第17話 最初の試練(5歳)
サミュエルがマイケルと町に繰り出した日から数ヶ月が経ち――サミュエルは5歳になっていた。
いまでは照明具以外も触らせてもらえるようになり、術式の研究が捗っていた。
中には魔術技師の本にも載っていない術式もあったが、効果から逆算して予想ができるものもあった。
特に保冷箱は2属性の魔術の組み合わせと、珍しい闇魔術が使われていたため特に興味深かった。
闇属性は他の属性みたいにどんな魔術があるのかいまいち実感が湧かなかったが、どうやら『空間に作用する魔術』が闇魔術に分類されるようだ。
というのも闇の初級魔術の効果が、相手の視界を暗闇で奪うものだったため、闇属性と分類された経緯があるようだ。
保冷箱に使われているのは、空間内の時間経過を遅らせる術式らしく、食材の腐敗を数日遅らせる効果があるようだった。
もし大貴族向けの上位品があるなら、ぜひ術式を見てみたい。
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そんなある日、屋敷に来客があるということで祖父から孫たち3人に話があると書斎まで呼び出した。
父、エドワードの姉であるナタリー・エノーが子どもを連れて数年ぶりに帰省するというのだ。
ナタリーはヴァロワール家と寄親を同じにしている、エノー子爵家に嫁いでいき、すでに3人の子を産んでいる。
サミュエルが生まれる前は帰省したことがあるが、3人目の子がサミュエルの1歳上で、長旅に耐えられないとのことでこれまで控えていた。
「ナタリーは次男のヘンリーと三男のギルバートを連れてくるとのことだ。そこで二人の相手をお前達二人にしてほしい。マイケルはヘンリーのことを覚えているか?」
「うん。昔、剣の使い方とか教えて貰いました!」
「よく覚えているな。サミュエルは初めての相手だが頼んだぞ。」
(頼まれて困る!)
初対面の相手をしろと言われても、サミュエルにとっては無茶振りでしかなかった。
以前、町で子どもたちと遊んだ時は、兄が主導してほとんど会話しなくてよかった。
兵士の駐屯地では相手が大人であり『取引』だった。さらに向こうもこちらを貴族として接してくれたため、上位の立場で話せたのでまだ楽だった。
だけど今度は同じ年頃の同じ貴族の子どもである。
しかも相手をしろということは、案内をしたり、ホストとして接待をしろということだ。
兄ももう一人の子どもの相手をしなければならないため、こちらのフォローは期待できない。
正直、とてつもなく気が重かった。
「サミュエル。返事は!?」
「は、はい。」
「よし、では頼んだぞ。」
そう言うとセドリックは子どもたちを退室させた。
勢いに押されてしまった。どうして姉じゃなくて俺なんだろうか。
「サム。あなたはなんで私じゃなくて、自分が接待役しなきゃいけないんだろうって考えてるでしょ?」
「え?どうして……。」
それを?とサミュエルは思考が読まれたことに驚く。
「あなたの表情と普段の生活を見てればわかるわよ。知らない人の接待が嫌なのよね?」
「う、うん……。」
「それでもお祖父様が怖くて……いえ、サムの場合は遠慮してお祖父様に嫌だと言えなかったのよね?まあ言っても聞いてもらえなかったと思うけどね。」
(どうしてそこまで!?)
「だからあなたの表情を見ていればわかるのよ。貴族なんだしもう少し隠す練習をしなさい。あとなんで私が接待役じゃないかって話だったわね。」
この姉は自分のことを何でもお見通しのようだとサミュエルは恐怖した。
「もし私が接待するなら私がヘンリーで、マイクがギルバートをやることになるでしょうね。年齢が近い方が対応するのが普通ですもの。前に来たときは、今回は来ない嫡男の接待をしたわ。」
「じゃあなんで?」
「ヘンリーにはもう婚約者がいて、私にはいないからよ。婚約者がいるのに年の近い男女を接待役に付けるのは好ましくないのよ。ましてや片方がまだいないのも良くないわね。それに私はナタリー叔母様とお話しなきゃいけないのもあるわ。」
ミシェルはいずれ他家に嫁いでいく身。すでに嫁いだ身内の人間の話は大切であり、淑女としての会話の練習にもなる。
「これで私じゃなくてサムがやらなきゃいけない理由がわかったわね?」
「う、うん……。」
「不安だとは思うけど、こう考えなさい。接待が上手くいかなくてもいいって。相手はお父様のお姉様の子どもよ。怪我とかさせなければ大して問題にならないわ。むしろ練習相手と思ってやってみなさい。」
「そう心配するなって、俺もずっと傍にはいてやれないけど、傍にいるときぐらいは俺に任せろって。」
姉は失敗しなくてもいいとサミュエルの背中を押してくれた。
マイケルもサミュエルをフォローすると宣言してくれる。
不安は消えない。初対面の相手と何を話せばいいのかもわからないし、気まずい空気になったらどうすればいいのかもわからない。そんな不安を抱えていた。
でも二人とも当たり前のように助けてくれると言ってくれた。おかげで少し気が楽になった気がした。そんな姉と兄に心の中で感謝した。
また胸がチクリと痛んだ。




