何かホッとする。

「今日は、まだ早かったからいいよ、その日の内に帰れるし。メール見たけど何かな?」

「ケーキ焼いたから、良かったらどうぞと思って、ロッカーに入れておいたの」

 手作りケーキ! コレは完璧なバレンタインプレゼントだ。

「そうなんだ、嬉しい! まだ晩ご飯食べてないから、丁度良かった~」


 俺は真夜中の道路で気持ち悪いくらいの笑顔になっていたと思う。電話が終わり、早足でマンションまで急ぐ。家までの徒歩四十分程の時間、ここまで長く感じた事はない。

 マンションの玄関のドアを激しく開け、ロッカーの所に行く。財布を出しそこからカード式のロッカーのキーを取り出す。ロッカーにカードを入れると届け物が確かにあることを教えてくれる。


 ガダっと音がして、ドアが開く。俺はその空いたドアをみて呆然とする。というのは、その扉が、このロッカーでゴルフバックとかも入る一番大きいボックスのドアだったから。俺は無理だけど、月ちゃんくらいなら余裕で入れるくらい大きい。


 月ちゃん、いったいどういうケーキを焼いてきたんだろう?


 まさか、タワーのようなケーキでも入っているのか? 月ちゃんが入っているなんて事ないよね? 恐る恐る覗いてみると、大きいスペースの下の方にハート模様の可愛らしい紙袋がチョコンと置かれている。

 俺はしゃがんでソレをそっとそれを取り出す。中を覗くとピンクの柔らかいラッピング用紙に包まれた何かが見えた。スキップせんばかりの上機嫌で部屋へと急ぐ。


 部屋に入りリビングへといき。上着も脱がずにソファーに座り、そのピンクの包みのリボンを外す。中からカードと、ズッシリした重さをもったハートのチョコレートケーキが出てきた。

 考えてみたら、手作りケーキなんて貰ったのは、生まれて初めてである。今更のように感動が沸き起こってくる。


 カードを封筒から出した開いてみると、こんな言葉が僕の目に飛び込んできた。


『チョコレートケーキ焼きました!

良かったら食べて下さい。


バレンタインデーに愛を込めて 


            百合子』


 彼女の撥ねの大きい癖のある文字で、そういう事が書いてあった。誰も部屋にいなくて良かった。一人で馬鹿みたいに感動し興奮している俺。子供時代にサンタからプレゼントもらった時よりも喜んでいる。バタバタして喜ぶという表現は映画とかでよくあるけれど、その気持ちが良く分かった。

 俺は大きいチョコケーキにそのままかぶりつく。意外といける、美味しい! 夢中で一気に食べつくす。

 もう深夜になってしまったので、電話をかける訳にはいかない。その喜びをそのまま現したメールを彼女へ返した。

 やっとハッキリ感じる事が出来た月ちゃんの気持ちにいつになく気分が高揚していた。


 週末が待ち遠しい。彼女に早く会いたい! 月ちゃんを感じたい。

 こんなに愛されているならば、俺は何を悩でいたんだろうか? どこか愛されているという実感がなかった事もあり積極的にいけなかった面もあった。確信に変わった今悩む事なんてない!


 その後の二人の関係は順調そのものだった。一ヶ月後にはプロポーズしてしまい、デートも重ね、キスして、エッチして……。


 今の最大の悩みは、どのタイミングで月ちゃんの家族に挨拶に行くかという問題。

 でもまあ、やっと普通に恋人らしい付き合いを楽しめるようになったから、もう少しこの状況を満喫しても良いかもしれない。


 仕事が終わり夜道を歩きながら携帯を取り出す。そして慣れた手つきで月ちゃんに電話をかける。いつもの帰るコールである。


 彼女も電話を待っていたのだろうか? 殆ど呼び出し音も鳴ってない状態で電話は繋がる。

「わっ、出るの早!」

 あまりの早さに驚いて、思った事をそのまま口にしていた。すると電話の向こうからクスクスした笑い声が聞こえる。

「お帰りなさい! お疲れさま~」

 月ちゃんの声が響く。一緒に暮らしている訳でもないのに月ちゃんはいつもそういう言葉をかけてくれる。その言葉だけで一日の疲れが吹き飛んだ気がした。

 『お帰りなさい』なんか凄く良い言葉だ。俺はその言葉に『ただいま』と返した。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

『半径三メートルの箱庭生活』

http://ncode.syosetu.com/n1503o/

の裏で大陽くんはこんな行動をしていたという物語です。

この後の世界が

『ゼクシィには載ってなかった事』

http://ncode.syosetu.com/n5939p/

となります。


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