第20話 面白いモノ(5歳)
昼食を終え、ヴァロワール家とエノー親子を交えて歓談をしていた。
そこでヘンリーは一つの疑問を投げかける。
「前に来た時も思いましたが、この屋敷って子爵家の我が家より大きくありませんか?」
「それはね、貴方のお祖父様が頑張ったからよ。」
「お祖父様がですか?」
それを聞いていた子ども達は自分の祖父の方に顔を向ける。一体なにをしたのだろうかと。
「エノー家とヴァロワール家が同じ辺境伯様を寄親としているのは知っているでしょ。」
「はい。お母様は辺境伯様のご紹介でお父様と結婚したと聞いています。」
「ええ、その通りよ。昔、戦があった時にその辺境伯様の危ないところをお祖父様がお助けしたの。それでお祖父様は騎士から男爵になれたのよ。」
「お祖父様凄い!」
剣の腕を磨いているヘンリーにはその話がまさに物語の英雄のように聞こえた。
「いや、あれはたまたま上手くいっただけにすぎん。次同じ様に上手くできるとも限らんからな。」
謙遜しながらもセドリックは孫に尊敬の眼差しを向けられて嬉しそうだった。
「それで恩義を感じた辺境伯様からずいぶん助けてもらったの。だから広めに土地も取れて屋敷も我が家より立派にできたのよ。」
サミュエルはそれを聞いていてそうだったのかと納得した。
男爵家ってもっと貧しい印象があったからだ。ましてや辺境の男爵。地位の割には恵まれてると思っていた。
「だけどな、領地が豊かというわけじゃないぞ。それはエノー家のほうが領民も多く、豊かな生活をしてるはずだよ。」
「そうなんですか?」
エドワードが補足する。屋敷が広くても豊かなわけではないと。
「ええ、私が小さい頃なんて今みたいな食事じゃなかったわ。」
「そうだったね……。」
ナタリーが当時の食事事情を話し、それを思い出したエドワードが遠い目をした。
「昔は大変でしたものね。」
祖母のルーシーが追従したため、セドリックは苦笑を漏らした。
(そうか、寄親の辺境伯様の恩人だから辺境を任されてるし、辺境男爵の割に生活に困ってないんだ。昔は苦労したみたいだけど……そこはお祖父様が頑張ったんだろうな。そういえば魔術技師の本も辺境伯領の本屋にあったのを取り寄せたと言ってたし、たぶん今でも仲がいいんだろうな。)
いままでちょっと不思議に思っていたことが分かり、サミュエルは少しスッキリしていた。
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午後はなにをしようかと考えていると、ギルバートが提案した。
「また魔術具の修理するところを見せてよ。」
「別にいいですけど……楽しいですか?」
特に派手な動きもないし、俺が手元で細かい作業をしているだけだ。
端から見ていて楽しいものではない。
「楽しいかと言われたら微妙だけど、退屈でもないよ。それにどうせサミュエル君は他になにかあるわけではないんでしょ?」
サミュエルは図星を突かれてしまった。午前だってどうしようか悩んでたところをギルバートの提案でなんとかなったのだ。午後になって新しいことを思いつくわけがない。
「わかりました。でも文句は言わないでくださいね。」
そう言うとカークを呼んで工作室に向かった。
「昨日から思ってたけど、うちより魔術具多くない?」
「多分さっきの話に関係あるんじゃないですか?」
「さっき?ああ、辺境伯様に助けてもらったっていう?」
「うん。屋敷だけ立派にしても中身がちゃんとしてないといけないから魔術具ももらったんじゃないかなと思って。」
「そうかも。」
「ここにあるのはお祖父様が若い頃に主流だったデザインばかりだし、今使われてる物は少ないからそう思っただけですけどね。」
サミュエルは状況証拠から自身の推論を述べる。
昔から仕えているカークは、正解を言い当てたサミュエルに驚いた。だが正解は敢えて口にはせず黙って見ていた。
「じゃあこっちのは壊れてるの?」
「そうですよ。」
「なんで直さないの?」
「……簡単で面白くないから。」
「アハハハ、そんな理由で?やっぱサミュエルは変わってるね。」
やり甲斐があるかどうかは作業や研究へのモチベーションに大事だぞとサミュエルは思ったが子どもにそれを言ってもわかってもらえないと思い口を噤んだ。
「じゃあこの中で面白いのってどれ?」
「面白いの?まだ全部やれたわけじゃないけどやった中だとやっぱ保冷箱だね?なにが面白いってこれは照明具や増水具と違って2つの属性が使われているんだ。照明具は光属性だけ、増水具は水属性だけで構造自体も単純なんだ。だけど保冷箱には箱の中の温度を一定に保つ水属性と中に入れた物の腐敗を遅らせる闇属性が使われてる。水属性は氷を作る術式なんだけどこれは解けても解けた水を再凝結させることでずっと箱の中を冷やしてくれてるんだ。あと驚くのは闇属性の術式だね。闇属性ってよくわからなかったんだけどどうやら一定の空間に作用する術式を闇属性と言っているみたいで、これと組み合わせることで思ってる以上に長い時間状態を保てるんだ。でもやっぱこれは小さいしそこまで物を入れられないのが難点かな。これより大きい保冷箱ならきっと3,4つと複数の属性の術式を入れることができて物もたくさんいれられるようになると思う。でもきっとそうなると高価で魔力もたくさん消費するから大貴族じゃないと無理だよね。自分でもいつか術式が刻めるようになればこいつを改――」
「わかったわかった!面白いのはわかったから!」
何気ない質問がサミュエルの琴線に触れてしまったようだ。おそらく魔術具の話をする相手がいままで居なかったのだろう。言葉の洪水をギルバートにワッと浴びせた。
ここまで饒舌に話すサミュエルを初めてみたカークがギョッとした顔で見ていた。
「じゃあこの照明具は壊れたままなんだね。」
流れを変えるためと本人の興味から故障している照明具を手に取る。
「うん。後回しにしてるから修理待ち。」
「中を見てもいい?」
魔術具の中をしっかりと見たことがないギルバートは気になって中を見ようとする。
「別にいいですけど。」
許可をもらったギルバートは早速開けようとするが、上手く開けられず手こずっていた。苦戦した末、開けた瞬間、中身が床にこぼれ落ちる。術式が書かれている基盤に相当する部品だ。
「あ……」
落ちた部品からは床に乾いたインクが飛び散った。
「ご、ごめん……。」
壊してしまったことにギルバートは泣きそうになりながら謝る。
落ちたパーツはカークが拾い上げ、サミュエルに受け渡す。それをサミュエルが確認する。
「別にいいですよ。」
「でも……。」
「元々壊れていたものですし。このほうが面白くなりました。」
実際、術式がここまで損傷した魔術具を直す機会は滅多にない。大体は摩耗していたり、経年劣化によるものだ。外部からの衝撃で壊れた物はこれが初めてだった。
「それに壊そうとして壊したわけじゃないですよね。」
「そうだけど……。」
「ならいいですよ。」
サミュエルは笑いながらそう言った。修理し甲斐のあるものになったため笑ったのだ。
しかしそれはギルバートには違った印象を与えてきた。
「ありがとう。」
故障していたとはいえ、さらに悪くしたのは自分なのにサミュエルが笑って許してくれたことにギルバートは感謝した。
エノー家ならまず間違いなく叱られていただろう。
それと同時にやっぱり変わってるし、面白い子だとも思った。
せっかくだから今からこれを修理するかとサミュエルは修理に取り掛かった。
ギルバートはずっとそれを眺めていた。会話はなかったが楽しそうにしていた。




