第二次異能大戦 #prologue『you』
二人、その身体の大部分を消失したぐちゃぐちゃの巨人の上で、肩を寄せ合っていた。
リュカの必死の介抱によってなんとか回復に向かったイルフェリータの傷は、しかしリュカの心配に留まり続ける。
圧倒的な破壊力によって大怪我を負った二人は、なんとかぐちゃぐちゃの巨人によじ登り、生き残っていた『アリス』の力で治療器具を増幅した。
互いに互いの傷を処置して、くすぐり合って笑みを溢して。そんなほんわか空間を終えて、リュカは、イルフェリータは、腰かけた巨人の上で、目線の先の空を眺めていた。
「ねえ。」
「はい。」
小さく、イルフェリータが問いかけた。
どこまでも優しく、それでいて、どこまでも自分勝手な男の声が、包み込むように返事をした。そこに込められた親愛に、それにしたためられた愛情に、そこから溢れ出す恋情に、切り出したイルフェリータの方が手の甲で顔を隠して羞恥を逸らした。
一通りきゅんきゅんしたところで、イルフェリータは肺腑いっぱいに取り込んだ空気を精一杯の一声に込めて切り出した。
「アタシ、その……」
「あの!」
イルフェリータの言いにくそうな声を遮って、リュカはイルフェリータの上目遣いの瞳を真っ向から見つめた。
白い前髪に透ける瞳が、美しかった。爆撃によって焦げてしまったそれすらも、些かワイルドな戦化粧に見えて可愛らしいというのは、溺愛を越えて猟奇的だろうか。
しかし、そんなことを血迷ってしまうほどに、彼女の上目遣いは反則的に可愛くて、リュカはイルフェリータに弱いのだ。
だから、言わせてもらおう。
ただ、自分のために。それでいて、イルフェリータのために。
これからの未来のために、世界に歯向かう意志のために。
「もし、嫌じゃなかったら。……その、ボクと一緒に」
「うぅぅ……」
泣いた。
プロポーズ紛いのことを言おうとしたリュカに、イルフェリータは潤ませていた瞳をとうとう決壊させて泣き出した。といっても、もちろんリュカはまだ肝心なところを言っていないわけで、途中で遮られたわけで。
「って、まだ言ってないじゃないですか!」
「だ、だってぇ……」
思わずその頬をぷにっ、と掴んでぐりぐりと感触を堪能してしまうくらいは仕方がなかっただろう。
締まらないな、とどこか嬉しそうにため息を吐いて、いつの間にか、こんなにも可愛らしくなった少女に和んだ瞳を向けて。
リュカのその瞳に見つめられて、イルフェリータはどうかした?とでもいうようなキョトンとした瞳を返した。まだ涙交じりのその宝玉のような瞳は、澄み切った白亜に滲む黒を輝かせて続きを憂う。きっとその瞳は、何より美しい。
些か早すぎるフライングをしたイルフェリータに、すっかり緊張など吹き飛んだ様子で。リュカは小さく口づけをした。
まだ欲しがるような目線を向けたイルフェリータにもう一度長めにキスをして、離れようとしたら押さえつけられて。やっとのことで満足してくれたイルフェリータに向き直り、リュカは赤い顔で言った。
「ボクと一緒に、居てくれませんか?」
その異能大戦の世界で。
小さなレジスタンスで。
「うん!」
リュカと同じように、赤い顔で。何よりも幸せそうな表情で。
イルフェリータは、どこまでも。イルフェリータらしく笑うのだ。
第二次異能大戦(1)