第10話 第一歩(4歳)
準備が終わるまで数日がかかるとのことなので、その間に魔術具のカタログを見ることにした。
現代みたいに印刷技術があるわけでもないので、魔術具を扱ってる商会や商人が手書きで作ったものだ。手書きの絵に文字で大きさや用途が記載されている。
数年前に商人からもらったというカタログ本は、地位がそれほど高くない貴族や資産に余裕のない貴族向けのものらしい。
高価な魔術具を載せても購入できる相手が限られるため、手書きで作る労力に見合わないからだ。
点火具:火の適性がない人でもイグニッションが使える魔術具
造水器:水の適性がない人でもクリエイトウォーターが使える魔術具。こちらは複数のデザインがある。
浄水具:水を飲み水や料理に使えるようにする。水を用意していれば清水精製クリエイトウォーターより効率的に飲み水を確保できる。
保冷箱:箱の中を閉じている間、一定の温度に保つ箱型の魔術具。温かくなる時期なら生鮮食品の腐敗を5~7日遅らせられる。あまり大きくない。
送風具:風を送る魔術具。夏場を快適に過ごすため。
警報具:侵入者検知時に大音量で鳴る魔術具。
治療具:羊皮紙でできた巻物。怪我をした患部に巻き付けて使用すると治癒魔術が発動する。初級の治癒魔術なら擦り傷や切り傷、中級なら簡単な骨折であればこれで治せる。消耗品。
物置で見せてもらった照明用魔術具を除けば、我が家くらいの屋敷向けの品はこんなところだった。
やはりというか生活が少し便利になるといった感じの物が多い。
他にも娯楽向けやガーデニング向けのものもあったが優先順位が低いのか屋敷内ではみたことがなかった。調理場に置かれそうなものは、調理場に入ったことがないためわからないが、もしかしたらあるかもしれない。
そしてある共通することに気づいた。
あまりサイズが大きくないものばかりである。
大体は片手で持ち運べそうであり、大きいものでも子どもなら両手で持ち上げられそうなサイズ感だった。
やはり大型の物になると高性能になるがその分魔力の消費が激しくなるのだろう。
魔術具に魔力を注ぐ使用人も大変になり、そうすると数が揃えられる高位貴族か金持ち向けなのだろう。
しかし、これくらいなら無理をしてまで買う必要があるのだろうか,とサミュエルは疑問に思った。
たしかにあれば便利だがなくても困らない。むしろ魔術具の価値や故障することを考えると代替が効かないもの以外いらないのではと考えてしまう。
しかしそれは前世があり、一般人だったサミュエルの思考であり、貴族であれば多少無理をしてでも見栄で魔術具を持ってないと他の貴族に舐められてしまう。
特にインテリアとしても使われるランプ型の魔術具がいい例だ。
訪れた他家の貴族から、「この程度のものも持ってないのか。」と格下に見られてしまう。
そのことを知らないサミュエルは、せめて価格に見合う価値がなければ非効率だと思ってしまった。
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数日後、工作室が完成した。
場所は屋敷の隅にある空き部屋であり、将来的にサミュエルの成長に合わせて様々な道具を置けるよう改装されていた。
部屋に入ると壁際には、先日物置で見た故障品や不調品の魔術具が並べられていた。しかし子どもが扱うには危ない道具は置かれていない。
(全部触っていいのか……!)
「ありがとうございます。お祖父様、お父様。アレンもありがとうね。」
二人と自分の従者ではないアレンにお礼を言う。アレンは魔術が使えるだけあって多少は魔術具の使い方や効果を知っていることから部屋ができるまでも色々話を聞かせてもらった。
礼を言い終えると、サミュエルは早速魔術具の分解に取り掛かった。
しかし子どもの力では簡単には開けられず、所々、カークに手伝ってもらったりした。
中を開けるとやはり内側にびっしりと魔術式が書かれている。
インクのようなもので書かれており、文字がわずかに膨らんでいた。
試しに開けた状態で魔力を魔術具に流す。
すると文字の色が黒から濃い青へと一文字ずつ変わっていく。
しかも面白いことに、どこを触って流しても、特定の文字の色が変わると一度黒に戻って、決まった場所から文字が変わっていくのだ。
これはおそらく、色が変化した順番に術式を読んでいるのだろうと推察する。術式の中で一度すべての魔力を遮断して、決まった場所から魔力を流し直すよう術式が組み込まれているのではないか。
思考の海に入り込みそうになったところで、ノックの音が響いた。
「アレンです。入室よろいでしょうか。」
「はい。」
そう返すと、アレンが「失礼します」と言って入室した。
「エドワード様より、坊ちゃまのお手伝いをするようにと指示がありました。他の仕事の関係で頻繁には来れませんが、なにか気になることがあればお聞きください。専門知識があるわけではありませんがお力になれればと思います。」
「ありがとうアレン。早速だけどこれ見たことある?」
そういうと分解して中身が見えるようになっているランプ型の魔術具を見せる。
「いいえ、魔術具の中身を見たことはございません。魔術具自体、私もこの屋敷で働くようになってから触れられるようになったぐらいです。」
アレンは平民の出だが、魔術が使えたため従者としてこの男爵家に雇われるようになった。弱小の貴族家で平民の魔術使いを雇うのは珍しくない。
「そうだったんだ。じゃあ術式は読める?」
「多少は……。これ……すごいですね。こんなに細かく術式が書かれていたんですね。」
「そうだよね。でもあれだけ長くなる術式をこの大きさに書こうとしたら細かくなっちゃうよね。」
そういって術式を見る。
「私の知る限りでは……この部分がライトの特有の術式です。すみません。あとは反対部分にあるここが発動の術式です。」
アレンはライトの術式を知っていたようだ。そこは魔力が最初に流れる場所を指さし、発動はその反対、最後に流れる部分だった。
「うーん……そうなると他の術式はどんな意味があるんだろう。ライトと発動以外で魔術具を動かすのに必要なことは……。」
術式を見れば見るほど疑問が湧いてくる。
そしてその疑問を解き明かしたいという欲求はますます膨らんでいくのだった。




