第54話 故障の正体(8歳)
翌日、朝の日課となったトレーニングを行い、同じく日課となった祈りも済ませた。
そして今日から与えられた新しいことである納品チェックを始める。最初に来たのは農家のおじさんだった。
「お、おはようございます。」
サミュエルはぎこちなく挨拶を交わすが相手は特に気にした様子もない。
「おや?昨日もいた子だな。今日から坊やの仕事か?」
「は、はい。」
「それじゃあ今日の野菜を確認してくれ。問題なかったらこっちにサインだ。」
リストに書かれている野菜の種類と数が一致していたため、サインをする。
「今年は葉物が豊作でね。よかったら次から多めに買ってくれよ。じゃあまたな。」
「は、はあ……。」
続いてやってきたのは鉱石商だった。鉄鉱石以外にも宝石の原石も納品リストにあった。
「坊主は新しい弟子か?またえらい小さい子が入ったな。」
「は、はい……。」
「ほら、もっと元気出さないと親方に叱られるぞ。納品物の確認よろしく。」
こちらも問題がなかったためサインをして渡した。
「ありがとさん。坊主も頑張れよ。」
そんなやり取りを、革問屋や織物商、炭屋、はたまた陶器商やガラス工房の職人たちとも繰り返した。
(昨日は横で見ているだけだったのに、今日は全部自分が相手か!ネットや電話があれば顔を合わせずに済むのに!)
そんなことを心の中でぼやきつつ、一通り終える。在庫棚に納品物をしまった後は頼まれていた鉱石をヘルガの元まで持っていった。
「へ、ヘルガさん……頼まれていた荷物が届きました……。」
「あいよ、ありがとうね……ってあんた、どうしたんだい?目が死んでるよ。」
疲れ切った様子のサミュエルの姿を見たヘルガがありのままの感想を述べる。
「き、今日だけでもう知らない人とたくさん話をして……。」
「たくさんって……何人だい?」
「えーと……7人……だと思います。」
ドワーフであるヘルガから見れば、人族は総じて細く体力も劣る種族だ。それでも、たった7人と話しただけで疲れ切る子どもなど見たことがなかった。
「それだけ疲れてどうするんだい。しゃんとしな!他に急ぎの用事は!?」
「い、いえ……特には……これから師匠のところに行くつもりでした……。」
「なら昼ご飯までここで休んでいきな。ただしあたしの仕事を見ておくんだ。いいね。」
「え?勝手にいいんですか?」
ルシアンの許可も取らずに別の現場仕事を見ていていいのだろうか?
「良いも何も、ルシアンからはあたしやミーナ、リュシエルに『手が空いているようなら仕事を見せてやってくれ』って言われてるんだ。それにそんなに疲れてるんじゃなにをやっても失敗するもんだ。休憩がてら見ていきな。」
正直サミュエルも疲れ切っていたためありがたい申し出であった。それに鍛冶の仕事を見てみたかったというのもある。
「で、ではお願いします。」
「よしきた、いいかい?勘違いする奴は多いんだけどね、鍛冶屋は力だけじゃ務まらない。よく見ておきな。」
そうして、午前中はヘルガの元で鍛冶の勉強をさせてもらった。
昼食後、ルシアンの下へ訪れると新しい仕事を与えられた。
「サミュエル。ここにある修理品の原因を見つけて報告しろ。」
目の前に置かれた魔術具が5台、中には見たことがないものもあった。
「この中に危険なものはないから魔術を注いでもいいぞ。あと原因が分らなかったらそれも報告しろ。」
「はい。」
およそ2日ぶりに魔術具を弄れる。そう思い中身を開き術式を見ていく。見たことない魔術具であっても術式の欠けはわかりやすいためすぐに原因はわかった。
ただし一つだけ、よく見る魔術具なのに原因がわからなかった。
(これ……術式は……問題ないよな?本当に故障しているのか?)
試しに魔力を注いでみる……が発動しない。
(うーん……魔術具に魔力が流れた感覚はあるけど術式に流れてない?なにが原因なんだ?)
故障した魔術具特有の感覚もない。術式の部分だけ外して魔力を流した。ちゃんと術式に魔力が流れているのも確認できた。
「すみません、師匠。一つだけわかりませんでした。」
「わかった。じゃあ原因がわかった4つから確認するぞ。――こいつらはサミュエルの指摘通りだ。」
当たっていたことにほっとする。見たことがない魔術具もあったからなおさらだ。
「でこいつは……なるほどね。サミュエル、お前はどう思った?怒らねえから素直な感想でいい。」
「えっと……術式には問題ないと思いました。術式だけにして魔力を流しても発動しません。でも魔力が身体から流れていくのはわかりました。あと流したとき故障したとき特有の感覚もありませんでした。」
「うん?魔力が流れたのはわかるのか?変わってるな。まあいい。術式に問題がないという判断は正しい。」
「ではなんで……。」
「こいつが答えだ。」
ルシアンが魔術具を細かく分解する。すると中から欠けた部品が見つかった。
「魔術具の故障は術式だけが原因じゃないってことだ。単純に部品が破損していて魔力が流れなかったというわけだ。」
言われてみればそのとおりだ。術式が書かれている場所以外が原因で故障なんておかしな話でもない。家電製品だって電子基盤以外が原因で故障することだってあるんだ。
「それにしてもお前、妙なことを言ったな?魔力が流れていくのわかるとか。」
「え?はい。魔術を使ったり、魔術具を使うとなんというか……身体の中の魔力がどう流れていくのか、なんとなくわかるんです。」
「ほお……そいつは珍しいな。じゃあ自分の中の魔力上限もわかるのか?俺達はよっぽど限界に近づかないとわからないが。」
「おおよそなら。初級魔術でもこれくらい減ったなとかあと何回ぐらい使えそうだなというのはわかります。」
「それは秘密にしていることか?」
「いえ、特には。ただ人に話したのも初めてです。」
「そうか。じゃあ俺から話してもいいか?」
「師匠が信頼している人なら……。」
個人情報などという概念がないこの世界で、話していいかどうかの許可を取るだけでも有情だなとサミュエルは感じた。
「わかった。それとこの部品の故障はミーナの仕事だ。こいつをミーナのところへ持っていけ。それが終わったら戻ってきて4つの修理をしろ。」
「はい。」
言いつけ通り、ミーナの作業部屋に持っていくと別の作業をしており、『そこに置いといて』とだけ言われたため、修理品を置いてすぐに戻ってきた。
初めて触る魔術具の修理は楽しかった。




