第22話 縁談(5歳)
サミュエルが町に出て少しして、マイケルの十歳式もつつがなく執り行われた。
それから数カ月後、姉のミシェルに重要な話が舞い込んだ。
婚約の話である。
以前セドリックがちょうどいい相手がいないか、寄親であるマルシュナト辺境伯の当主レオンに尋ねたところ、辺境伯家の傍系にあたる孫、ルーカスはどうかという手紙が届いた。そのためセドリックとルーシー、エドワードとレベッカの4人で話し合っていた。
「よい縁談だとは思いますが、家格に差がありすぎではないですか?」
エドワードがまず一番気になった点を口にする。
家格に大きな差がある結婚は、お互い不幸になりかねない。下の者は環境が違いすぎて蔑まれ、上の者は同格の者に舐められる。
「そこは大丈夫だ。辺境伯様の側室の孫。つまり嫁ぐのは辺境伯家ではなく、辺境伯家の一門に嫁ぐことになる。似たような話はそれほど珍しくはない。」
傍系であり、辺境伯家の家督を継ぐ立場にはない。しかし血の繋がりから信用されるためある程度重用もされる。
ルーカスの父親は現在、領地運営に関わっており、ルーカスも将来的には同じように辺境伯領の内政官など領地運営に関わる仕事に就くことになるだろう。
「家格の問題はそれでなんとかなるでしょう。それでも辺境伯家との付き合いも増えてミシェルが苦労するのではないですか?」
一門であれば当然本家との付き合いがある。周りのほぼ全員が自分より家格が高いと大変ではないかとレベッカが懸念した。
「それに関してはおそらく問題ないわ。辺境伯様は、国境を任せている寄子との関係強化のため、今回のように子爵家や男爵家からも傍流の子に娶らせたり、嫁がせたりをしています。」
辺境伯は若い頃、戦で命を落としかけたことがある。それ以来、自身は武勇で領地を治める器ではないと考え、寄子との結びつきを強め、地盤を固めることに力を注いできた。物流網に力を入れているのもその一環である。
「一門には同じ立場の人間が少なくない。それに、辺境伯様からのご提案だ。向こうも無碍にはできまい。もしなにかあれば辺境伯様ご自身がフォローしてくださるだろう。」
それに加え、辺境伯個人がヴァロワール家を信頼しており、結びつきを強くしたいという思惑も大いに合った。セドリックは手紙からもその思いを感じ取っていた。
「それならこの縁談を進めましょう。私とレベッカで子どもたちに話をしてきます。」
「頼んだ。」
そうしてエドワードとレベッカが3人の子どもを集め、話を伝えることになった。
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「ミシェルの縁談の話があった。」
サミュエルは父に話があると呼び出され、向かった先には母と姉、兄のマイケルもいた。
「どのような方とでしょうか?」
ミシェルが相手を教えてほしいと願い出る。自身の話だ。当然だろう。
「マルシュナト辺境伯家の傍系にあたる、現当主レオン様の側室の孫で名はルーカス殿だ。一門には入るが権力が強いわけではない。父親も現在辺境伯領で内政官をしている。」
その話を聞いてサミュエルは気になったことを聞いた。
「あの……側室って、奥さんが複数いるってことですか?それって大丈夫なんですか?」
前世では一夫一妻が当たり前、ただし一夫多妻制の国や時代もあったし、小説などでもハーレムは男の夢の一つとしても描かれてたものもあった。この国ではどうなのか気になった。
「ああそうか、父上も私も妻が一人だから不思議に思ったのだな。高位貴族であれば特に珍しくもない。むしろ推奨されている。家の血を残すこと、他家との関係強化にもなることだからだ。」
「高位貴族じゃないとなんで駄目なんですか?」
今度はマイケルが質問する。
「駄目なわけじゃない。ただ複数の妻を娶るのにはそれなりに資産が必要だ。低位の貴族ではそこまで多くの妻と子を養えない。」
人が増えれば部屋が必要になる。世話をする使用人の数も増える。子どもたちの将来のことも考えてやらなければならなくなる。
「マイクはたくさんの奥さんが欲しかったの?あなたも年頃だものね。でもそれなら領地を頑張って発展させればいいわよ。」
ミシェルがマイケルの質問を聞いてからかう。
「ち、違うよ!ただ気になっただけだから!」
それに対してマイケルは顔を赤くして否定する。性格上本当に気になっただけなのだろう。だがその反応は図星を突かれて照れているようにも見えた。
「……話を戻そう。父上と話し合ったが私も父上もこの話は受けたほうがいいと考えている。辺境伯様からの申し入れを断ることができないという理由もあるが、悪い話ではないからだ。嫁いだ先でも辺境伯様が気にかけてくださるため、下手な家に嫁ぐよりよっぽど安心ができる。」
両親や祖父母は賛成だという。あとはミシェルの心次第だ。
「その婚約、謹んでお受けいたします。」
それに対してミシェルはすぐに了承した。
「いつでも嫁いでいける心の準備はできています。良き妻になるため、精進は必要ですが、ヴァロワール家に恥じないよう努めてまいります。」
彼女はすでに覚悟ができていたのだ。それに良い縁談だと言ってくれた。断る理由もない。
「お姉様……。」
「サムもそんな顔しないの。別に今すぐ出ていくわけじゃないわ。」
姉と離れ離れになることに一抹の寂しさを感じていたことが顔に出ていたのだろう。ミシェルはサミュエルを慰める。
「そうだぞ。結婚は早くても15歳だ。もしルーカス殿が貴族学校に行く場合は18歳の結婚となる。」
初めて聞く言葉を聞いた。
「貴族学校?」
「そうか知らないか。貴族学校というのは貴族の人間が15歳から共同で生活する学舎だ。ほとんどは高位貴族や嫡男ばかりなので将来のコネ作りの意味合いが強いな。学ぶ内容は人によって様々だが将来就く仕事でなにを学ぶか選ぶことができる。」
自分で学ぶ内容を選ぶ……そう聞いてサミュエルは前世における大学みたいなものかな?と感じた。通えなかったので聞いた話での感想でしかないが。
「ルーカス殿がどちらかはわからないが、立場上おそらく15歳から父親か祖父の元で働くことになると思うぞ。」
「だから安心しなさい。貴方のお姉様はまだ一緒にいてあげるから。」
ミシェルは笑ってそう言った。
それに対してサミュエルは少しホッとしただけだった。
「それなら父上にも縁談を進めてもらえるよう話をしてくる。おそらく後日私とレベッカ、ミシェルで辺境伯領まで挨拶に伺うことになるから準備しておけ。ああ、あとサミュエルもな。」
――なんで俺まで?




