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決断


この回は、真たちを呼び出す前の話です。


分かりづらい箇所があると思われますので、随時修正していきます。



 ◆◇◆


 時は少し遡り、真たち勇者一行を召喚する八日前の事。


 セイレーン王宮内の会議室で重要な事案が話し合われていた。


 「…ついに、隣国のイルソンが魔王軍に攻め落とされたか。」


 厳しい表情をしながら斥候からの報告書を読み上げた騎士団長の言葉に、溜め息を吐きながらそう零したのは、ブライス王国の若き王、アレク=セイレーン=ハイエルである。


 赤みがかった金髪に、どこか冷たさを感じさせる整った顔立ちをしており、普段なら近寄りがたく感じるその姿なのだが、現在は苦悩が雰囲気に滲み出てしまっている。


 この会議は、数日前隣国イルソンに侵攻し始めたという『魔王軍』を名乗る脅威に対して、本国に侵攻された場合どのように対処するか、隣国への支援はどうするかといった内容を決断するために開かれた。


 会議室内にはブライス王国内に領地を持つ貴族の代表が数人と、王国騎士団の団長と副団長、騎士団筆頭魔法使い、そして国政を担う大臣達がいる。


 しかし、その隣国が既に攻め落とされてしまったのだから、アレク王が溜め息を吐いてしまうのも無理はない。連日報告されるイルソンの苦戦から、いずれ攻め落とされるとは思っていたのだが、いくら何でも早すぎる。


 もっとも、このような会議を開くまでもなく急な状態で戦力を増強するために出来る事など、冒険者ギルドに恥を忍んで協力を要請するか、王宮に代々伝わる『勇者召喚の儀』を実行するか、のどちらかしかない。


 冒険者ギルドに対し協力をするのは、実際問題として急務である。いつ魔王軍が攻め入って来るか分からない現状、すぐにでも協力を取り付ける必要があった。


 しかしながら、百年程前に魔王を討伐させる為だけにこの国が勇者を召喚し、そして王国側が召喚するだけして殆ど援助などしなかったその勇者が、世界中を奔走して現在は世界的な影響力を持つ機関を設立した、という引け目がある。


 冒険者ギルドによる魔物討伐などの恩恵は国民のみならず、王国にも及んでいる。騎士団の実施訓練中、魔物の群れに遭遇する事が少なくなり、そういった訓練中の事故による死亡率が以前とは比べ物にならない程に低くなった。


 魔物を冒険者が間引く事により、国民は安心して生活する事が出来るようになり、領地を持つ貴族達も農地の開拓をさらに進める事が出来るようになって、ブライス王国内の経済にも好影響を与えている。


 自分たちが召喚した勇者であるにも拘らず、その勇者が設立した冒険者ギルドの設置を最後まで渋ったのは何と当時のブライス国王らしい。プライドだけはやけに高く持っていたようだ。


 以前から冒険者ギルドとの間に存在する大きな引け目については理解していたが、確かにこれはあまりにも酷い。現在、会議室にいる面々が苦渋の色を浮かべているのも頷けるというものだ。


 しかし、過去の過ちはいつか清算せねばなるまい。


 「…よし。至急、冒険者ギルドに協力要請を出せ。隣国が攻め落とされたという情報は、ギルド上層部までに止めておけ。冒険者には近々、大規模な緊急依頼が入ると噂を流し準備を進めるようギルド側に促してもらおう」


 アレク王はそう決断した。


 「し、しかし!」


 「これは決定だ。現状はかつてない程に切迫している。そんな状況の中、いつまでもプライドに縋るなど無様を見せるつもりはない。我が守らねばならないのはそのようなプライドではなくこの国、そして民たちだ。これ以上この件について議論する必要はない」


 反射的にセイレーン近郊に領地を持つ大貴族の老人が反発するが、即座に黙らせる。


 この老人は確かに古くから王国に仕えてきた家の末裔ではあるが、最近の代にいたっては大した功績を出す事もなく甘い汁を啜っていると聞く。


 「もしもこのまま戦争状態に入った場合、領地も見直さねばならないだろうな。戦争で大きな功績を上げた者には褒賞を出さねばならぬし、望む者には爵位を与える事も考えている。せいぜい遅れを取らないことだ」


 脅しのようになってしまったが、これも以前から考えていた事だ。通常の状態では反発が大きさが懸念されて実行出来ずにいたが、この状況を利用して実行に移してしまおうと考えた。


 近年は私腹を肥やす貴族が増えて来ているようで、領地内で生産される農作物や鉄鋼などの生産効率が目に見えて低下してきているのだ。もちろん、農作物は天候に大きな影響を受けることや鉱石の採掘は鉱脈に影響される事は理解している。


 実際、領地内に鉱山や農地を持つ貴族からはそのような言い訳がなされた。しかしながら、鉱石の産出量はともかくとして、農作物の産出量がそれぞれの貴族領で軒並み下がるのはブライス王国の立地上ありえないのだ。


 ブライス王国は西方にピレナル山脈という壮大な山々があり、西隣のベルエール帝国との国境としての役割を持つとともに、王国側ではその山々から鉱石が採掘されている。


 そして帝国方面から年間を通し、山を超えて乾燥した空気が吹き込んで来る。そのため、西方では乾燥した気候でも育つ麦などが主な農産物となっている。


 しかし、この乾燥した風の影響を受けるのは西方に限ったことであり、ブライス王国は北南を海に挟まれているため多様な変化を見せるが、貴族たちの言い訳のように乾燥が続くことはないだろう。


 連作障害を避ける為に農地を休閑期を設ける必要がある事も理解しているが、いくら彼らとて農地の全てが一斉に休閑期に入るような愚かすぎる農耕はしていないだろう。


 要するに、貴族たちの誤摩化し方が杜撰すぎるのだ。


 平和に慣れてしまうと、こういった問題も起こって来るのだと王は身を以て理解する事になるのだった。


 ◇


 「…話が逸れてしまったな。冒険者ギルドの件については以上だ。ギルドとの交渉には財務大臣に一任する。褒賞などの交渉は任せる」


 「ハッ!」


 「次は……『勇者召喚の儀』、か…」


 「陛下、恐れながら申し上げますが、儀を行うのであれば迅速なご決断を」

 

 気の進まない様子のアレク王に向かい、すかさず筆頭魔法使いが毅然とした態度で言う。


 「無礼だぞ!」


 「よい、続けろ」


 貴族の代表の一人が突然発言した筆頭魔法使いに噛み付くが、続きを促す。


 「…ありがとうございます。陛下、魔王軍を相手取る事が出来る程の『勇者の儀』は大掛かりな物となるため、準備には一週間程かかってしまいます。もし召喚に成功したとしても、即戦力という訳には行かないでしょう。そうですね、騎士団長殿?」


 「う、うむ。その通りだ。召還後には作戦行動が取れるようにするためにも、短くて二週間程かかってしまうだろう」


 「やはりそうですか…陛下、魔王軍がこちらに矛先を向けるまでどれだけの時間が残されているのかわからないのが現状です。今すぐに準備を初めても、間に合わない可能性さえあります。どうか、ご決断を」


 

 「……『勇者召喚の儀』のすぐに準備を進めろ。地下の神殿へ入る事を許可する」



 アレク王は、出来る事ならこの儀式を行いたくはなかった。


 国王として、守るべきはこの国とその国に住まう民である。それは揺るがない。


 しかしながら、召喚される勇者はいつも15歳程の若者だと伝えられている。そのような若者たちを、この国の事情だけで一方的に呼び出し、死ぬ可能性もある事態に巻き込んでしまう。


 その事に、どうしても拒否感を覚えており決断に踏み切れずにいたのだ。


 だがもうアレク王は舵を切ってしまった。事態は来る戦争へ向けて明確に動き出し、後に引く事は出来なくなってしまった。


 ならばこのままの方向で、まだ見ぬ勇者たちが出来るだけ命を散らさぬよう、かつ国民たちを失わずに済むよう、最善を尽くそう。


 貴族の中には、かつて冒険者ギルドを設立した勇者が見せたような影響力を懸念し、利用した後は処分すべきだと主張する者もいるが、使い捨てのような真似を許せる訳がない。


 勇者達を如何に保護すべきか、思考を巡らせながらもこの重要な会議は終わりを迎えた。


 ◆◇◆


 そしてその八日後、真とアレク王は何とも間の抜けた出会いを果たす事になるのだった。




誤字・脱字等のご指摘ございましたら、

よろしくお願いいたします。

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