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横須賀への旅

休暇も、今日合わせて残り2日となった頃。

瑞穂は父親に呼ばれて、彼の自室に向かっていた。自室に着いてノックをし、許可を貰ってから入る。

そこには書斎机を挟んで、2つの椅子が置いてあった。もちろん、父親は奥側の椅子に座っている。


「来たか、瑞穂。…まあ、座れよ。」


父親にそう言われ、瑞穂は席に着く。

そして珍しく真剣な顔で会話が始まる。


「知っての通り、お前がこれから配属される横須賀海軍航空隊は、海軍屈指の精鋭部隊だ。そして、格闘戦至上主義の場でもある。…お前は格闘戦で勝って一撃離脱を認めさせると言っていたが、精鋭・エース達にお前は勝てるか?」


そう、瑞穂が配属される航空隊。横須賀海軍航空隊は海軍で最初に作られた航空隊で、教育・研究開発・最先端テストを行う、超エリート部隊なのである。そして、格闘戦至上主義の聖地でもある。


「勝てる…と言いたいところですが、正直分かりません。でも、遅れを取ることは無いと思います。」


その言葉を聞いて、父親はほっとする。


「ふぅ、その言葉を聞けてよかったよ。瑞穂が弱腰になっていたらどうしようかと思ってな。」


そんな父親の言葉を聞いて、瑞穂は緩くなる。


「…はぁ、僕を試してたんですか?僕が弱腰に?なるわけないでしょう。逆に相手がエースでわくわくしますよ。」


「はははっ!そうかそうか、お前はそんな奴だったな。確かにお前が妹以外が原因で落ち込んでる所は見たことがないからな。」


「うるさい!!仕方ないだろ、あんなに可愛い妹に嫌味言われたら誰でも落ち込むだろ。不可抗力だ!」


いつの間にか、真剣な空気は無くなり、ゆるゆるな空気になっていた。


「それで?具体的にはどうやって勝つつもりなんだ?」


「えっとですね、格闘戦はやりますが五分五分といったところでしょう。なので、オーバーシュートなどで背後を取ります。」


「それで、暇な時に模型を使ってやっているイメージトレーニングは役にたってるのか?」


「うーん、正直なところ、実戦で使ってみないと分かりません。でもどういう機動をやってみようという発想は浮かんできたので役にはたってると思います。」


そんなこんなで父親との会話は、真面目2割・雑談8割で終わった。


―――――――――


次の日、瑞穂が家を出るため身支度を整えている頃。千代田が瑞穂に話しかけてきた。


「お兄ちゃん、本当に行っちゃうの?」


「…行かないと、軍法裁判だからね。」


「そっか…」


そう言い、千代田は悲しそうに俯いてしまった。それを見て瑞穂は内心めっちゃ焦りながら、こうなることを予想しており、渡すものを準備する。


「ち、千代田。君にはこれをあげよう。」


それは瑞穂がイメトレで使っていた飛行機模型だった。


「そんなの…要らないわよ。あんたが作ったんだから、あんたが持っときなさいよ。」


ひどい、


「ひどい!せっかくプロペラも付けて、取り外し式の主脚までつけたのに!」


「なんでそんなにこだわってるのよ!!」


「だってぇ、千代田に渡すって決めてたからぁ。いいものにしたいなぁってぇ。」


あ、泣きそう。瑞穂が泣きそう。


「…分かったわよ。そんなに言うんだったら貰って部屋に大切に飾っておくわ。」


「いや、これちゃんと飛ばせるから投げて遊んでもいいよ。」


え、マジ?…というか開き直りはや!?


「え?本当に?」


「伊達に航空隊やってないからね。空気力学もバッチリよ!」


そう言って模型を手に取り、飛ばして見せた。普通に5mぐらい飛んだ。怖、


「ちなみに主脚付けたらバランス崩れて落ちるから気を付けてね。主脚がもげるから。」


「そ、う、なのね?」


ほら、千代田も困惑してるよ。


「…でも、壊すと嫌だからやっぱり飾っておくだけにするわ。」


「そう?千代田がそれでいいなら、僕は何も言わないよ。飾る時は主脚付けることをおすすめするよ。…じゃあ僕は準備を続けるから。」


そう言って瑞穂が荷物に視線を移した時、千代田は模型を見てこっそりとニコニコしていた。…あらやだ、可愛い。おそらくこれを瑞穂が見ていたら、死因が愛おしすぎて吐血による大量出血死になっていたでしょう。


―――――――――


「それじゃあ、行ってくるよ。」


荷物をまとめ終えた瑞穂は、玄関で家族3人と向き合っていた。


「あぁ、行ってこい瑞穂。横空では辛くなるだろうが頑張れな。」


「瑞穂、大変になるだろうけど体調には気を付けてね。」


「お兄ちゃん、転勤先でも頑張ってね。応援してるから…手紙とかも気が向いたら書いてね。」


3人からそんな言葉をいただき、寂しくなっていた瑞穂に期待を裏切ったらまずいなと、やる気が入る。


「うん、それじゃあ行ってきます!!」


そうして、実家を後にする瑞穂であった。


―――――――――


呉駅の切符売り場で、瑞穂は悩んでいた。


(うーん、どうしようか。僕なら二等にも乗れるんだけど、お偉いさんとかいるよね?お偉いさんとの会話なれてないし、反感買うかもしれないし絶体会いたくない……ということで三等に乗ろう!)


当時の汽車は、車両に一等・二等・三等と種類があり。数が少ない程、位が高くなっている。瑞穂は少尉なので二等に乗れるのだが、つまらん理由で三等に乗ることにしたらしい。


―――――――――


そして、三等車両に乗り。出発の時間まで待つ。


(いやね?確かに少尉で三等に行くのは珍しいかもしれないけどさ、そんなに驚かなくてもいいじゃん駅員さん!)


車両の中で少尉の軍服を着ている瑞穂は、良くも悪くも目立っている。そして、汽車が出発し外の景色が変わり始める。


(なんだろう、三等車両ってこんなに静かなの?…絶体違うよね!?絶体僕のせいだよね!?…ごめんなさい皆さん、僕の自分勝手な理由で三等車両に来てしまって。)


そんな事を思う瑞穂だが、隣に座る子連れの家族はそうでもなかった。…流石子供、相手が偉くてもお構い無し。

そんななか、一人の子供が瑞穂に話しかけてきた。


「…ねぇねぇお兄ちゃん。かっこいいお洋服着てるけど、僕の隣の家の中学生のお兄ちゃんより小さくない?」


「なっ…!!」


まさかの精神攻撃。瑞穂、相手が子供なので怒るに怒れない!…というわけで、瑞穂は冷静風を装いながら、子供に返事を返す。


「アハハ、そうだね、確かに僕は身長が小さいね。君はこうならない為に、しっかり食べて寝るんだよ?」


…完璧な返しと思われたが、斜め下を向きながら言ってしまったせいで、本当に悲しい人になってしまった。

その男の子のお母さんが、その出来事に気付き、急いで謝罪する。


「こら!お兄さんに失礼でしょう!…あの、申し訳ございません。悪気はなかったのですが、お気を悪くされてしまいましたでしょうか?」


「アハハ、全然大丈夫ですよ。静かな雰囲気だったので、少し賑やかになってくれると嬉しいです。」


…瑞穂、言葉はいいんだよ。だから顔を上げろ!


「そちらも、お子さんの世話は大変そうですね。」


まだ、顔を上げずにそんなことを言う瑞穂。


「…あの、私はこの子達の母親ではなくて姉なんですけど…」


「ははっ、そうなんで…え?もう一回言ってくれません?」


「なので、母親ではなく姉です。」


「えぇ…?」


当時は5人きょうだいも珍しくない時代。なので年齢差も15歳離れててもおかしくないのだ。……え?何気なく解説してるけどお前も間違えてただろって?…うるさい!

…そして、その事に流石にびっくりした瑞穂は、先ほどの子供による精神攻撃なんて完全に忘れていた。


「…ええっと、すみません間違えてしまって。」


「いえいえ、大丈夫ですので顔を上げてください。」


なんか立場逆転してない?

そして、一部始終を見ていた乗員は気が緩み、静かな雰囲気から少しづつ賑やかさが戻ってきていた。そして、瑞穂は精神攻撃をしてきた子供と目が合い。


(こいつのこの顔っ!!もしかして、こうなることを予想して!?…ふっ、なんて子供だ。こういう奴が日本を動かす政治家になるのかもな…)


かっこつけるな、あとお前が「なんて子供だ」何て言うな。お前の幼少期も回りから見たら十分ヤバイ奴だからね?


―――――――――


現在地、大阪駅。

瑞穂は約8時間の移動で流石に疲れたので、大阪で一泊することにした。ちなみに先ほどの子供とその姉は瑞穂と同じ方面にいくらしいが、瑞穂の用に一泊せずそのまま行くそうで大阪駅でわかれた。それと大阪で降りた理由はもう一つ。それは、観光目的。


(やっぱり大阪は見逃せないよね!食べ物食べよう!…あ、でも軍服白だからソース物は食べれないな。え?じゃあほとんど食べれなくない?…え?大阪に来た意味とは?)


…馬鹿だった。いやね?食べ物の他にも何かあるでしょ?大阪城とかあるじゃん。


(まあそうか、大阪城に行ってみるか。)


―――――――――


(陸軍の皆さん、こんにちは。海軍少尉の小林瑞穂です!すみません、そのゴミを見る目をやめて貰えませんか。凄く、痛いです。)


瑞穂は軽い気持ちで大阪城に立ち寄ったが、大阪城の近くには陸軍の第四師団司令部があります。瑞穂はミリオタですが、主に海軍なので第四師団司令部なんて存在は知るはずもなく。

知らない人の為に説明すると、日本陸海軍は別の国家と言われる程仲が悪く…とにかく仲が悪いです。


(こんなところに長居できるかぁ!天守閣見たらすぐに帰ってやる!というか帰らないと殺されるかも!)


―――――――――


(…なんとか命拾いした。どんどん周りが陸軍人だらけになって焦ったぁ。)


そんなことを思いながら宿でゆっくりする瑞穂であった。


―――――――――


次の日は、大阪駅から神奈川の大船駅に向かい、大船駅から横須賀に向かう。特に出来事はないので、カットォォォ!!


―――――――――


そして3月末。横須賀海軍航空隊の追浜飛行場。正門の衛兵に辞令を見せ、通過し。司令や副長のいる本部庁舎へ向かう。


「新任の小林瑞穂少尉、ただいま着任いたしました!」


ここから、本格的な航空隊生活が始まる!

読んでいただきありがとうございました。

やっと!やっとですよ!!家族回が終わりました!こっからは横空の生活が始まります!楽しみにしておいて下さい!!

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