Ep.38 春風と指針
方針決定、剛柔相済
お昼を食べるために食堂に行くと、
15センチほどの茶色い物体から、緑や赤の具材がはみ出している。
「…大家さん、これはなんという料理ですか?」
「これも初めてかい?これはだね、BLTサンドというらしい。
かあさんがさやから聞いて作ってみた、といってたな」
「BLT?何かの略なのですかね?」
「食べてみたら分かるで。ほれ、食ってみぃ」
カリッと焼かれたフランスパンに、
がっしりと持たないと中身がこぼれるほど具材がふんだんに挟まれている。
晴明はできるだけ大きく口を開けてかぶりつく。
次の瞬間、思わず大家さんの方を振り向いた。
「美味しいです。それぞれの具材の調和が素晴らしい」
大家さんが笑いながら言う。
「これ、うまいな。もう一つ食べれるかも」
そう言いながら大皿にのっているBLTサンドに手を伸ばそうとするが、
おかみさんが慌ててやってくる。
「おとうさん、ダメですよ!いつもそうやって食べすぎるとお腹壊すのですから」
「いや〜、かあさんの腕がいいからな」
だめ?と言わんばかりに大家さんがおかみさんに上目遣いで訴える。
おかみさんはやれやれと首を振る。
「…おかわりは半分だけですよ」
「そうこなくっちゃ」
大家さんはにっこりと笑いながら半切れのBLTサンドを手に取る。
ふと大家さんが晴明に話題を振る。
「ところで安倍くん。このサンドの中身はわかったかい?」
もごもご食べながら晴明は頷く。
「…ベーコンとレタスとトマトですね。この3つがこんなに合うとは思いませんでした」
すると、おかみさんが何かを入れた小鉢と箸を持って食卓に加わる。
「ここにこれを加えると、ちょっと大人な味になるんですよ」
そういって見せたのはオリーブの塩水漬けをスライスしたものである。
晴明のおかわり用のサンドに、オリーブを三切れほど挟んで手渡した。
すっかり現代の食に対して警戒心を無くした晴明は、躊躇いもなくかぶりつく。
顔がまた綻ぶ。
「…味に深みが出て、これも美味しいですね」
おかみさんが他のサンドにもオリーブを挟み込みつつ穏やかに説明する。
「これはあまり入れすぎないことが大事ですね。
味にメリハリをつけるのにいいんですよね」
晴明は食べながら、ふと考えをめぐらせる。
『でた、メリハリ。現代はこのメリハリというのが重要になるんですかね』
この男、食事でも気づくことがあると途端に策士モードになるみたいだ。
食後のホットコーヒーを飲みながら、大家さんが晴明に問いかける。
「安倍さん、今日は外に出ないんかい?」
晴明は啜っていたコーヒーを置きながら答える。
「どうしようかなと。
やらないといけないことはあるんですが、一区切りついたというか」
「では、今日は天気がいいから散歩してきたらどうや?
ずっとこもっているのは勿体無いよ?」
「それはよろしいですね。ではこれを飲み終えたら少し出かけてきます」
どこに行きましょうかね、と思いながら晴明は残りのコーヒーを飲み干した。
晴明はノートパソコンをカバンに入れて外に出ると、春の日差しが心地よい。
ポカポカした陽気の中、晴明は行くあてもなくフラフラ歩く。
すると、小さな公園があり、ベンチが空いている。
人気がなく、静かな空間である。
そこに腰掛け、晴明は自分の膝の上にカバンを置き、その上でノートパソコンを開く。
『せっかくなので、デジタルワークスペースに投稿してみましょうかね』
慣れないタイピングではあるが、ポチポチと内容を入力する。
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【調査の指針】
・京の結界をすり抜ける光線の正体を突き止める(疫病といったものは引き起こしていなさそう)
・光線が人やこの世の中にどう影響を与えているのかを調べる。
もし光線が人に悪影響を与えるものであるならば、それを防ぐ方法を模索する。
【方法】
・光線の観測(いつ、どこで、何が、どのようになど)
・現代を知る(対象:私、式神様)
・能力の向上(レベルアップ、というのでしょうか)
・役割分担
補足
・一人でやるのではなく、役割を分担して行う
・式神様の能力を今一度把握をしたり、伸び代のあるところを学習してもらう
・勉学については大学関係者に協力を仰ぐ
今後の予定
・適性検査で調べる内容を精査、その手段の模索
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「こんなところですかね」
デジタルワークスペースに投稿を終えた晴明は、
パタンとノートパソコンを静かに閉じ、小さく息をついた。
ふと見上げると──
満開の桜が風に吹かれて揺れている。
まるで、晴明の指針を「是」と言わんばかりである。
大学生活はまだ始まって3日目なので、作中はまだ春です(笑)




