第16話 孫たち
エドワードがセドリックに相談することがあるため、セドリックの書斎に入室した。すると部屋の主はなにかを書いている最中であった。
「失礼します。おや?父上、お手紙ですか?」
「ああ、辺境伯様にな。魔術技師の本を手配してくださったお礼をと。」
「あれは辺境伯様に用意してもらったのですね。たしか辺境伯様は、父上が戦でお救いしたご縁で男爵に取り立ててくださった方でしたね。幼い頃にお会いした際、辺境伯様が話してくださいました。」
セドリックは苦笑した。
「辺境伯様は義理堅い御方でな。儂を男爵に取り立ててくださっただけでなく、今でもこうして気にかけてくださる。行商人が定期的に来るのも辺境伯様のご配慮あってこそだ。おかげで辺境にしては不自由なく暮らせておる。」
「それで本の手配も素早くやっていただけたのですね。」
「ああ。近況報告は欠かさん。孫たちの話もよく書いておる。特に今回は本のおかげで孫の成長が見ることができたからな。」
「父上がそこまで孫達の話を書いているなら、辺境伯様もあの子達のことはご存じかもしれませんね。」
「さてな。孫自慢など年寄りの戯言として流されておるかもしれん。ところでなんの用だ?」
「そうでした。子どもたちの件なのですが、まずはミシェルからいきましょう。十歳式が終わり、婚約者を決めてやろうかと思います。」
エドワードは本来の子どもたち3人に関することで相談があったからだ。
そして長女のミシェルの件から触れた。
「そうだな。同じ男爵か子爵家の嫡男に嫁がせてやればいいが……、向こうからこちらと縁を持ちたがるものがいるかどうかだな。わかった。儂の方でもいい縁談がないか探しておこう。」
「よろしくお願いします。次はマイケルの件です。マイケルは以前から剣や魔術の訓練は積極的でしたが、最近になって勉強にも頑張るようになりました。ただやはり苦手なようで苦労はしてますが、諦めることなく取り組んでいます。おそらくサミュエルが知識方面で成果を出しているので奮起したのでしょう。」
「サミュエルへの対抗心か?」
「いえ、どちらかというとサミュエルから尊敬される兄でありたいと思ってるようで、そちらでも頼られたいのだと思います。」
「なるほど。最近サミュエルが存在感を出してきたから少し心配していたが、あの子なりに目指すべき場所を見つけたようだな。」
「使用人や護衛からの報告では、たまに町に行き、色んな人と交流しているようです。気さくに話しかけ、相手も領主の息子のため多少遠慮はしていますが、慕われているようです。子どもたちとも一緒に遊んでいるとのことです。そういえば先日サミュエルを連れて町で遊んでたともありました。」
以前から町に繰り出していたのは知っていたが、まさかサミュエルを連れていったとは思わなかったため、セドリックは少し驚く。
「ほう、それでどうだった?」
「護衛からの報告では、普段マイケルが巡回するルートと同じだったが、サミュエルの面倒をよくみていたそうです。串焼きなど奢って食べさせてたとか。あと子どもと球蹴りを一緒に遊んで、ちょっとした事故が起きそうになったのを、マイケルが止めてくれたと聞いています。」
「事故?」
不穏な単語が出てセドリックがそれに反応した。
「事故といっても、不可抗力で力強い球がサミュエルに向かって飛んできたのを、マイケルが防いだようです。状況的にも悪意はなく事故だとわかったのでそれを起こした子どもにも気をつけるように注意だけして済ませたとのことです。」
「そうか……。あの子はサミュエルを守ったのか……。」
セドリックは孫たちの兄弟仲がいいことに安心した。
「サミュエルはマイケルと違ってほとんど屋敷の敷地から出ませんからね。庭にも訓練や魔術具の確認でしか出ようとしないのでマイケルが連れ出したのはどちらにもいい影響があったと思います。ただ事前に私か父上に言うようには言っておきましたが。」
急に護衛対象が増えれば、護衛たちも困惑したことだろうとエドワードには理解できた。
「続いてサミュエルですが、5歳からの教育はどうしますか?当初はマイケルと同じ貴族としての教育を始める予定でしたが、魔術技師として独学で頑張っている今下手に時間を割くのはあまりよくない気がします。」
4歳にして魔術具の修理をした。
この事実は決して軽くはない。
嫡男ならともかく、いずれ家を出て独立する子だ。
マイケルになにかあったときの予備だからまったくないというわけにはいかないが必要最小限でいいだろうとエドワードは考えていた。
「そうだな。エドワードの言う通りだ。魔術に関しては我々から教えてやれることはない。できるのは環境を整えてやることだけだ。それも金銭面からあまり多くのことはしてやれない。独学で頑張っているのなら、貴族としての教育は最低限にしておこう。なに、あの子は賢い、すぐに覚えてくれるだろう。」
「そうですね。ではその方針でいきましょう。カークにも私から伝えておきます。」
「うむ、頼んだ。」
「では、失礼します。」
こうして今後の子どもたちの相談は終わった。
ただし二人は一つ勘違いしていた。
サミュエルは確かに年齢の割に賢いが、それは前世での記憶があるからに過ぎない。
そして興味がある対象にだけ意欲的になっているだけであり、貴族教育は魔術具の修理のようにはいかなかった。




