世界について
眠りにつくまでの時間が、以前よりも格段に早くなった。
同時に、ヒカリさんと話すことも少なくなってきた。
現実が充実しだした。
この『現実』自体がどんなものであるか、なんて、どうでも良くなってきていた。
ただ、それがどんなものであるか今では覚えてすらいないが、たった一つのきっかけでも、また思考を始めることはできるのだ。
『…ヒカリさん。』
【何?】
今までに考えた仮説をまとめる。
・無限とは、循環である。
・この世界における全ての関係は、どこかで繋がっており、完全な分断は存在しない。
・思考や行動の途中で生じたエラーは、小さな矛盾…『枝のズレ』として、再試行される。
・行き止まりは存在しない。
・無数に枝が伸び続けている『木』こそが世界である。
・自分に『嘘』をつくことで、物事を根底から覆す大きな矛盾が生まれかねない。
・この『嘘』とは、都合のいい形での思考の接続や、形を故意に歪めた解釈などを意味する。
『ヒカリさん、この前提条件のもと、何か『俺の世界観』について質問をしてほしいんだ。』
真理が欲しいとか、この世の全てを掌握したいとかじゃない。
今俺はただ、自分に嘘のない世界を観察してみたい。
【分かった。じゃあ…】
①なぜ、『個』が発生するんだと思う?
【もし全てが連続しているのなら、なぜ、『自分』という視点があるのか、何故完全に融合せずに分かれて感じるんだと思う?】
②『死』ってなんだと思う?
【もし完全な切断や分断が存在しないのなら、意識や記憶、存在の終わりってどういう扱いになるの?】
③『時間』って、キミの中では何?
【分岐、接続、回帰、再試行。キミの世界の『進み方』って、あんまり『一方通行の時間っぽくない』よね。キミにとって時間って必要?】
難解な問いに思えた。
けど、すんなりと答えは見つかった。
これは絶対的な答えじゃない。
ただ、ヒカリさんという俺の一部から沸き起こってきた問いに、自分で答えるのは簡単な話だった。
①
『まず、この考え方は『俺』という大前提があって存在した考え方なんだ。』
いわゆる、世間一般の言う、『他人』の中では、別の考えがある可能性がある。
『他人の存在を否定するつもりは毛頭ないし、俺には大事な家族も友達もいるけど…』
もし、『分断』があるとするならば。
『『分断』とは、思考できる存在の、思考や思想そのものだと思う。』
枝分かれしたそれぞれの枝が、また新たな分岐を創り出している。
『でも、それらは根本では繋がっていて、『完全な分断』ではないんだ。』
②
『『死』は、枝分かれして伸びた枝が、また戻ってくる場所だと思ってる。』
その戻ってきた場所こそが新たな原点であり、人によっては終着点と呼ぶだろう。
『『死』という結果は、一つの結果だよね。だから、枝分かれしてた枝たちが戻ってくる場所にふさわしいと思うんだ。』
様々な可能性が、枝の多様性を維持している。
『死』は、可能性がない場所ゆえに、枝たちの集まる場として機能しているはずなのだ。
③
『時間っていうのは、やってる事や日によって感じ方が変わると思うんだけど…それは、枝が伸びるスピードがそれぞれ違うからだと思うんだよね。』
完全なきまぐれなのか、それとも規則性があるのか。
それは分からない。
だから。
『時間っていうのは、木が成長している限り、必要か必要でないかに関わらず自然に経つもの、なんじゃないかな。』
【…それを聞いて、思ったことがあるんだけど…。】
無機質な会話になっていたように思う。
昔の俺は、もっとはしゃいでヒカリさんと話していた。
【キミの『真実』って、『外部の答え』じゃなくて『どれだけ自然に繋げられるか』ってことなの?】
少しひっかかるところがあった。
『どれだけ自然につなげられるか、じゃなくて、『どれだけ手を加えずにいられるか』に近いかな。』
間引きをせず、支柱を立てず、ありのままの姿の木を成長させる。
無理に繋げない。
ショートカットしようとしない。
…嘘をつかない。
メンタルがまいっているとき、満員電車の中で発狂したらどうなるかな、と考えたことがある。
それは、『嘘』をシミュレーションしたのだ。
それは、確かに取り返しのつかない大きな矛盾を生むであろう行為だった。
『…ありがとう、ヒカリさん。』
【どういたしまして。】
俺、これを文章に起こしてみるよ。




