1、とある賢者の予言 ①
この長い物語をどこから語り始めようかと悩んだ挙句、やはり王女の誕生から話をするのが良さそうかね。私が知っていること、そして見えたことを順に話していきましょう。私の名前はディアドラ。かつて『賢者』と言われていた老婆だよ。しばし老婆の話に付き合っておくれ。
キャフリル王国は、古から続く由緒ある王国だ。そこを治める、建国当初からの王家、ルリーサイント家はひときわ強力な魔力を持つお家だ。分家などの王家の血を引く者や、一部他の国民に魔法が使える者はいるものの、直系の一族は彼らには使えない魔法を使うことができた。その特別な力で国を守ってきたのさ。
その国の、アンドロス国王とキャメロット王妃の間に、一人娘がお生まれになった。名前はラーナトラヴィア。この物語はそのラーナトラヴィア王女のお話だよ。
……今でもあの時を思い出す。
ラーナ王女がお生まれになったと聞いて、当時城の中にいた私は急いでキャメロット妃の部屋を訪ねた。キャメロット妃は私の娘だからね。私は生まれたばかりの孫である王女の顔を見に行ったわけだ。それと同時に、私の使命を果たすために……。私は部屋に入ってすぐにまずキャメロット妃とアンドロス国王に労いとお祝いの言葉を申し上げた。二人とも、とても幸せそうな顔で笑っていたことが脳裏に焼き付いているよ。
そして、王女を見た途端、二つのことを強く感じたのさ。
まずはその王女のお顔のとても可愛らしいこと。王国に天使が舞い降りたような愛らしさと光り耀くような美しさ。王女は私が見た時キャメロット妃の腕の中ですやすやと眠っていたが、私が近づくとにっこりお笑いになってくれた。この子の笑顔はあらゆる闇を払い除けるのではないかとさえ思った。
と、同時にだ。
見えてしまったのだよ。私は三人の前で言葉を失った。
「どうした、ディアドラ」
国王は私に言った。
なおも言葉を返すことができなかった。
「お母様、この子の未来が見えたのですか?」
二人の顔を交互に見て、声もなく頷くことしかできなかった。
「賢者ディアドラ、未来を見通せる力を持つ者よ。ラーナトラヴィア王女がどのように育ちどのように生きるのか、今見えたことだけでも教えてはくれまいか?」
私は息を呑み、王と王妃そして王女の前に跪いた。
「わかりました、お教えしましょう」
私の使命は予言をすることだから。
「この王女様は、とても明るく元気よく心優しい王女としてお育ちになります。そして賢く聡明な方です。国民とも仲良く対等に接し、この王女によって王家と国民の長年の溝を埋めることでしょう」
私の言葉を聞いて王は手を叩いて喜んだ。
「そうかそうか、国民との距離を縮めることは代々続く王家の課題だ」
「そんな素晴らしい予言なのに、どうしてお母様は浮かない顔をしておられるのです?」
「この予言には続きがございます。しかし……」
私はこの時、予言の続きは決して言わないようにしようと考えたのだ。
「しかし?」
アンドロス国王はそれを許さなかった。
「……この先はお伝え致しかねます。あまりにも恐ろしいのです」
「そう言われては余計に気になる。娘のことだ。申してみよ」
私には拒否権などなかった。ただただ床を見つめてこう申し上げた。
「ラーナトラヴィア王女は確かに心優しくて感情豊かなお方です。しかしいつの日か『禁断の魔法』をお使いになり、その代償として心を失うことになります。そして、『王国の真実』を追い求めることになるでしょう」
これが、予言の全てだった。
王と王妃の顔を恐々と見た時、二人の顔は真っ青になっていた。次の瞬間、何かを感じ取ったのかラーナ王女は大声で泣き始めてしまった。王妃が慌ててあやしても王女は泣き止まない。私は国王に腕を引っ張られて別室に連れていかれ、国王と二人きりになった。明らかに国王の声は怒っていた。
「ディアドラ、先ほど言ったことは真か。禁断の魔法をラーナが使うとは」
「真でございます……」
力が抜け、立っているのもやっとなくらいだった。
「……あの呪文のことが」
「はい。『ルーイン』のことです……」
「その名を口にするな!」
消え入りそうな声で「申し訳ございません」と呟く。
ふうと国王は息をつく。
「それともう一つ」
国王が指を立てて付け足した。
「そなた、もしや『王国の真実』を知っているのではあるまいな?」
この質問にだけは断じて首を横に降り即答した。
「知りません! 天に誓ってそれは知りません!」
しかし国王の冷たい瞳は変わらなかった。
「おや、誓って言えるのか?」
縮こまることしかできなかった。
「どんな時でも冷静なディアドラが口調を乱すとはなんとも珍しい。ディアドラ、そなたはものが見えすぎている。『王国の真実』とは、誰にも知られてはいけないものなのだ」
「真実など、私は本当に知りません! むしろ、アンドロス国王、なぜ大切なことを国民に隠しているのですか? 国民の中で昔から噂されておりそれが国民との溝をつくっているのはご存知でしょう。国民との距離を縮めるためにも真実を明かしたほうが良い場合もあります。王女にも国民にも隠さず、王国が秘密にしている『王国の真実』を明かした方が……」
王を見た瞬間、はっとした。背筋が凍る思いがした。心臓が止まるかと思った。私はなんてことを口に出してしまったのだろう。たとえ思っていても言ってはいけないこと。王国の真実を知ろうとすることも、そもそも王国に真実があることも。
本当は秘密に気づいていることを悟られないようにするのに、必死だった。
私は覚悟した。
今ここで王に殺される覚悟をした。
「『王国の真実』は知らない……か。なるほど、そのように言い張るか」
もう何も言わない方がいい気がした。
「キャメロットの母であり、ラーナの祖母であるお前を殺すことはしない。そのかわり……」
指を真っ直ぐと、夕日の沈む窓の外へと向けた。
「賢者ディアドラ、お前をこのキャフリル王国から追放とする。今すぐに荷物をまとめてこの王国から出ていけ」
こうして私はキャフリル王国から追放された。国を出ていくことに、抵抗することはなかった。
とはいえ我が娘である王妃と、まだ赤ん坊の王女のことはずっと気がかりだった。
表紙は ツクシ ミヲ 様に作っていただきました(^ ^)
作品自体はすでに最後まで書き切っておりますので、完結保証です。




