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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
第三部、アルゲナム解放編

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第四八四話、こっそり略奪


 シェイプシフターにかかれば、砦に潜入するのは難しくない。

 熟練のシェイプシフター兵は、あらゆる隙間から浸透し、アゴーン砦の中に忍び込んだ。これまでと何ら変わることがないスムーズな潜入である。


 雲が厚く覆う空。月さえも隠して暗闇が支配するその夜は冷え込み、雪の気配があった。歩哨に立つ魔人兵も厚い外套をまとい、かじかむ指先に吐息を吹きかける。

 炊かれた松明が揺らめく中、音もなく忍び込んだ黒い塊は、最初に見かけた敵兵に飛びかかる。


 突然、顔に真っ黒な塊がぶつかり、魔人兵へ慌ててそれを引き剥がそうとした。しかし張り付き、鼻や口、耳から黒い塊が入り込んできて、意識を手放すのにさほど時間はかからなかった。


 魔人兵を窒息死させたシェイプシフターは、そのままその体を喰らう。ズブズブとスライムのようでもあった塊が大きくなり、それに比例して魔人兵の体が飲み込まれた。

 完全にシェイプシフターに飲み込まれた後、ぶるりと震えたかと思うと、元の魔人兵の姿にシェイプチェンジする。

 さらに黒い塊と魔人兵に化けた個体と分かれて、シェイプシフターはさらに砦に入り込む。


 歩哨に立つ兵が全て入れ替わるまでに、一時間もかからない。さらに一部のなりすまし兵は、取り込んだ魔人の記憶から、砦の指揮官の情報を引き出して、そちらへと歩を進める。


『トルキー中佐殿、よろしいですか?』

『入れ』


 扉をノックし、砦の最高責任者の元を尋ねる。


『何かあったかね?』

『は、実は――』


 なりすまし兵は、指揮官の顔面に自分の塊の一部、シェイプシフターをぶち当てる。執務机の上にささやかにワインをあけていたトルキーに、それを除ける余裕はなかった。

 あっという間にシェイプシフターに飲み込まれた魔人軍指揮官は、シェイプシフターに乗っ取られる。


『パラマー君。本日歩哨に立っている兵を使って、食糧庫の半分を荷馬車に積み替えたまえ』

『承知しました』


 なりすましシェイプシフター同士で、形式ばった会話を交わした後、さっそく変身している兵たちがトルキー中佐になりすましている者の命令を実行に移す。

 見張り役の歩哨が、その職務を放棄して荷物運びをする。砦の警備としては問題行為であるが、それを気にする者などいない。


 アルゲナム・ゲリラは砦を襲撃しないことを知っているし、今のレリエンディール軍が統治している状況で、拠点に忍び込むような泥棒も存在しないのだ。

 迅速かつ的確に、兵たちは行動を進める。夜間待機している兵らは暖かい待機所で娯楽などで時間を潰し、昼間当直の兵は今は就寝していた。なりすまし兵らが砦の中庭で作業をしていることを気にかける者はいなかった。冷たい風が外に出ることを億劫にさせる。


 複数の荷馬車に保存食料を詰め込んだ後、なりすまし兵は集まり一塊になると、ワイバーンに姿を変えた。

 声はあげない。野生の生物ではないので、咆吼を上げて待機所の兵を外に出すことはないのだ。大型のワイバーンは、砦の中庭を少々窮屈そうにしながら飛び上がり、荷馬車を足で掴むと、それを城壁を飛び越えて外に出した。


 見張り役はすべてシェイプシフター兵にすり替わっている。だから誰も飛竜が中庭と外を往復して、荷馬車を運び出していることに気づいていない。



  ・  ・  ・



「――へえ、ああいう風に運び出したか」


 慧太は、砦の外の林から、シェイプシフター潜入部隊のやり口を見やり、ニヤリと口元を緩めた。


「うまい手だ」


 本来、砦から出ても丘の道をぐるりと一週しないといけないのだが、飛竜はその道中をショートカットして、丘の入り口に荷馬車を下ろした。


「素晴らしい時短だ」

「頭いいわね」


 サターナも皮肉げに賞賛する。


「飛竜がもっといれば、道中の護衛もなしに一気に運び出せたのにね」

「輸送部隊を呼び寄せれば簡単だったかもしれないな」


 できない相談だが、と慧太は首を横に振る。ウェントゥス軍の飛竜輸送隊は、春の大攻勢に向けて多忙を極めている。


「今あるものでやっていくしかないな」


 これでも、他の軍や組織と比べたら非常に円滑に進んでいる。見張りに騒がせずに物資を運び出す。これは哨兵を制圧していたからこそできることだ。

 シェイプシフターが乗っ取ったから、ではあるが、これも必要最低限に絞っている。全員を入れ替えることは可能だが、時間と手間がかかる。荷を運び出し、それをアルゲナム・ゲリラのアジトに届けるのは、夜のうちに済ませておかなくてはいけない。

 砦とは関係ない魔人軍部隊と遭遇したり、パトロールに発見されて拠点バレなど洒落にならないのだ。


 もっとも、せっかく入れ替わりに兵を紛れ込ませたので、春までに完全に乗っ取り、大攻勢の際に、進攻軍の支援などができるように手配はする。これが事前工作というものだ。


「城門を使わないというのもいいな。あれを開閉されると砦にいる者たちにも聞こえる」


 それで不審がった奴が見に来て騒ぎになると……。夜は基本門は閉めておくもので、物資の運び出しは、普通は門を開けなければできないものだから、なおそこを使わないというのは良策であった。


「あ、荷馬車の運び出しが終わったみたいよ」


 サターナが顔を上げた。


 ワイバーンが、その姿を馬と兵に変わった。荷馬車に馬がつき、兵が固定する。そして動き出した。


「さあ、ここからは俺たちも仕事するぞ」


 慧太は動き、サターナも続いた。ここから援護チームも遠巻きながら荷馬車部隊を護衛するのだ。

 慧太は林となっている高台を下る。雪が残っていたそこを滑り降りれば、アウロラやヴルトたちが待っていた。砦からは絶対に見えない位置である。


「動いたか、団長?」


 アウロラが素早く立ち上がった。早く動きたくてウズウズしていたのだ。慧太は頷く。


「お待たせ、と言ったところだな。行くぞ」

「了解!」


 アルゲナム・ゲリラや避難民が冬を越せる食料は確保された。後はこれを確実に送り届けなければいけない。

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