第三十八章 クラウディア家は終わらせない
次兄が、重たい足取りで部屋に入ってきた。
「……このままでは、クラウディア家は終わりだ」
低く、押し殺した声だった。
「おまえが東帝国を帝国に返すなら――
俺たちは、まだ仕事をもらえる。生き延びられる」
そう言いながら、次兄は腰の剣に手をかけた。
鞘に触れた指先が、わずかに震えている。
「……お前を殺して、俺も死ぬ。それで帳尻は合う」
カルディは、しばらく言葉を失った。
「……???」
やがて、首を傾げる。
「ねえ。もしさ、
帝国以上の“仕事”をあげるって言ったら?」
次兄の眉が、ぴくりと動く。
カルディは続けた。
「知ってる?
クラウディアって姓――皇帝の一族の名前なんだよ」
一歩、踏み出す。
「頭を下げて、ペコペコして、
使い潰される家で終わるつもり?」
静かに、しかしはっきりと言った。
「自分の足で立つ領主になってみる気は、ない?」
次兄は、剣から手を離した。
何も言わず、踵を返す。
扉が閉まる音だけが、部屋に残った
カルディは一同を見渡し、わずかに肩をすくめた。
「……逃げてきたのは分かってる」
「だから“安全な仕事”を用意した」
「金じゃない。ラピスラズリだ。
世界でバーミヤンだけが独占している。
運ぶだけで、帝国は口出しできない」
兄たちの表情を確かめるように、間を置く。
「地味だけど、確実だ」
「命を賭けたいなら財務でも領主でもいい。
でも――生き残りたいなら、まず物流だ」
父の言葉を聞き、カルディは一瞬だけ目を伏せた。
「……そうだね」
そして、いつもの調子に戻る。
「じゃあ今日は飯にしよう。
選択肢は逃げないから」




