第七十三話 色欲
馬車でダンジョンを目指し3日、やっと目的の町に着いた。魔王の領地から目と鼻の先、境界線付近にあるこの町は僕らのいる町に比べ、殺伐とした印象だ。
前線に近いためか、兵士や冒険者達の顔は険しい。いずれは僕達もここの様な場所で、魔王率いる魔王軍と戦うのだろう。その為にももっともっと強く成らないと…
「まずは宿屋を探すか。馬車も預けないと…」
「あ、それならお姉さんが紹介してくれた宿屋がありますよ。そこに行ってみない?」
「お、サキュ、いつの間にそんな情報を手に入れてたんだ?」
「えへへ♪この前、買い物に行ったときにね。買い物のお礼に教えて貰ったんだよ。えーっと、確かギルドの傍って言ってたかな」
「よし、じゃあギルドを探してみるか」
馬車をゆっくりと走らせて、ギルドへと辿り着くと。大きな建物の真正面に一軒の宿屋が見える。
「ここかな?すみませ~ん…」
「はい、いらっしゃい。何名様?」
カウンターの男性に声を掛けると、
「ええっと、5人です。一部屋か、二部屋空いてますか?最低でも1,2週間は借りたいんですけど?」
「ごめんね…今、いっぱいでその人数で貸せる部屋は無いんだよ。他を当たってくれるかい?」
「そうですか、折角お姉さんの紹介だったのに、他を探そうか…」
「ん?お姉さん?ひょっとして魔道具屋の?」
「ええ?僕達、そのお姉さんからの依頼でダンジョンに潜る予定なんです」
お姉さんの事を聴いた男性は顔を青くして、
「あ、あ~…いや、そそそうだ。ここから離れてるんだが、ダンジョンへ行く途中にある家なんだが、今は誰も使ってなくてな。あそこなら使ってくれて構わない。掃除はしてあるけど、飯や洗濯は自分達でやってくれれば金は要らないぞ」
「え?良いんですか?」
「ああ、もちろんだ!あいつのお客に部屋を貸さなかったと知れたら…好きに使ってくれよな!」
男性は震える手で鍵と地図を渡すと、血相を変えてどこかに行ってしまった。
「なんか酷く怯えていたな?」
「ええ…まあでも、これで拠点は確保出来たし良いわよね」
「そうだな。ダンジョンに潜ったらそうそう宿には帰れないだろうし、丁度良かったかもな」
僕たちはギルドに馬車と馬だけ預かって貰うと、地図を片手に家を目指した。町から少し離れたが、十分通える場所にそれはあった。
「ここかな?」
ガチャ…。鍵を開けて、木の家に入ると、中は木の香りがする綺麗な家だった。布団は少し埃っぽかったので、荷物を置いた僕たちは、簡単な部屋の掃除から始めた。
「っといっても、『クリーン』!これで粗方終了なんだけどね♪」
「掃除からデバフの解除までなんでもできちゃうのよね…」
「本当に便利です…あ、でもお布団は干しておきますね!ふかふかのベッドで寝ましょう♪ほら、ライオ君手伝う!」
「う、うん・・・ねえ、流石に今日は外してくれるよね?もうかなり辛いんだけど…」
「ええ?どうしようかな~?スーちゃんはどう思う?」
「ん?流石に丸一日。このまま生殺しじゃライオさんが役に立たない」
「それもそっか・・・じゃあ今日はたっぷり出させてあげるね♡」
「…ごくッ…ぜ、絶対だよ!!」
何やらライオ君達三人組は、すでに夜のお楽しみに付いて相談しているようだ。隣のセシリアも、
「あっちはあっちで忙しくなりそうね…じゃあ、今日は私達もゆっくりしましょうか♡」
「ああ、ゆっくり出来る未来が見えないけど、受けて立とう!」
コンコンコン!…僕らが掃除を終えて一段落ついていると、扉を叩く音がした。来て早々、何事かと警戒して扉を開けると、ギルドの服を着た男性が立っていた。
「初めましてこの町のギルドの者です。あなた方が勇者御一行で間違いないでしょうか?」
「え?はい、そうですが何か?」
「良かった…あ、失礼しました。実はあなた方が住む町のギルドから、こちらに来ていると連絡があったもので、ご挨拶とご相談にきました」
「はあ…」
彼の言う事には、カレンさんからこちらのギルドに情報が回ったらしく、是非ギルドでお話をしたいとの事だった。特にやる事の無くなった僕は、セシリアと連れてギルドを訪れていた。
「全く、あの3人は忙しいからって…」
「まあまあ、僕と君が居れば問題ないし、その分、夜にいっぱい可愛がってあげるからさ♡」
「うッ///ほ、本当ね?楽しみにしておくわ///」
子供の様にプンスカする113歳のセシリアを宥めていると、髭を生やしたムキムキの男性がドアを開けて部屋に入って来た。
「いや~、待たせたかな?私がこの町のギルドマスターで、ガイという。宜しくな」
「フィズです。こっちが勇者の」
「セシリアよ。宜しく」
「ほお~、あの万年ダメダメ低ランクを彷徨っていたというセシリア嬢が勇者だったとは…」
「ん?セシリアをご存じなんですか?」
「私は貴方なんて知らないわよ?」
「はははッ、ギルドの情報網を侮って貰っちゃ困るな。人間の冒険者は兎も角、エルフやドワーフみたいに長寿の冒険者は記録にも残るし、記憶にも残るんだよ。それに、君は万年…」
「百年以上低ランクだったわよ!悪い?!」
セシリアの頭に火が付いたように、顔を赤くしてガイを睨みつける彼女は今にも噛みつきそうだった。
「がははッ、威勢も良くなったという訳だ。そんな君達に折り入って頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」
「まあ、聞くだけなら…」
「そう言えんば、この町に来た目的はなんだ?観光って訳じゃないのだろ?」
「ええ、この近くにあるダンジョンに用事があるのよ。そこで取れる魔石を集めに来たのよ」
「それは朗報だ。まさに頼みたいのがそのダンジョンの事なんだ」
ギルマスのガイはこれ幸いと、現状を説明し始めた。魔王軍と人間側の情勢から、昨日奥さんと食べた夕食の話まですると、
「それでだな、この町のダンジョンが随分と厄介なダンジョンに変わっちまったんだ…それを修正するために力をかしてほしい」
「厄介?変わったでどういう事ですか?」
「ああ、数か月前から異変が報告されてな。魔物の変化に始まり、構造の変化、さらには高ランクの冒険者の攻略失敗が続いたんだ。ギルドも調査してみたんだが、どうやら以前のダンジョンとは全く別の色欲ダンジョンに変わっちまったのさ…」
「色欲?それってつまり…」
「ああ、エロトラップダンジョンだ!!」
「何ですかそれ?」
「フィズは知らないのね…色欲ダンジョンー通称エロトラップダンジョンっていうのはね、凶悪でエッチな罠が仕掛けられているのよ。一人では到底攻略出来ないとされているわ」
大変真面目な顔で説明してくれるセシリアには申し訳ないが、全く分からない。エロトラップ?凶悪でエッチな罠?なんだってそんなダンジョンがあるんだ?
「うん、攻略しにくいのは分かった。それで、高ランクの冒険者も失敗しているんですね?」
「ああ、中には再起不能になってしまった者や快楽に飲まれて狂ってしまった者さえいる…」
「うわあ…、そこで僕達の出番ですか…どうするセシリア?」
「どうもこうも、そのダンジョンに用事があるのよ?行くしかないじゃない…」
心配そうにこちらの様子を伺っていたガイは、セシリアの答えに嬉しそうに顔を上げて、
「そうかそうか、やってくれるか?助かるぞ。報酬はたっぷり用意しておくから、是非よろしく頼むぞ」
「は、はあ…」
気が重たいがダンジョンを攻略しなければ…そう思いながらギルドから帰る。綺麗に片付けた家だったが、3人を残して来た部屋の中は、セシリアから聞いたエロトラップダンジョンの様な状態になっていたのだった。




