第24話 顔合わせ(5歳)
翌日、辺境伯家に4人で赴くことになった。もちろんミシェルの婚約者との顔合わせのためである。
辺境伯家の使用人に応接室に案内され、待つことになった。
テーブルを挟んで片側に四人が座れる椅子に腰掛ける。
端からサミュエル、エドワード、ミシェル、レベッカという順番だ。
そうして座って待っていると、3名の人が入室してきた。
一人はセドリックよりやや年上といった風貌で白髪交じりの薄い青髪が特徴的な男性。
そして続くのはエドワードと同じぐらいの青髪で整った顔立ちの男性。
最後に背丈はヘンリーと同じぐらいだが、ヘンリーより細身で前の二人と同じく薄い青髪にウェーブのかかった髪型の男の子だった。
「待たせたな。」
席につくと年配の男性がそう言った。
「エドワード君、久しぶりだな。セドリックは元気かな?」
「お久しぶりです。レオン・マルシュナト辺境伯閣下。父は壮健で現在も領地で奮闘しております。父からもまたお会いできる日が楽しみだと言っておりました。」
「そうかそうか。元気でなによりだ。ご夫人も久しぶりだな。隣が今回のルーカスに会いにきてくれたミシェルか。これは美しく育ったものだな。」
辺境伯の言葉に合わせて、レベッカが頭を下げ、ミシェルは立ち上がり挨拶をする。
「ありがとうございます。レオン辺境伯様。初めまして。ミシェル・ヴァロワールとお申します。此度の縁談の話は辺境伯様より提案を頂いたと祖父から聞いております。」
ミシェルは美しくカーテシーをし、辺境伯へお礼の言葉を述べた。
「そして隣がマイケル……いや、サミュエルか。」
「は、はい!初めまして!サミュエル・ヴァロワールです!御目通りいただけたこと、感謝いたします!」
「ククク、5歳にしては立派な口上だな。セドリックが書いていた通りだ。ではこちらも挨拶を。」
レオンが自分の傍に座っている二人に声をかける。
「皆さん、初めまして。オスカー・マルシュナトです。今回は父上から息子のためによい縁談相手と伺っております。こちらも皆様によき相手と思っていただければ幸いです。」
「初めまして!ルーカス・マルシュナトです!よろしくお願いします!」
「お互い挨拶も済んだことだ、始めるとしよう。」
「よろしくお願いします。」
その後、レオンは取り仕切ってはいたが会話の中心になることはなく、お互いに話題を振る程度にとどめていた。基本は父親同士が話し、子どもたちが自分のことを補足する形で進んでいった。
両親はどんな仕事をしているのか。本人たちはなにを学んでいるのか。余暇はどうやって過ごしているのか。家族仲はどんな感じか。
貴族同士の結婚は本人たちだけではなく、家同士の繋がりのためだ。父親同士の会話が中心になり、家のことを話すのは基本である。
サミュエルは上の空でそんな両者の話を聞いていた。
「へえ、そちらのサミュエル君が魔術具を?」
「ええ、昨年に故障した魔術具を直したのは驚かされました。」
突然話題がサミュエルのことになり、サミュエル本人も上の空だった意識が急速に戻された。
「そういえばセドリックがそんなことを以前手紙に書いてあったな。魔術技師の本があったら売って欲しいと。その後も孫を褒めている手紙があったからただの孫自慢かと思っていたがな。」
またもやレオンはクツクツと笑いながら手紙のことを思い出していた。
「その歳で魔術具を修理したなんて凄いね。なんでやろうと思ったの?」
サミュエルは急に自分の話題になったこと、さらに話しかけられたことに戸惑っていた。
「い、いえ。その……魔術具が面白そうだったので。それで故障した魔術具を見せてもらって……その……。あっ!でも辺境伯様が送ってくださった本があってのことです!辺境伯様、お礼が遅れて申し訳ありません。その節はありがとうございました。」
「よいよい。代金も貰っておるし、セドリックからの頼みだ。一冊だけ普段の物流に載せるだけで大したことはしておらんよ。それに面白い話も聞けたしの。」
レオンはそう言うと、ミシェルに視線を向けた。
「よい弟を持ったな。」
レオンは両親ではなく、あえてミシェルにサミュエルのことで問いかけた。
「はい。私には過ぎた可愛い弟です。」
それに対して、ミシェルは思ったままの事を答え、レオンは満足する。今度はエドワードへ視線を向けた。
「その歳でそれだけのことができるなら伸びるやもしれん。今後、なにか必要な物があれば言うといい。可能な限り手配をしよう。」
「寛大な御言葉ありがとうございます。閣下のご配慮により我が家も助かっております。」
「なに、辺境の安定は我が領地の安定にも繋がる。それにこちらにも利益が出ているのでお互い様よ。」
そのような会話をしながら半刻が過ぎたため、お開きにすることとなった。
「それでは後日、改めて縁談を進めるかどうか返事をするとしよう。」
「本日はお招きいただきありがとうございました。」
そう言って辺境伯の屋敷からヴァロワール一家は出ていった。
室内にはマルシュナト辺境伯と親子が残っているのみである。
「どうだった?オスカー、ルーカス、二人の素直な感想を聞こう。」
「よき縁かと思います。娘をやるという話なら考えましたが、貰うのでしたら一切問題がないかと。」
「私も素晴らしい女性だと思いました。聡明な美しい女性でした。」
「そうだな。セドリックに似ず、気配りができる子だったな。あと話す内容も聡明さが見て取れた。よく育てられておった。だが気をつけるのだぞルーカス。尻に敷かれんようにな。」
辺境伯はミシェルが生まれや育ちに対して優秀な女性であることを感じ、クツクツと笑いながら自分の孫に忠告する。
「それとあと一人、サミュエルが少し気になったな。あの歳で本当に魔術技師の真似事ができているのならば将来使えるかもしれんな。あとでお礼の品を届けるついでに魔術具の工房の見学を許可してやれ。」
「よいのですか?確かにあそこは許可なく立ち入れる場所ではありませんが、それは技術の秘匿の意味もあるかと思います。」
「よい。それで本人がなにかを得たのなら、それは我が領にも益をもたらすことにもなる。なにもなかったのなら、それはそれで構わん。」
「承知しました。ではそのように手配します。」
レオン・マルシュナト辺境伯。善良な人物ではあるが決してお人好しなだけではない。彼の内政手腕により辺境伯と周辺の寄子は辺境や国境沿いにも関わらず安定した治世が行えている。それは彼が目先の利益ではなく、常に先を見据えて投資を行ってきたからだ。その一つが寄子の領地への物流網の構築であった。そしてまた一つ、未来への投資を行うことになった。




