061 第4Q開始
24点差をひっくり返す。
仮にすばる高がこの第4Qで英修をゼロ点に抑えたとして、それには少なくとも25点以上、ゴール数なら13ゴールが必要。
実際は10分間ずっと無失点でいるなんて、相手が英修じゃなくても無理。
だから、それ以上のゴールが求められる。
失点は最小限に留めつつ、取られた以上の点を取る。
ここから英修に勝つ、というのはそういう難易度の話。
……改めて条件を整理すると、尚更難しく感じちゃうな。
そんな中で、英修がレギュラーメンバーを下げたというのは、ありがたい話だ。
舐められているようでいい気はしないけど、相手のクオリティが下がればこちらが差を詰める可能性はぐっと高くなる。
逆に言えば、それだけ大胆にメンバーを変えても大丈夫だと、向こうが思っている証でもある。
24点差はそれだけ大きなリードだ。
出来る事を最大限やる。
攻撃は時間を掛けず、守備は粘り強く。
大事なのは、どれだけ得点の機会を多く作れるか。
鍵になるのはリバウンド。
先生も、その為に葵に変えて飛鳥さんを戻したハズだ。
空中戦での勝率を少しでも上げるために。
ディフェンスリバウンドは絶対に死守。
相手のミスショットは確実に自分達のオフェンスに繋げなきゃいけない。
オフェンスリバウンドも積極的に奪いに行く。
シュートが全部決まれば問題ないけど、展開上、無理目に狙うシュートはどうしても増える。
私自身の状態も正直あんまり良くない。
かといって、ギャンブルみたいなプレーはしちゃいけない。
こっちが自滅するのは駄目。
相手を楽にするだけだ。
ボールを持つ私に、この第4Qから入った11番が身体を寄せてくる。
身長は150後半、といったところか。
インターバルの2分でどれだけ休めたのか、体力が回復したのかは分からない。
どっちにしろ、ここからは気力の勝負だ。
頼むから我慢してよ、私の身体。
そう自分の身体にお願いして――踏み込む。
突然仕掛けた私のスピードに、#11の反応が遅れた。
いける。
マークを剥がして、前へ進む。
英修は4人でゾーンを組み、スペースを守っている。
その中からヘルプが出てくる様子はない。
明らかに試合に入り切れていない、そんな相手の隙を見逃しはしない。
私は3ポイントラインの前で足を止め、素早くシュートを放った。
飛鳥さん、詩織さん、環さん、千秋までもが、リバウンドに備えてペイントエリアへ入り込む。
英修の選手達も負けじとゴール周辺を固める。
少しでも優位なリバウンドポジションを譲るまいという構え。
シュートが外れる事を期待しながら、ボールを目で追う。
そんな期待を裏切るように、ボールがリングへと吸い込まれていく。
――!
短い歓声の残響。
「何やってんだ! そいつは簡単に打たせるなっ!」
英修ベンチから、味方に容赦ない叱咤が飛ぶ。
「ディフェンスッ! 止めましょう!」
バックコートに戻るメンバーにそう声を掛けながら、私はハーフラインより前、フロントコートに残った。
そしてそのまま、ボールホルダーに対してプレッシャーを掛けに出る。
ドリブルコースを限定しながらも、意図的にパスコースを空けるディフェンス。
さっさと攻めてこい。
そういうメッセージを送ったつもりだったが、その誘いには簡単に乗ってくれない。
ゆっくりとボールを運び、フロントコートへと入っていく。
仕方なく、プレッシャーの掛け方を強くする。
そこでようやく、近寄ってきた選手へとボールを預けた。
そしてゆっくりと、機を伺うようにパスを回し始める。
24秒の猶予をフルに使うように、ゆっくりと。
流石にこの点差じゃ、打ち合いには応じてくれないか。
英修はもう試合を締めに来ている。
攻め急いでウチの攻撃機会を増やすような事はしてくれない。
使える時間をフルに使って、時計を進めようという考え。
面白みのない横パスが続く。
攻める意思を持たないボールが目の前を行き来する度、焦れた足が反応しそうになる。
ここは我慢。
今にも襲い掛かってしまいそうな気持ちを制し、ショットクロックの秒数が減るのを必死に待った。
クロックが10秒を切ったところで、ようやく相手が仕掛けてくる。
中だけはボールを入れさせないようにコースを切る。
ここは無難に外から打たせたい。
ゴール下には、身長で勝る3人、私も加われば4人。
ディフェンスリバウンドだけは絶対死守する。
やがて、時間ギリギリになった相手が、3ポイントライン、角度のない位置からシュート。
「リバンッ!」
ボールの行方を追う。
私に加えて、外のパス回しを必死に追いかけた千秋もリバウンドに入る。
ガツッと音を立て、リングに当たったボールが、強く外へ弾かれる。
「任せろっ!」
ボールを掴んだのは、飛鳥さんだった。
「こっち!」
ボールを要求。
そんな私の背後に、英修のマークがついてきた。
飛鳥さんからパスを受け、すぐにターン。
相手に食い下がる暇すら与えずに躱すと、そのままドリブル。
味方の上がりを待たず、トップスピードに乗る。
無謀に見える特攻を見せる私に、前方から一人ディフェンスが寄せてくる。
伸びてきた手に対し、無理くり足首を捻り、進路を変える。
ゴール前には二人。
その狭い間のスペースをこじ開けるように、そのまま突っ込んだ。
左手からボールをリリース。
ゴールなんて見ていない。
そこにあるハズのリングを信じて、ボールを放っただけだ。
勢いそのままに、ゴール裏の壁へと向かう身体。
ステップでその勢いを殺しながら、最後は両手で跳ねのけるように壁を突き放し、再びコートへと足へを向ける。
ざわめきが起こる。
シュートはきちんとリングを捉え、ネットを揺らしてくれたみたいだ。




