第百話 決着
ドラキュラとメデューサを追い地下に舞い戻ったフィズ達は、ルルの『千里眼』で追跡しながら慎重に進んで行った。奴隷生活していた地下とは別の場所の様で、ただ広い空間が広がっていた。
「ここに逃げ込んだのか…ルル場所は?」
「それが…中に入ったのは確かなんだけど…妨害されてるみたいで正確な場所は不明だぜ…」
「問題ないわ。ルルは索敵を続けて頂戴。今度は絶対に逃がさないわよ。シャナ、貴方もここで…」
「いえ!私も戦います!あの人は絶対に許せません!」
「分かったわ。でも安全第一よ?分かった?」
「はい!」
ライオ君を先頭に『クリーン』で石化を予防しつつ僕たちは進む。やがて、
「チッ…石化させようにもやっぱりお前が邪魔だな魔法使い!」
「悪いな。今度こそその首を貰うよメデューサ!『フレイム』!」
相手の懐に入るのは石化の危険が高い。僕は遠距離から魔法で牽制しつつ様子を伺った。炎を掻い潜り、メデューサの石化光線から襲い掛かるが、ライオ君の『リフレクト』と盾で防ぐ。攻撃の来る方向さえ分かれば対処はしやすい。
「石化なんて大したことないな?」
「くッ…私のアイデンティティが!?」
「メデューサ!ドラキュラは何処だ!隠れても無駄だぞ!」
「…無駄じゃないさ…こうやって時間を稼がせて貰ったからね!『石化』!」
「ん?どこを狙って…」
そう叫んだメデューサの石化光線は僕達では無く明後日の方向へと飛んで行った。暗闇に紫色の光線が消えると、
「フィズさん!後ろです!」
「え?!」
真正面に居るはずのメデューサが放った光線が何故か真後ろから僕達に襲い掛かったのだ。いち早く気が付いたサキュのお陰で、
「『真性結界』!」
「な?結界ッ!?」
バヂンッ!!と激しい音と共に、シャナの結界に防がれた光線が消滅する。飛んできた方向を見ると、赤い鏡の様な物がそそり立っていた。
「はぁ…これもダメでしたね…」
「何なんだいコイツらは…強いにも程があるだろ?!」
「勇者パーティなのでしょう?それに、あの魔法使い。確か、聖女を攫った時に居た騎士だと思いましたが…彼が魔法使いでしたか…でもあれは貴女が倒したはずですね?なぜ生きているのかしら?」
「俺が知るかよ…あぁクソッ…折角魔王様から許しを貰ったのに、またこいつ等に邪魔されちまうのか!?」
「そうですね…負けたくないですよね…ねえメデューサ?」
「ああ、そうだ…うっ!?お、おい!ラミ、ぃ…何を!?…く…ぐあああぁぁッ!!!!!」
「今度は負けないで下さいね♪」
メデューサの背後に現れたドラキュラは、メデューサの首筋に噛みつくと、メデューサの体がボコボコと膨張し始めた。青い血管が浮き出て筋肉が膨張し、見る見るうちに巨大な姿に変化した。人間に姿は上半身のみで、腹から舌は図太いヘビの様に長く変貌した。
「グアアアアッ!」
「あは♪成功です。強化魔族です!貴方が時間を稼いでくれたお陰で仕込みもバッチリですから、存分に戦って下さい♪」
咆哮と共に巨体になった頭に生えた蛇が一斉に光線を放つ。周囲に無差別に放たれた石化光線はなぜか、正確に僕らに向かって戻って来る。
「やっぱりあの血の壁が悪さしてるみたいですね」
「ライオ君の『リフレクト』見たいな感じだな…」
「ん、血の鏡みたい。あれが邪魔」
「こっちは僕達が引き受けるよ。セシリアとシャナはドラキュラをお願い出来るか?」
「分かったわ。ライオも来てくれる?」
「了解です」
僕は分身体を出すと、サキュとスーに『クリーン』を掛け続けさせた。
「ええ…本当に便利すぎですよそのスキル…」
「ん、光線に当たっても石化しないってもう詰みな気がする」
「いや~、流石にダメージ量も上がってるみたいだから、ライオ君の回復が無いんだ。当たらないに越した事は無いぞ?」
僕はそう忠告すると、目の前の巨体に向かって攻撃を再開した。サキュは周囲を飛び回り、スーも足元を滑る様に移動して拳で殴りつけ始めた。
「順調だね」
「ああ、でも、まだまだ行くよ!『アクア』×『サンダー』×『セイント』=『サンダージャベリン』!」
バズバズバズッっと雷鳴轟く雷の槍が手から解き放たれメデューサへと飛ぶ。暗い闇を明るく染めながら巨体にぶち当たった。無数のヘビから光線を放っていた巨大メデューサは、感電した体で暴れ回りながら、サキュ達を攻撃し続けた。
「サキュ、スー!一気に攻めるぞ!」
「任せて!」
「ん!」
分身体を数体生み出すと、有り余る魔力をふんだんに使用して魔法を練る。
「『フレイム』×『サンダー』×『セイント』=『エクスプロージョン』!」
「『スピリット』×『フレイム』×『サンダー』=『サンダーストーム』!」
「『アクア』×『クエイク』×『セイント』=『ハイドロバースト』!」
炎の大爆発が頭を覆い、雷撃の嵐が胴体を突き刺し、地面から激流の槍がヘビの図体を穿つ。
「ヒエ…これ、もう致命傷じゃ…」
「ん?私達の出番ある?」
「ぐぎゃああああッ!!」
そんなサキュとスーの心配を他所に、雄叫びを上げ力を溜め込み始めたメデューサにフィズは、
「大技がくるぞ!サキュ!出番だ!」
「了解!『エナジーバースト』!!!」
魔力を爆発させ相手の魔力制御を乱す攻撃が、メデューサの攻撃を止める。そこに、
「ん!チャンス!ふん!『硬化』『闘拳』『ジャイアントスマッシュ』!!!」
「ウガッ!?」
下から跳び上がたスーの巨大な触手拳がメデューサの顎を穿つと、その巨体を後ろにノックバックさせた。
「「「「「これで終わりにしようか…『クエイク』×『フレイム』×『セイント』=『メテオ』!」」」」」
『クリーン』を担当させていた僕を含めて5人の同時『メテオ』がメデューサに降り注ぐと、焼かれた巨石に圧し潰され、ついに動かなくなった。
その頃、ラミーの攻撃を防ぎながら、彼女を追い詰めていたセシリア達は、
「シャナ!防御!ライオ、サポート頂戴!」
「えいッ!」
「はい!『プラスアーマー』!」
「硬くて厄介ですね…でもこれなら!『ブラッドスパイク』!」
魔力を含んだ血液の槍が地面から無数に生まれ斬り合うセシリアを襲う。ガキンッと付与されたアーマーが剥げ、ダメージは防いだが衝撃で吹き飛ばされる。そこに追撃が来るが、
「させません!」
「セシリアさん!『リジェネ』!」
シャナの守りと、ライオ君の回復でサポートは万全だった。
「ありがとう。向こうも終わったみたいね。こっちも決着をつけるわよ!」
「了解です。いきますよ!『リリース』!」
「シャナ!最後は貴方に託すわ、止めは出来るわね?」
「…ハイ!」
「じゃあ、行くわよ!『ブレイブ』『武装解放』!」
ごうッと魔力が高まり、セシリアの体から燃え上がるように湯気が上がると、巨大化したデモンスレイヤ―が神々しく光る。上段に構えると、
「『ソニックブレイド』!」
「ぐおおおおッ!?」
素早い一撃がラミーを襲う。袈裟切りに裂かれた胴体で辛うじて息をするラミーにシャナが近づくと、
「あ、は…私を倒して、満足ですか?」
「いいえ。とても残念です。貴方にも生きて罪を償ってほしいですが…」
「変な人間ね…私の事、許さないんでしょ?さっさとしないと…」
「シャナ?」
「いえ、このまま看取ります。せめて安らかに逝って下さい」
「ふ…ほんと、へんな、こ…」
そう言い残し、ドラキュラは塵になって消えた。残った魔石は彼女の血の様に真っ赤な色をしていた。
「セシリア!無事か?」
「ええ、大丈夫よ。そっちは随分派手に戦ってたわね?」
「ああ、でも今回はちゃんと止めを刺しだぞ?ほら…」
フィズは紫色をした魔石を取り出すと、セシリアに見せながら、
「まあ、あいつも利用されて可哀そうな奴だったな」
「仕方ないわよ。それが魔族よ。それに、すべては魔王の駒でしかないわ」
「魔王さえ居なければ、もう少しまともな関係が気付けるのかな」
「サキュやスーみたいに?どうかしらね?人間と魔族はもともと相いれないんじゃないかしら?」
「かもな…さあ、これで首謀者は討伐した。あとは上の兵士達を排除して終わりかな?」
「フィズさーん!」
地上に戻ろうとした僕達の前に、慌てた様子のルルが飛んできた。
「良かったぜ。監視が出来るようになったから飛んで来たんだぜ。それと報告だけど、上は改造人間と奴隷たちが制圧したみたいだ。この辺りに敵は居ないぜ」
「お、そうか!なかなかやるな。じゃあ、安心して戻れるな」
僕達はゆっくりと地上に戻ると、夕暮れに染まった赤い空を見上げたのだった。




