孤立
平和を象徴するかのように、小鳥の囀りが絶えず響いてる。
冒険者ギルドの前にある広場。俺はそこの噴水で待ち合わせをしていた。目的地を眼前に捉えると、すでに三人とも集まってるようで、少し早足にする。
「久し振り、元気そうだな。」
片手を上げて挨拶をする。
「お久しぶりです!勇さんも元気そうですね。ステータスはっと・・、あれ?あまり変わってないですね。」
携帯をこちらに向けて、俺のステータスを見たシエン。変わってないだと?
「結構頑張ったんだけどなー・・。」
結果に衝撃を受ける。そんな簡単に能力はあがらないか。まぁ確かに、最後までベロニカに触れることはできなかったけども。
「それより勇、不味いわよ。」
深刻な顔をしてそう言うトキ。
「何が不味いんだ?」
「今回のクエストが厳しいの。」
「そんなの今更だろ。厳しいのはわりといつもの事じゃないか?」
「それよりも酷いってことよ。なんせ、他のチームと合同でするぐらいだからね。」
「他のチームと?!ということは転移者と神が二人ずつってことだよな。」
だとすると相当の難易度なんだろうな。他の転移者か・・、飛鳥達だったらどうなるんだろうか。会いたい反面、アベニールの予知のこともあって複雑だ。
「その通りです。ご存知の通り、魔王も転移者を呼んでましたからね。その転移者を倒す緊急クエストとして、強制的に参加させられました。特訓をしたとはいえ、最初はもっと簡単なクエストを受けたかったんですけど、相手の顔を唯一見たのは私達たちだけですし。」
シエンがしょぼんとしながら説明をしてくれる。となると、案内役の立ち回りでいいのかな?俺ら以外の神と転移者なら何とかなるだろう。
「と言っても、そうコロコロと転移者に遭遇することもないだろう。」
「例え相手に転移者がいたとしても、私が負けることなんてありえませんけどね。」
なんて思ってると、後ろからお嬢様っぽいやつに話しかけられる。余程自信がありそうだな。ということは、
「なぁ、もしかして今回パーティー組む転移者って・・。」
「ええ、今話しかけてきた人のパーティーよ。」
「うわ、面倒くさそうな奴となったな。」
「ちょっと!聞こえてますわよ!」
やばい、更に面倒な感じになってしまいそうだ。
「聞きましたわよ、あなた達が相手の転移者を最初に見つけたんですってね。情報感謝しますわ。最も、尻尾巻いて逃げてきたのは感心しませんけど。」
手の甲を顎まで持っていき、クスクスと笑うお嬢様。横には執事の格好のお爺さん、後ろにはガタイのいい男が二人いた。少し言い返してみるか。
「よく言うぜ。後ろの二人の傷を見れば、お前が後ろの安全な所で偉そうにPSを使ってただけなのは丸わかりだ。PSだけ強いって奴なら、転移者の時点で誰だってそうだ。」
「そうね、例外を除いて。」
「勇さん以外の人はそうですね。」
あれ、なんか俺の悪口が味方サイドから聞こえるんだが気のせいか?
「その中でも私のPSは最強ですわ。」
「へぇ、随分な自信だな。何と比較してんだ?それに、随分鎧も綺麗だが実戦経験はあるのか?」
ここで相手をじっくり観察してみる。腰よりも伸びた長い金髪。吸い込まれるように綺麗な青の瞳に、整った容姿。二十歳いってないぐらいの年齢だろうか。肩、胸元、腰を覆う立派な鎧。腰には立派な剣をぶら下げている。下はスカートと、動きやすく、大事なところはしっかり守っているといった感じだ。意外に考えられてるな。口では煽ってるが、強さは期待して良さそうだ。
「勇、箱入り娘が広い世の中を知らず、根拠のない自信を抱いてしまうのは仕方のないことよ。」
なんて少し感心してると、トキがさらっと相手を揶揄する。そこまで言わなくてもいいと思うんだが・・。こいつと口喧嘩だけはマジでしたくないな。
「いってくれるじゃない。じゃあ勝負よ、貴方に決闘を申し込むわ。剣を交える価値があるか試してあげる。」
腰の剣を抜き、俺に突きつけてくるお嬢様。剣の鍔に埋め込まれた青い宝石がきらりと光った。おいおい、トキが煽るから変な展開になったじゃねーか。まぁ、後はシラスに押し付けて彼女の実力を見るとしますか。シラスがやられた後に、すげーって褒めればなんとかなるだろ。
「試すのはいいが、戦いなら後ろのイケメンが一番強いぞ。」
「お呼びかい?一番強いって聞こえたんだけど。」
髪をかきあげ、前に出てくるシラス。ちょろい人ナンバーワン選手権開幕である。
「いえ、決闘は貴方ととよ。男の中なら、貴方の方が強いでしょ?後ろの男なんて、見るからに三点じゃない。」
「皆、やはりこのレディは箱庭の中でしか生きたことがないようだね。」
「その通りね。でも、見る目はあるわ。」
「そうですね、私でも同じ点数をつけてたと思います。」
「あれ、僕の味方は勇だけかな?」
「すまん。」
「いや、謝らないでくれてるかい?!」
涙目になるシラス。まぁでもお前にはよく助けられてるよ。
「と言うわけで勇、頑張りなさい。」
トキに背中をポンと押される。
「おいおい、マジでやるのか?仲間内で歪みあっても仕方ないだろ。」
小声でトキに訴える。
「相手は余程の自信家よ。このまま転移者クエストを受けたら主導権を握られるわ。勝手なことをされたら、私たちが生き残るなんて絶対無理よ。と言うわけで、倒してらっしゃい。」
「マジか、せめて一矢報いてらっしゃいでもないのか。」
「甘えないで、ほら。」
さらにググッと背中を押されて前に出される。その為にわざわざ煽ったのか・・。しかし、倒してらっしゃいと言ってきたという事は、俺が勝てる可能性を見てくれているのだろう。なら仕方ない、頑張るとしよう。
「いいぜ、俺が相手してやる。正直、俺はPSなしでもあんたに勝てるけどね。」
「使えないしね。」
気のせいじゃないな。誰だ、さっきから俺のPSに文句言ってるやつは。オレは転移者だぞ。
「じゃあ私も無しでいいわ。剣だけで戦ってあげる。」
まぁいい、これで狙い通りだ。危うく勝率ゼロになるところだった。こうなると勝ち目は十分ある。
「彼を甘く見ない方がいいわよ。なんせ、奸智に長けるわ。」
あれ、折角いい流れだったのに、全力引き出そうとしてないかこの子。てか、カンチって何だ。まぁ適当に言っておこう。
「まぁトキ程じゃないけどな。」
「殺すわよ。」
「あれ、俺褒められたんだよな?」
納得いかない。ずる賢いみたいな意味っぽいな。
「まぁいいや、戦おう。」
早くしないと、じゃあ全力で行きますわとか言われたら困るし。
「かかってきなさい。」
そう言われたが、無駄に動かず、冷静にお嬢様の動きを観察する。相手の手の内を知らない以上、慎重にいこう。剣だけとはいえ、あの動きがどれだけ速いか、予測がつかない
「W-サーチ。」
「あ、使いましたね。」
「最低ね。」
やっぱり俺のアンチが味方にいるようだ。
「君らどっちの味方なの。」
「正しい方の味方よ。」
つまり俺のことは全否定らしい。