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珠音いろ  作者: 今安ロキ
後日談 ―いろあせず―
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11回表 負けられない思い

光り輝く同級生に隠れ、必ずしも順風満帆とは言えないプロ野球人生を、大庭洋輔は過ごしていた。

挫けそうになることも多かったが、共に駆ける"ライバル"たちから引き離されないよう、少しでも近づけるよう過ごした日々は、プロ野球ファンの脳裏へ確かに焼き付いただろう。

11回表 負けられない思い


 球場DJからのアナウンスを受け、大庭洋輔はベンチから飛び出し、ヒーローインタビューを受けるべくお立ち台に上る。

 マウンドよりも少し高い位置からグラウンドを、そして観客席を臨むと、それら大観衆の視線や歓声が自身にのみ見けられていることを改めて実感した。

 洋輔が見せる今シーズンの活躍は目覚ましく、シーズン半ばを迎えようとしている現段階で打率は3割を超え、監督推薦でオールスターゲームへの出場も決まっている。

「(去年の自分が、今年の自分の姿を想像できただろうか)」

 決勝打を放つことも多く、お立ち台に上がることはこれで3回目。

 洋輔はその都度、前年までの自分を思い浮かべていた。 

 プロ野球選手としての大庭洋輔は、まず”苦労人”と表現されることが多いだろう。

 楓山珠音、土浦浩平という特異な存在こそいたものの、これまで学生時代に所属した野球部は全て無名校ばかり。

 有力校のセレクションを受験したが合格できず、所属したのは無名とまでは言えない程度の2部リーグ所属の大学で、在学期間中は一度も1部昇格を果たせなかった。

 大学卒業と同時に野球を辞めようかとも思っていたが、縁あって所属した社会人野球チームと出場した都市対抗野球でスカウトの目に留まり、静岡サンオーシャンズへの入団に至る。

 選手層の薄いサンオーシャンズにとってスイッチヒッターで複数ポジションを守れる洋輔の存在はありがたく、所属初年度にして静岡最終年の優勝には大きく貢献したまではよかったが、以降は苦闘の日々が続く。

 サンオーシャンズが沖縄へ移転した2年目以降は打撃不振にあえぎ、後輩選手の台頭に押し出される形で出場機会を失い、4年目のシーズン終了後にトレードを通告される。

 心機一転。

 新天地での活躍を誓ったものの気合が空回りしたか、後年に振り返る限り引退年を除いてキャリアワーストの成績を残す。

 もともと主力選手が故障し、手術による開幕出遅れが予定されたこと、バックアップ要員の不足からユーティリティ性を買われたトレード加入だったが期待に応えきれず、わずか1年で戦力外通告を受けるに至った。

「チャンスを与えてくれたチームと、声援を送ってくれる皆さんへの感謝、”まずは”これに尽きますね。あと――」

 インタビュアーから活躍の秘訣を聞かれる都度、洋輔は決まって同じ返答をした。

 定型文のようであるものの洋輔の誠実さがにじんでおり、キャンプインを2軍で割り振られたものの、オープン戦以降の泥臭い活躍から開幕スタメンを勝ち取ったストーリー性も相まり、新天地での人気獲得へ一役買っていた。



 所属チームはBクラスに終わったが、洋輔はキャリアハイの成績を収めた。

 繋ぎのバントも強打もできる2番打者として1年間完走し、最終的に規定打席へ到達、打率は3割を切ってしまったものの.291と好成績を収めた。

 シーズン終了後、契約更改では来季年俸400%アップを勝ち取り、会見場では満面の笑みを見せる。

「大庭選手、今シーズンの活躍の秘訣は何でしょう」

 タイトルこそ獲得できなかったが、前年に戦力外通告を受けた選手の大活躍はスポーツライターにとって格好の”ネタ”となった。

 駆け付けた記者の質問に”定型文”を交えて丁寧な返答を重ね、予定されていた会見時間は間もなく終わろうとした頃合い。

「やっぱり、この1年は“俺だって負けてられない”という思いが大きかったと思います」

 記者からの質問への受動的な答えでなく、洋輔は自発的に思いを発した。

「高校からの同級生が頑張っているのに、自分だけ落ちぶれてられないですからね」

 記者たちはまず第一に、沖縄サンオーシャンズの土浦浩平を思い浮かべただろう。

 レギュラー定着以降は正捕手として打撃、守備共に安定した活躍を収めており、30歳に差し掛かり現役を退く者も増えつつある同年代の中で、筆頭の選手と言える。

 続いて思い浮かべただろう選手は、間違いなく彼女だった。

「楓山珠音が海外に行って、メジャーリーグの舞台に立つだなんて、とんでもないことをしでかしたのに、国内でなんとか拾ってもらった自分がくすぶる訳にもいかないですからね。ほんと、負けていられないですよ」

 改めて言葉に出し、洋輔は高校時代から付き合いのある元チームメイトの存在の大きさを実感する。

 彼女と出会い、時に横に並んで共に駆け抜けてきたと勘違いしそうになるが、その実は背を追ってきた、あるいは必死に付いて来たに過ぎないのだろう。

 自嘲気味な笑みを浮かべつつ、来季への抱負を語った後に、洋輔の会見は終了した。


 翌シーズン以降6年、社会人を経て飛び込んだ通算12年におよぶ大庭洋輔のプロ野球人生は、決して花のある選手生活ではなかっただろう。

 太陽のように光り輝く同級生2人の影に隠れた存在ではあったが、それでもその足跡はファンの脳裏へ確かに焼き付き、”楓山珠音”を語る上で欠かせない選手の一人となった。

Pixiv様にも投稿させていただいております。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27968493

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