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最終話 異世界料理店

作品情報 

 前回の予告で過度の期待をしてしまった紳士淑女の皆様、残念なお知らせです。当作品は健全な青少年の良い子のための小説です。卑猥な表現(仮)は一切含みません。えっちなのはいけないと思います!

 翌朝、俺はいつも通りベッドの上で目を覚ますと、隣には綺麗な緑色の肌を晒したレインが寝息を立てていた。俺はレインの姿を見ると、昨日の出来事がリアルに思い出せてきた。


「夢じゃなかった……よかった」


 本来なら昨日のあの後、俺が彼女にベッドに押し倒されて、俺たちがいかに愛を育んだとか、俺のきゅうりがだいこんになってとろろぶっかけとか、そういう話をそれなりにすべきなんだろうが、今一度それを思い出して説明するのは恥ずかしいので省くことにする。まぁみんなで勝手に想像してくれ。


 俺はレインがまだ寝ていることをいいことに、横たわってもなお悠々とそびえる大双丘に顔を挟まれることにした。


 布団をめくり、レインの腕をちょっとどけて、俺は一呼吸おき、入山した。感じる肌の温かさ、柔らかさ。心休まる優しさを、与えてくれている。目を閉じれば、そこはさながら理想卿。偉大な愛に包まれているような……。俺はゆっくりと深呼吸した。


「ああ、神様、ありがとうございます」


 俺は神に感謝した。俺を異世界に連れて来てくれてありがとう、と。本来なら感謝されるべきはレインの方なのだが……。

 

 そこで俺は気づいた。俺の後頭部が誰かに触れられていることに。誰といってもレインしかいない。


「おはよう」


 レインの声だ。おお! なんということだろう、レインは起きていたのだ。俺が気づかれないと思い込んで、登山を楽しんでいる間に、レインは目を覚ましていたのだ。


「ごめんさない!」


 俺は瞬時に謝った。しかしレインから離れることはしなかった。どうせ怒られるに決まっている。「おどりゃ、チ*ポ逆剥けにしたろか」くらいは言われるはずだ。それならば今更離れたところで許してもらえるはずがなく、どうせ怒られるなら少しでも多くこの素晴らしい時を過ごしたいと思った。なにか俺おかしいこと言ってます?


「どうして謝るんじゃ? わしはレインが元気になって嬉しいぞ?」


 俺は泣いた。久々に声を上げて泣いた。その聖母のような慈愛に俺は涙が止まらなかった。レインはなんて素晴らしい女性なのだろう。さっきまで「俺のきゅうりがだいこん」とか言っていた俺が悲しい。


「レイン、ありがとう」


「おう、そうじゃろうが」


 そう言ってレインは俺の頭をガシガジと撫でた。


「さて、飯にするかの。今日からあの目玉焼きを出すんじゃろう?」


 レインはガバッと起き上がった。もう少しあの感触を楽しみたい俺であったが、これ以上はさすがに怒られるかなと思い、口には出さなかった。


 しかし、目玉焼きか。正直昨日のみんなのリアクションのせいで出す気がなくなってしまったのだ。でも慌てることはない。実は俺はそれに代わる新メニューを今さっき思いついたのだ。


「なあ、目玉焼きじゃなくて、ほかに出したいメニューがあるんだ」


「ん、なんじゃ?」


「それは……」


 それは、さっきレインの愛に包まれているとき思い出した。





「『オサム・カワハラ』が本日臨時休業とはどういうことだね!? なぁ君?」


「全くです先生! せっかく我々が足を運んだというのに!」


 俺とレインが買い出しから店に戻ると、キングさんとその取り巻きの男が店の前にいた。どうやら、看板に貼ってある「臨時休業」の文字に驚いているらしい。


「どうしましたキングさん?」


「ああ、カワハラさん! どうしたんですか今日休みって?」 


「ええ、ちょっと新メニュー開発を、と思いまして。ところで何か用事でも?」


 するとキングさんは申し訳なさように。


「実は昨日私が失礼なことを言ってしまったことをお詫びにと伺いまして。なぁ……君?」


「はい、私からもお詫び申し上げます」


 そして二人揃って頭を下げた。そんな二人に向かって俺は言った。


「頭を上げてください! 確かに料理にインパクトがなくなってきたということは、私も感じておりました。昨日お二人に言っていただけて、自分の料理を見直すいい機会になりました」


「カワハラさん……」


「なので、しばらくは店を休んで新メニューの開発に取り組みたいと思います。大丈夫ですよ、もうどんな料理にしようかは考えてあります。あとは細部を調整して、数日後には店を再開しようと思っています」


「そうですか、それを聞いて安心しました。それではカワハラさん、レインコートさんも。より素晴らしい料理、楽しみにしておりますぞ! なぁ君!」


「はい! 再開したと聞けばすぐに駆けつけましょう」


 そう言って、二人は去っていった。彼らに最初会った時、ちょっと嫌な奴らだと思ったものだが、今ではなんだかいい友人のような関係になってしまったなと、俺は思った。


「ふふっ」


「なにオサム笑っとんじゃ?」


「なんでもねーよ。さあ、全く画期的で先進的な新メニューでも開発するかな!」


 俺は自信を取り戻していた。さて、これから俺が生み出す料理で、俺の店をこの王都で唯一の存在にしてやるぜ!




 あれから1ヶ月後、俺の店は以前にも増して繁盛していた。その大きな原因こそが、メニューの刷新だ。今まで出していた料理(とも呼べないようなもの)たちを軒並み取りやめて、ある一つの料理の専門店にしたのだ。

 

 その料理こそ「焼肉」である。それを思いついたきっかけはあの夜、レインの「(きゅうり)専門店にすれば〜」という発言、そしてレインの身体に包まれたあの感触、そう……『肉』だ。ああ、肉! そうだ肉があるじゃないか! なんで今まで思いつかなかったんだ! 肉なら市場でも安く買えるし、ただ焼くだけで焼肉という脳を揺さぶるような料理に昇華する。ただ焼くだけで画期的となるここでは、まさにうってつけの料理じゃないか! 


 この世界において肉というのは、当然生肉で、生臭く、血が滴り、非常に好き嫌いが分かれる食材である。それを切って、焼いて、味付けして、それだけでどれほど革新的なことなのか、まさかまだ分かっていないという人はいるまい。そう、俺は地球人から見れば石器時代ですか? と思われそうな「ただ肉を焼くだけ」という調理法を武器に、俺の店を王都一にしようとしたのだ。

 そしてその結果、大当たり! 焼き芋やスープと違って焼肉の味の破壊力は半端ない。初めて食べた瞬間、この世界の人だって虜になるに違いないと思っていた。そして日本でもそうだったように、焼肉屋は焼肉一本でも十分やっていけている。つまりいろいろ新メニュー開発に苦心しなくてもよいのだ。しかも焼肉屋は世界中に一軒、ただ俺の店だけ! これで繁盛しないことがあろうか!


「どうしたんじゃ、いやらしい笑みを浮かべて。また金のことでも考えとるんか?」


「ウェヒヒ、俺の輝かしい未来を想像してな……」


「もう、そこは”俺たち”じゃろぅ?」


 レインもこの焼肉屋一本に絞ることに賛成してくれたし、焼肉自体も気に入ったようだ。まぁ一番気に入ったのは、きゅうりのキムチだったがな。きゅうりって摂取カロリーよりも消費するのにかかるカロリーの方が多いんだぜ、もう存在理由が分からねぇよな。


 その時、店のドアが開いて、お客さんが入ってきた。というかキングさん達だった。


「いらっしゃいませ、キングさん」


「カワハラさん、ご無沙汰です。新しく始められた『焼肉』という料理。噂は聞いてますよ。一度食べたら病みつきになるとか」


「はっはっは、実はそうなんですよ。どうぞ、席にご案内します」


 俺はキングさん達にも焼肉を食べてもらおうとした。というか食べに来たのだと思っていた。しかし、それはどうやら違うみたいで


「いえ、申し訳ないが、今日はカワハラさんにこれをお渡ししたくて」


 キングさんは俺に一枚の紙を渡してきた。


「なになに……『王都一料理会』?」


 なんなんだこの少年バトル漫画みたいな大会は!?


「カワハラさんの影響もあって、最近王都で料理店が乱立しているのでしょう。なので、王都で一番美味しい料理店はどこかを決める大会を開こうではないかということになりまして。当然カワハラさんは出ると思いまして、お知らせに参りました」


「なるほど……」


 王都一料理会、もしこれで優勝できれば、王都中の料理店のトップに立てる。すると「オサム・カワハラ」の地位は確固たるものになり、王都唯一の店になるという夢が叶えられるわけである。

「キングさん、俺は出ます。当然!」


「そう言うと思いました。実は私たちは運営委員を務めることになりましてな、なぁ君?」


「はい先生、いくらカワハラさんとはいえ、私たちは公明正大なジャッジを行いますよ」


「ええ、望むところです」


「これは頼もしいですな、私たちはこれから予定が入っておりまして。焼肉は味わってみたいのですが、今日のところはこれで失礼します」


 キングさん達が店を去った後、俺は優勝した時のことを考えて一人ニヤニヤしていた。


「どうしたんじゃ、いやらしい笑みを浮かべて。また出世のことでも考えとるんか?」


「ウェヒヒ、俺たちの輝かしい未来を想像してな……」


 さあ、俺たちの異世界料理店はこれからだ!




「料理文化のレベルが異常に低い異世界にやって来た主人公が料理店を開く話」おわり

次回 『天下一料理会』

オサムたちの料理はまだまだ続く 

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