第20話 花火はどこだ
「今日、六か所から同時に花火が上がるんやて!」
レッドが持ってきた話に、ホワイトも目を輝かせた。
「六か所やで! 六か所! いっぺんに全部見られたら最高やなぁ!」
「そんな場所、あるんかな?」
イエローが首をかしげる。
「高い場所なら見えるかもしれないな」
ブルーはそう言うと、さっそくパソコンを開いた。打ち上げ場所と方向を調べ、地図とにらめっこを始める。
「よし。だいたいの方向は分かった。見晴らしのいい場所を探せば、六か所とも見られる可能性がある」
「ほな、そこへ行こー!」
レッドはもう出発する気満々だ。
そのとき、柳生が得意げな顔で現れた。
「諸君! 今回は私に任せたまえ!」
後ろには、見慣れないロボットがいる。大きな荷物を運ぶためのロボットらしいが、どうにも動きが怪しい。左右に揺れながら、何か大きな板状のものを運んでいた。
「なんや、それ?」
「これは、どこでもドア運搬専用ロボットだ!」
「どこでもドア?」
「そう! これさえあれば、見晴らしのいい展望台まで一瞬だ!」
柳生が胸を張った。
「わざわざ山を登る必要などない。ドアを開ければ目的地だ!」
なるほど、だから専用ロボットまで連れてきたのか。
へっぽこロボがガタガタと荷物を下ろす。危うくドアごとひっくり返りそうになったが、なんとか持ちこたえた。
柳生は意気揚々とドアを開けた。
ところが、その向こうに見えたのは展望台ではなかった。
青白い巨体に、ゆっくりと漂う六つの光球。
「……またお前か」
和歌山蒼龍の姿があった。
柳生は無言でドアを閉めた。
「……あれ?」
もう一度開ける。
やっぱり蒼龍のいる場所だった。
「おかしい! 目的地を設定したはずなのに!」
「柳生さん、これほんまにどこでもドアなん?」
レッドが不思議そうに覗き込む。
「もちろんだ! ただ、少々調整が必要なだけだ!」
結局、柳生は展望台までドアを運んでから再挑戦すると言い張った。
「なんでわざわざ持っていくんやろ……」
グリーンは呆れ顔だったが、へっぽこロボは再びドアを背負い、ガタガタと山道を進み始めた。
山道の途中、道端にカモシカちゃんが立っていた。
レッドが「あっ、カモシカちゃんや!」と声をかけると、カモシカちゃんは一瞬こちらを見ただけで、静かに山の中へ消えていった。
その先では、突然茂みが大きく揺れた。
ガサガサッ!
飛び出してきたのはイノシシだった。
「うわっ!」
レッドとホワイトが飛び上がる。二匹は競争するように走り出し、グリーンが慌てて追いかけた。
「お前ら、そっちは展望台と違うぞ!」
後ろでは、へっぽこロボがドアを背負ったまま、転びそうになりながらついてくる。
柳生の「ゆっくり運べー!」という声が山道に響いた。
ようやく展望台にたどり着いた。
眼下には山並みが広がり、遠くまで見渡せる。これなら花火も期待できそうだ。
ブルーは地図で確認した方向にカメラと三脚をセットした。事前に打ち上げ場所を調べていたおかげで、撮影の準備も迷いがない。
その間、柳生はというと、さっそくどこでもドアの調整を始めていた。
「よし、今度こそ!」
ガチャッ。
ドアの向こうには、やっぱり蒼龍がいた。
柳生はすぐに閉める。
もう一度。
ガチャッ。
「……またお前か?」
蒼龍の声が聞こえた。
柳生は首をひねり、何度も設定を確認する。へっぽこロボも心配そうにドアの横で揺れている。
「おかしいなぁ……。場所は間違っていないはずなのに……」
レッドはその様子を見て、けらけら笑った。
「もうええやん! 蒼龍さーん!」
ドアを開けたまま、レッドが大声で呼びかけた。
「今日は花火があるんや! 一緒に見よーっと!」
ホワイトも横から顔を出す。
「六か所から同時に上がるんやで! きっときれいやでー!」
蒼龍はしばらく二匹を見つめていたが、やがてドアの向こうから姿を現した。
「……仕方あるまい。たまには花火もよかろう」
「やったー!」
柳生は複雑な顔をしていた。どこでもドアの目的地設定には失敗したが、結果的に蒼龍を呼び出すことには成功してしまったのだ。
日が暮れ、展望台の周囲が少しずつ暗くなってきた。
イエローはピクニックシートを広げ、お菓子を並べた。今日はゆっくり花火を見るつもりだったのだ。
ピンクもリュックから小さな茶器を取り出す。ケロ助はいつものように肩から降りて、隣にちょこんと座った。
「ケロちゃん、お茶どうぞ」
「おおきに。花火見ながらのお茶はええなぁ」
ブルーはカメラの最終確認を済ませ、静かに空を待っている。
グリーンも、実は出発前にブルーから打ち上げ方向を聞いていた。レッドとホワイトの面倒を見ることになるのは分かっていたが、花火を見逃すつもりはない。
一方、レッドとホワイトは少し離れた場所に陣取っていた。
「ここ、めっちゃ見晴らしええでー!」
「ほんまや! 最高やな!」
二匹は満足そうに並んで座った。
やがて、遠くから低い音が響いた。
ドーン!
花火が始まった。
ブルーのカメラが動き出す。計算した方向に、次々と大輪の花が開いた。
「よし。狙いどおりだ」
グリーンも、あらかじめ聞いていた方向を見て、花火を楽しんでいる。
ところが、イエローは大忙しだった。
「あっちにも上がった! えっ、今度はこっち!?」
六か所の花火は、思っていたより広い範囲に広がっていた。シートの上で落ち着いて見るつもりが、あっちを向いたり、こっちを向いたり。お菓子を手に持ったまま、何度も場所を移動する。
「ちょっと待って! お菓子を置いていかれへんやん!」
ピンクはそんな騒ぎをよそに、ケロ助とお茶を楽しんでいた。
「きれいやなぁ、ケロちゃん」
「ほんまや。こっちの花火も、あっちの花火も見えるで」
その頃、レッドとホワイトはというと……。
ドーン!
「おっ、上がったで!」
レッドが空を見上げた。
しかし、そこには何もない。
「……あれ?」
ホワイトも反対側を見た。
「こっちちゃうん?」
ドーン! ドーン!
音は聞こえる。確かに花火の音だ。
なのに、どこにも花火が見えない。
「おかしいなぁ。音はするのに花火はどこや!?」
二匹は走り出した。
あっちへ行っては空を見上げ、こっちへ戻っては首をひねる。展望台の周囲を行ったり来たりしているうちに、花火はどんどん進んでいった。
ブルーは計算どおりに撮影を続け、グリーンはちゃっかり花火を満喫。イエローはお菓子を抱えて右往左往。ピンクとケロ助は最後までお茶を楽しんでいた。
そして、最後の花火が夜空いっぱいに大きく開いた。
ドーン!
ひときわ明るい光が消えると、夜空は静かになった。
「終わったな」
ブルーがカメラを確認する。
「六か所とも撮れた。計算どおりだな」
「いやあ、きれいやったなぁ」
グリーンも満足そうだ。
イエローはようやくシートに戻り、残ったお菓子を片付け始めた。
「忙しかったけど、楽しかったね!」
ピンクも微笑む。
「うん。ええ花火やったなぁ」
そこへ、息を切らしたレッドとホワイトが戻ってきた。
「おーい! 花火どこやー!」
「みんな、見たんか!?」
「見たでー!」
「きれいやったで!」
「写真もばっちりだ」
ブルーがカメラを見せる。
二匹は目を丸くした。
「……え?」
「もう終わったん?」
グリーンがあっさり答える。
「終わったで。五分ほどやったな」
「五分!?」
レッドは信じられないという顔で叫んだ。
「そんなはずないやろ! まだ上がるはずやー!」
ホワイトも負けじと声を上げる。
「そうや! まだまだやで!」
「アンコールや! アンコールがあるんや!」
「そうやそうや! もう一回やー!」
二匹はその場に座り込み、空を見上げた。まだ花火が上がると信じて疑わない。
「もう帰ろうよ。夜も遅いし」
イエローが片付けを終えて声をかける。
ピンクも茶器をしまいながら、ケロ助に話しかけた。
「ほな、帰ろか。ケロちゃん」
「せやなぁ。夜は冷えるしなぁ」
グリーンも呆れ顔で二匹を見た。
「お前ら、置いていくぞ!」
そのとき、蒼龍の低い声が響いた。
「……いいかげんにせい」
レッドとホワイトはぴたりと動きを止めた。
「は、はい……」
さすがの二匹も、蒼龍の一言には逆らえない。
帰り支度を終えた柳生は、最後にもう一度どこでもドアを開いてみた。
ガチャッ。
やっぱり、蒼龍のいる場所に繋がっている。
蒼龍はドアの向こうを見て、少しだけ呆れたように言った。
「わしはそろそろ帰るわ」
そう言うと、蒼龍はドアをくぐって帰っていった。
レッドはその様子を羨ましそうに見送った。
「ええなぁ。蒼龍さんはドアで帰れて」
ホワイトも頷く。
「ぼくらもドアで帰りたかったなぁ」
柳生はドアを見つめ、しばらく考え込んでいた。
「……やはり、ポンコツどこでもドアだったか」
グリーンは大きなため息をついた。
「もうええ。わしらは歩いて帰ろう」
「しゃあないなぁ。歩いて帰ろか!」
レッドはすぐに気を取り直した。
「来年は絶対、全部見るで!」
「せや! 来年こそアンコールや!」
「花火にアンコールはない!」
グリーンの声が、夜の山道に響いた。
みんなの笑い声が遠ざかっていく。
空にはもう花火はなかったが、レッドとホワイトだけは、帰り道でも何度も振り返っていた。
来年こそは、六か所全部見るつもりらしい。
……まずは、花火の見える場所を探すところから始めなければならないのだが。
おしまい。




