第9話 魔術具への興味(4歳)
「こちらです。」
エドワードの従者、アレンがそう言うと、案内された部屋の扉の鍵を開けた。
中はやや埃っぽかったものの、物置として利用している割には綺麗な場所だった。
「右が完全に故障した物、左がまだ動くものの不調を抱えた魔術具になります。」
「この中でサミュエル様が扱って大丈夫なものはどれになるのですかな?」
「そうですね、こちらの明かりを灯す魔術具なんかがいいと思います。」
そう言ってアレンはランプと同じ形状をした魔術具を手に取る。
それは応接間や食堂など、人が集まることが多い場所でよく見るランプだった。
「これに魔力を流すと……このように光ります。これには光の初級魔術のライトと同じ術式が刻まれています。これは調子が悪いので現在屋敷内で使われているものの明るさの半分以下となっています。」
アレンは魔術が使える者らしい。そのため魔術具の物置の管理も任せられているのだろう。
「あっちの故障しているのは形が違うけどそれとは違うものなの?」
「いいえ、あれは発売された時期が違うためデザインが違う物になっています。故障していなければ屋敷内で使われているものと明るさは変わりありません。」
室内に設置する魔術具のため、インテリアとしても機能させるべく、デザインは発売ごとに変えているようだ。
「じゃあその光る奴使っていい?」
サミュエルの言葉にアレンはカークに視線を動かした。
「魔力量であれば問題ございません。初級魔術であれば数十回使っても魔力切れを起こさないぐらいになっています。」
「もうそこまでご成長されていたのですか。ではお渡しします。魔力を魔術具に流し込むように意識してみてください。その時の魔力量は魔術具に任せてください。必要な量を体から引き出してくれます。使い方は、初級魔術を発動する時と似た感覚です。ただし詠唱は必要ありません。」
「うん、ありがとう。じゃあ使うね。」
そう言って魔術具に魔力を流し込むように意識する。
今回は手に持っているため普段、日課の魔力の訓練と同じ感覚で魔力を移動させる。
「あ、光った!」
「おめでとうございます。成功したようですね。」
ランプの先から淡い橙色の光が広がる。
その色合いは火とよく似ていた。
魔術で生み出した光なのに、まるで本物の火を灯しているように見える。
不思議に思ったが、今は術式のほうが気になった。
魔術具ならば適性の属性でなくても使える……。魔術の入門書にあったとおりだ。
そうなると次に気になるのは当然魔術具の術式である。
魔術書を読んでいる時とは違う。実際に動いている魔術具を前にすると、その仕組みを確かめたいという気持ちが次々と湧いてきた。
「ねえ、これってどこに術式が書かれてるの?」
「おそらく魔術具の内側に書かれていると思います。この魔術具は飾りの意味があるので、外から見えない場所に書かれているかと。あとそのほうが故障しにくいと聞いたことがあります。」
「中を開けて見てもいい?」
構造を知りたい。
どうして光るのか。
どのように術式が発動しているのか。
その仕組みを自分の目で確かめたい。
サミュエルの知的好奇心は抑えきれなくなっていた。
「お待ちください。故障していてもう使わないとはいえ魔術具はそれなりの品。一度旦那様に確認を取ってみます。」
そういうとアレンはサミュエルとカークを残してセドリックの元に向かった。
「ねえカーク。なんで使わないのに物置にいれてるの?」
「先ほどアレン殿が申し上げた通り、高い品物でございます。そのためおいそれと処分することができないのです。」
「じゃあ修理しないの?」
「魔術具の修理には専門的な知識が必要です。専門の者でないと簡単に直せるものではございません。そのため魔術具の修理には費用がかかり、このランプのような初級魔術の品であれば買うのとあまり変わらない値段になることが多いのです。」
修理するぐらいなら買ったほうが安い。
前世の家電でも、理由は違えどよくある話だった。
「じゃあ中を開けても大丈夫そうだね。」
「おそらくは、ただ旦那様からの許可をもらうまでお待ちください。」
しばらくするとアレンが戻ってきた。
「旦那様もサミュエル様が魔術具に強い興味を示されているなら、止める理由はないとのことでした。そのため条件付きで許可をいただきました。『ここではなく専用の部屋で行え。カークなどの教育係が傍にいる時のみ許可する。そしてその部屋はこれから準備するため後日、改めよ。』とのことです。」
たしかにこんな倉庫で分解を始められても困ってしまう。
これから部屋を用意するのだろう。
「またその部屋にはサミュエル様が扱っても問題のない魔術具のみ置くようにとも言われましたので、この物置から運び出します。」
「うん、わかったよ。わざわざありがとう。どれを運ぶかは任せるね。」
「承知しました。」
今日分解できないのは残念だが仕方ない。
それに魔術具の教本もないのだ。分解しても術式がどう刻まれているのか確認するだけになり、どのみち術式を眺めることしかできないだろう。
残念ながら今日はここまでだ。
だが数日後には魔術具を自由に触れる部屋が用意される。
そう思うだけで胸が高鳴った。
サミュエルは期待を胸に抱きながら、その日の魔術訓練へと向かった。




