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転生した辺境男爵家の少年は、魔術具で世界を変える  作者: エナジーコット
人類の領域

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第92話 爆発(10歳)

 サミュエルはルシアンと話し合った結果、やるべきことを整理した。


 1.爆発術式の検証

 2.時間遅延との組み合わせ

 3.転写用の木版の作成

 4.木版による転写物の実証試験


 4つの段階にわけて作業を進めていくことにした。


「それで師匠……爆発術式の威力ってなにで決まるんですか?」


「爆発の威力を決めるのは、基本的には術式そのものの長さだ。術式が長くなれば必要な魔力も増えるが、多く魔力を流せば単純に威力が上がるものじゃない。だから城壁を破壊するような爆発の魔術は詠唱も長いし、魔力消費量も多く、複数の魔術師が共同で発動している。まあ、あれの場合は火球のようなものを飛ばして、当たると爆発するという術式が含まれているのもあるがな」


「そこは発熱術式と同じなんですね」


 2年前に散々研究した発熱術式は、温度が常温から離れるにつれ、特定の部分が長くなっていった。


「そうだ。だがお前が言うように土器を破裂させる程度ならそれほど長くなくてもいい……と俺は考えている」


「そうなんですね……。ただ土器を破壊するだけじゃなく、飛び散る破片で敵に傷を負わせる兵器を想定しています。だから、術式の長さと魔力消費、それで得られる威力のバランスを考えないといけないなと……」


「そこは実験を重ねるしかない。あとわかっているとは思うが、術式に魔力を流しきった時点で一拍ほどで爆発する。だから安全のために検証は時間遅延の術式が必須になる。十拍程度は遅延するようにしておけ」


「一拍を十拍に……それだと時間遅延の術式が大きくなりませんか?」


 発酵用魔術具を作ったときにわかったことだが、時間加速や時間遅延は元から変化する倍率で術式の長さや魔力消費量が増えるのがわかっている。


「そうだな。これが保冷箱とかなら大変だろうが、お前が考えているのは片手で投げられる大きさの魔術具だ。それに継続時間も短くできる」


 闇属性の魔術は空間に作用する魔術だ。時間遅延なら範囲を指定し、その範囲内の時間を遅延させる。保冷箱などはそれなりの範囲をしていることもあり、術式や魔力消費量が多い。


「たしかに十拍後に爆発するなら、十拍だけ魔力が持つようにして、範囲も魔術具内だけにすれば術式も魔力もかなり抑えられますね……」


「そうだ。爆発の術式は俺のほうで雛形を用意しておくから、お前はその間に時間遅延の術式を描けるだけ描いておけ。範囲はお前の術式ノートの大きさでいい」


「はい!」


 ----------


 数刻後、ルシアンが爆発の術式を書いた紙を持ってきた。


「とりあえず5枚、用意した。それぞれ爆発の威力が違う術式だ。見比べればどこが爆発に関わる部分かわかるだろ?」


「はい、前半部分と後半部分は変わらないのに、中間部分があきらかに伸びています。特に1枚目と5枚目なんて一瞬同じ爆発の術式とは思えないぐらいです」


 おそらく一番威力が低い1枚目と一番高い5枚目。サミュエルからみてもこれは術式の長さが3倍近く違う。


「ならこれを、お前が作った時間遅延の術式に追記する形で書き写せ。問題がなければその後魔術インクで清書するぞ」


 ルシアンの指示に従い、書き写していく。


「これ……思ったより単純な構造をしていますね……」


「そうだな。ただ爆発させるだけだから。その代わり威力の調整や爆発に指向性をもたせようとすると一気に複雑になる」


「爆発に指向性ですか?」


「ああ。爆発の魔術にはなるが、例えば硬い岩盤を砕くには威力は必要だが、周囲まで吹き飛ばしてしまっては困る。だから爆発に指向性を持たせて、砕きたい場所へ威力を集中させるんだ。城壁を重点的に破壊する魔術にも応用されていると聞く。軍用の魔術は軍関係者しか知らないから、俺もリュシエルもそこまで詳しくはないがな」


 今回は爆発で周辺に破片を飛散させるのが目的のため、指向性はいらない。だがもしかしたらその技術も後々使えるかもしれないと思った。


「あとでその指向性を持たせる術式を教えてもらえないですか?いつか使うかもしれないので……」


「わかった。一段落したら教えてやろう」


 ----------


 術式の清書まで終わり、場所を移動して実験をすることとなった。

 場所は工房の裏手にある試験場だった。

 そこは普段あまり使われることはないが、兵器開発の試験場としても使われていると過去に説明を受けた場所だった。


「ここなら周りが分厚い土壁に覆われているし、塀も高い。試すにはうってつけだ」


 ルシアンがそう言うと、土器も複数用意していた。


「術式を発動させた紙を土器へ入れ、十拍以内に退避する。少し離れた位置に巻藁でも置いて被害を確認してみるのはどうだ?」


 ルシアンは危険な魔術具を開発してきた経験もあり、危険物の検証実験に必要なものや、やり方を熟知していた。


「それでお願いします。じゃあ発動した土器に入れたら、すぐに壁まで逃げてくる……と言った感じでしょうか?」


「そうだが……それは俺がやろう。こういう危険物の初回実験は、経験のある人間がやるものだ。それとリュシエルにも話は付けておいたから、怪我をしたらすぐにリュシエルを呼びに行ってくれ。やつは研究室にいるから呼ばれればすぐに向かうと約束をさせてある」


 上級の治癒魔術が使えるリュシエルもできれば同席させたかったが、本人は自分の研究を優先したいとのことで、あくまで有事の際、優先で駆けつけるということで妥協してもらった。


「では最初は一番弱い爆発から試す。これはおそらく土器は壊れないが……時間遅延が失敗しても軽い火傷で済むから最初の試験にはうってつけだ」


 ルシアンはそう言って、サミュエルを下がらせて術式に魔力を流す。

 およそ十拍後、パンッと爆竹が爆ぜたときの音が試験場に鳴り響いた。


 ルシアンの予想通り、土器は無事だったが土器の中が僅かに黒ずんでいた。


「想定通りだな。次からはおそらく土器が壊れる。徐々に威力を上げていき、巻藁の状態を確認するぞ」


「はい」


 それから一通り試してわかったことがある。


 2枚目は単純に威力が足りない。土器は割れるのだが巻藁まで破片が届かなかった。

 3枚目に関しては巻藁に刺さるのだが、魔物に対して威力に不安がある。

 4枚目は巻藁に深く突き刺さり、ゴブリン程度なら十分深い傷を負わせられるのではないかと思わされた。


 そして5枚目は巻藁を貫通するものもあり、中には土壁まで届き突き刺さっていたものまであった。


「威力だけ見たら5枚目がいいな。魔力消費も当然この中では一番多いが、一般的な魔術使いでも十分許容範囲だ」


「そうですね。土器の中に他の鉄片や鉛なども一緒に入れれば効果が上がりそうですね。ただ……」


「術式の紙の大きさが問題だな」


 問題は術式の長さだった。今のままでは時間遅延の術式まで組み込むと、片手で投げられる大きさには収まらない。


「紙を折るとどうなりますか?」


「術式はすべて魔術インクで繋がってないといけねえ。魔術インクが折れていると術式と見なされねえ」


「じゃあ……紙を重ねるのはどうですか?」


「……説明してみろ」


 ルシアンは目を細めサミュエルの考えを確認した。


「えっと…複数の術式って必ず直列……あ、いえ、魔術の術式を順番に流さなくてもいいのかなと思いまして。たとえば1枚目を時間遅延、2枚目を爆発術式にします。1枚目を上、2枚目を下に並べて、同時に流せばほぼ同時に発動するので同じ結果になるかなあと……」


 サミュエルの頭の中には、前世の電気回路でいう直列と並列の関係を思い浮かべていた。

 今までのやり方が直列であり、発動する術式の流れも一列でないと困るものだった。

 だが今回は時間遅延と爆発。電気回路を並列にする要領で魔術の紙を並べて入れればほとんどサイズは変わらずに済むのではないかと考えた。


「ただ気をつけないといけないのは、時間遅延のほうが必ず先に発動するようにしないと危険があるということ……ぐらいですかね……」


「……待て。つまりお前は術式を一つに繋げるんじゃなく、別々に発動させるってことか?」


「はい。これは色が変わる照明具でも似たようなことをしていたのでできるかなって」


 ルシアンは言われて思い出した。たしかにあれは3色の色の術式を同時に発動させ、その組み合わせで色を変化させていた。


「言われてみればそうだな……なんで気が付かなかったんだ俺は……」


 魔術具の術式はすべて魔術インクで繋がっていないといけない。

 そして安全のためにも、術式は順番に流れなければならないという固定観念がルシアンにはあった。

 だが今回の魔術具は1回限りの使い捨ての危険な兵器。これまでのルシアンの価値観からは運用が違うため盲点になっていた。


 ルシアンは一度だけ小さく咳をしてから話し始めた。


「……まあいい。ならやってみるか。作り直すぞ!」


「はい!」


 魔術そのものは何も変わっていない。

 変わったのは、それをどう組み合わせ、どう使うかという発想だけだった。


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