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『序章』

序章がやっとこさ終わります。


この回、少し長くなってしまいました。


 


 魔獣使いとして使役する魔獣を得るためユルドの森へ行き、妖狐のアオイと出会ってから一週間程が経った。


 アオイを連れて騎士団宿舎へ帰着を伝えに行った際、その強大さに気が動転した騎士がアオイに襲いかかり返り討ちにされる、という事件がありはしたが、その後はユルドの森へ出発する以前と変わらない日々が続いていた。


 訓練時にはアオイが眷属となったため、ぼっちではなくなった。アオイは人間ではないから、ぼっちと言えばぼっちなのだが。


 訓練中頻繁に抜け出して来る実織が木陰からこちらの様子を伺っていたり、弾丸の如く飛び出して来たりしていたため、あれをカウントすればぼっちではないのだが、カウントしてしまえば負けのような気がしていた。


 というか、訓練をそんなに抜け出してあの子大丈夫なのだろうか。抜け出される方も悪いっちゃ悪いのだが、いくら何でも限度があるだろう。


 兄の精神衛生面の保全のためにも、騎士団の方々には頑張って頂きたく思う。


 アオイが来る以前の訓練という名の触れ合いタイムでは、如何にあの狼さんに触れるか、という事に重きを置いていたのだが、アオイが来てくれたからモフモフ分は足りている。


 あの狼にこれ以上の負担を掛けるのもなぁ、と思っていたし丁度良かった。「少しは寂しがるかな?」と期待していたのだが、今も狼さんは木陰ですこぶる快適そうに寝転んでいる。悲しい。


 いや、アオイが来てくれたからモフモフ分は足りている、足りているんだ。


 真はそう自分に言い聞かせながら訓練後にアオイの尻尾を堪能する事を決め、アオイとの訓練に励んで行く。


 とは言っても、アオイは非常に優秀なため、通常行う意思疎通の度合いを確かめたり、命令通りに動かす訓練は殆ど必要がなかった。


 そのため、騎士団の魔獣使いに見られている時には魔獣使いとしての訓練をパフォーマンスと割り切って行い、見られていない時はアオイを相手に戦闘訓練を行っている。


 アオイは騎士団の小隊を問題ともしない程強いので、訓練を始めた当初はぼっこぼこにされていた。


 最初は魔法などを色々と使ってみていたのだが、結界を使用した時に見えない壁に弾き飛ばされるという未知の体験をしたアオイがひどく不機嫌になってしまったため、魔法はアオイとの訓練中使わないことにした。


 最近はわずかにアオイの動きを見切れるようになってきて、反撃の隙を窺う余裕も出て来た。


 強くなるという事を実感しながら、訓練の日々は過ぎて行く。


 ◇


 さらに数日後、真が『心眼』という新たなスキルを獲得する等のハプニング的な物はあったものの、問題なく訓練を続けていた。


 ちなみにツバキに表示してもらった『心眼』に関する説明はこうだった。


 ◆


 スキル名:『心眼』


 視界内の対象からの攻撃の軌道が予測出来るようになる。死角からの攻撃に対しては無効。

 対象の魔力の動きも把握でき、発動のタイミングも予測出来る。


「さすがは魔王様です。このスキルは今後進化していく類いの物らしいので、伸びしろの豊富な魔王様にぴったりですね。このようにすぐスキルを自力で発現するなど、聞いた事がありません。本当に、さすがは私の魔王様です」


 ◆


 ……説明書きに感想入れるの止めよう? 魔王様、これ見る度に恥ずかしくなっちゃうよ。


 そして、『心眼』を使用する事でアオイを倒せるようになると思ったのだが、普通に無理だった。


 軌道は予測出来たし、最初はそれで避けることも反撃する事も出来ていたのだが、ムキになったアオイが本気を出して来た後は速さについていく事が出来ず、ひたすら尻尾に弄ばれていた。


 ◇


 騎士団の魔獣使いが訓練を見守っているため、魔獣使いとして命令する訓練を行っていたある日の事。


 アオイとの訓練を見ていた騎士団の魔獣使いが使い魔としての合格を出し、アオイは騎士団への申請で真所有の魔獣と登録され、晴れて真の『使い魔』となった。そもそも、眷属化によってすでに真の配下ではあったのだが、それはそれである。


 この世界で使い魔とは、魔獣そのものや魔力によって生み出される異形の物など、使役者がきちんと制御して活動させることが出来るもの全般をそう呼ぶらしい。


 ブライス王国騎士団への使い魔申請では、あくまで騎士団内でしか意味が無く、その判断基準も単に騎士団として活動に従わせる事が出来るか、という物でしかないらしい。そのうち冒険者ギルドできちんと登録した方が良い、と騎士団の魔獣使いに助言を受けた。


 冒険者ギルドはこの世界、フェノーメノに存在する各国それぞれに支部があり、ギルドに登録された情報は全国共通のものとなる。


 魔獣使いとして登録すると、職業などの個人情報と共に、魔獣も使い魔として登録してくれるらしい。


 なら冒険者ギルドに登録するだけで良かったんじゃないの、と思ったのだが、疑問が顔に出ていたのか先ほど助言してくれた魔獣使いがこう教えてくれた。


「今は君たち勇者を騎士団の指揮下に置くために騎士団で身分を保証しているけど、隣国での任務が終わった後はどうなるかわからないだろう?


 もし騎士団での保証すらなくなってしまえば、魔獣使いの使役する魔獣はただの脅威でしかなくなってしまうからね。見ると、君はきちんと名前を付けてとてもその妖狐を大切にしているみたいだし、もし討伐されるなんて事になったら嫌だろ?


 冒険者ギルドっていうのは、完全に民営なんだよ。でも、国に対してそれなりに影響力も持っている。ギルドが腐敗していない限りは、国もおいそれと手が出せなくなるよ。


 こんな特殊な機関があるのも、君たちと同じ勇者のお陰なんだ。


 かつて君たちと同じように召喚された勇者が、世界を救うために各国を巡ったんだけど、その当時は国によって同じ職業でも呼び方が違ったり、国境をまたぐ時に共通の身分証なんて無かったからとても苦労したみたいでね。


 その勇者がすべての魔王を封印した後に、世界共通の身分証や国から独立した機関を作るために奔走した結果、現在の冒険者ギルドがあるんだ。……また冒険者ギルドを設置する時にも、国への交渉なんかでまた苦労したみたいだけどね。


 結局、冒険者ギルドには騎士団も治安の関係なんかで助けられているんだけどね。


 騎士団には国民から依頼を出す事なんて出来ないけど、冒険者ギルドになら依頼を出せるんだ。騎士団は余程の事じゃないと腰が重いし、緊急性の高い依頼や魔物の討伐なんかは殆ど冒険者ギルドへ出されるよ。


 冒険者ギルドのお陰で、騎士団が魔物の討伐に出なければならない事なんて殆ど無くなったし、国民も安心して生活出来るようになった。


 両者の違いとしては、騎士団は給料を貰っている国の警備要員、冒険者は国境を超えられる何でも屋さんって感じかな。隣国を侵略してしまった魔王軍を攻める時も、冒険者ギルドに協力を要請するんじゃないかな。


 冒険者ギルドとしても、設置している国に義理立てする必要はあるだろうし、いくらかは戦力を出さざるを得ないだろうからね。特例中の特例って事になるんだろうけど。


 まぁ要するに、勇者さまさまって事さ。」



 …成る程。


 今後の展開が読めない以上、全国共通の身分証が得られるのは有り難い。


 真が魔王である事がバレそうになった場合、すぐにブライス王国を離れなけれならないだろうし。そんな中でも、妖狐であるアオイの身分が保証されるのは助かる。


「なるほど。よく分かったよ、説明ありがとう」


 真は説明してくれた魔獣使いに礼を言い、近日中に冒険者ギルドへ足を運ぶ事を決める。


 そして騎士団宿舎から出た後に冒険者ギルドの場所を聞いていない事に気が付き、あまり顔に出さないよう気をつけながら自分のアホさ加減に落ち込んだ。


 ◇


 後日、「出来る子」ことツバキさんが冒険者ギルドの場所を知っている事がわかったので、騎士団に外出申請を提出してツバキの案内で冒険者ギルドへ向かった。


 冒険者ギルドは王宮からさほど離れていない位置にあったため、何度か街角を曲がったが歩いて10分程で到着した。


 冒険者ギルドの建物には、正面の入り口に盾型の木に二本の剣が交差した絵の描かれた看板が掛かっており、その下に横長の板材に「冒険者ギルド」と書かれた看板も掛かっていた。


 外観は、看板で台無しになっている感はあるものの、年季が感じられるが汚れている訳ではない石造りの二階建てで、王宮などとは違う良さがあった。


 外観に見とれつつも、重そうな木製の扉を開きアオイと共に入り口をくぐる。一階には依頼帰りの冒険者が利用出来るシャワーや、素材の買い取りカウンター、酒場があり、真が用事のある冒険者登録の受付は依頼受付などと一緒の二階にあるようだ。


 しかし冒険者というと、地球で読んでいたライトノベルやネット小説なんかの影響から荒くれ者のイメージというか、「てめぇ先輩への態度がなってねぇなあ」とか言って殴ってくる系おっさんの群れを想像していたのだが、そんな事はなかった。


 中にいる冒険者らしき人々のの格好も、きちんと整備された鎧を身につけているからか決して汚らしくない。鎧やローブに土や血らしきものが点いている人もいるが、そういった人は依頼帰りなのだろう。


 冒険者の観察を終えて木製の階段を上ると、部屋をカウンターが二分しておりどこか市役所のような印象を受ける。カウンターの奥には職員用の机が並んでおり、さらに奥にはいくつか部屋が並んでいるようだ。恐らく所長室や応接室なのだろう。


 冒険者登録は階段から一番近い受付で出来るようなので、運が良かったのか誰も並んでいない受付へと向かう。その受付には眼鏡を掛けた色素の薄い金髪の美女が座っていた。


 名前をレーナというらしい受付のお姉さんに先ほど感じた粗暴な者がいないような気がする事について聞くと、


 「確かにそのような人も一部にはいるわ。だけど、そんな行動を繰り返していると直ぐに察知したギルドから警告が届いて、行動に反省や改善が見られなければギルド登録を抹消されるの。


 抹消手続きの時に、その冒険者がギルドに預けている金や貴重品、装備などが没収となってしまうし、ギルドへの再登録も永久に出来なくなっちゃう。


 しかもその上、今君の斜め後ろの壁に掲示板があるでしょ? あれは出されている依頼が貼り出される「クエストボート」って言うんだけど、その隣にまた掲示板があるでしょ?


 あれは「違反者ボード」。違反でギルド登録を抹消されると、どういった理由で抹消となったか記載された顔写真付きの書類が貼り出されるのよ」


 と教えてくれる。


 よく考えられているな、と感心していると、これも冒険者ギルドを設立した勇者が考案したものらしい。何と、当時は存在しなかった写真を撮るための器材などをこれの為だけに発明したのだとか。


 設立当初は、国からは圧力かけられるわ、冒険者は言う事聞かないわで余程大変だったのだろう。それである日、冒険者ギルドに冒険者の素行に関する苦情が入った際に堪忍袋の緒が切れた、という訳か。


 結果として、世界全体に対して情報発信力を持つ冒険者ギルドに顔写真付きで情報を晒されるのを誰もが嫌がり、落ち着きを見せるようになったと。


 どうやら冒険者ギルドを設立した勇者、とても有能な人物であったようだが、同時に大変な苦労人でもあったようだ。


 見た事の無い勇者に感謝と共に同情の念を抱きつつ、冒険者登録のための書類に記入をし、ステータス・プレートを提示すると手続きは終了となった。

 

 アオイも真の使い魔としてきちんと登録しておいてくれるらしい。種族が妖狐だと教えた際、レーナさんはとても驚いた顔を見せてくれた。やはり妖狐の使い魔は珍しかったようだ。しかし、驚いた顔も麗しい。


 冒険者カードが出来上がるには数日かかるとの事だったので、騎士団に連絡して貰う事にして冒険者ギルドを後にする。


 ◇


 数日後、騎士団の方へ冒険者ギルドから連絡が入り、再び冒険者ギルドへ赴き自分の冒険者カードを受け取る。


 冒険者カードは免許証のような形状で、氏名や職業、冒険者クラス、そして真の場合は使い魔としてアオイが氏名の下に表記されている。二つ名の欄もあるが今は空欄だし、今後も出来ればつけたくない。


 冒険者ギルドにはそれ以上用事が無いので、王宮へ戻る事にする。


 ◇

 

 一時間と経たずに帰って来た騎士団宿舎は、出発時と打って変わって緊張した空気に包まれていた。


 真の姿を見つけた騎士に、すぐに勇者宿舎の会議室へ向かうように促される。班分けなどを発表された部屋なので、場所は分かる。


 行きたくない、と思ってしまう。騎士団宿舎に踏み入った瞬間から、薄く血の臭いを感じている。入り口でこの臭いなら、発生源であろう負傷した騎士はとてつもない出血量のはずだ。


 嫌な予感がする。そして、嫌な予感程当たってしまう。


 しかし、行かねばならない。恐らく真たちが召喚された、原因そのものに立ち向かうべき時がきてしまったのだから。


 重い足をなんとかして運び、勇者宿舎の会議室へ入るといつにも増して厳しい表情の騎士団長から告げられる。



 「………魔王軍と名乗る、魔人の率いる一段がユルド森林を通過し、常駐していた警備隊を壊滅させブライス王国内へ侵入した。…諸君らにも、敵軍を迎え撃つ準備をしてもらう」



 日常は、またしても突如として失われる。


 この日常は、いつか終わりを迎えると理解していた。仮初めのものである事を理解していたし、諦める事も出来ていた筈だった。


 しかしながら、真の顔は絶望に染まり、何も考えられない程に打ちのめされていた。


 ◆◇◆


 主人公たちを置き去りにして、物語は緩やかに速度を上げ、結末へと向かって展開していく。


 未だ、どの結末に収束するのかを決めかねながら。


 この世界に纏わる物語は、まだ始まってもいなかったのだから。


誤字・脱字等のご指摘ございましたら、

よろしくお願いいたします。

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