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第2話責任と恩返し

「あら〜、おかえりなさぁい。村長」


 俺が思っていた村とはかけ離れた場所に唖然としていると、家の中から誰かが出てくる。


「ただいまミルフィーナ。やっぱり言っていた通り、また暴れていたわ。例の魔物」


「やっぱり〜? 私の予想通りだったんだぁ」


 かなりゆっくりとした口調で喋るミルフィーナと呼ばれた少女は、ルチリアと同じように犬耳を生やしていた。


(ルチリアと同じ種族か?)


「ついでに何か拾ってきたんだけど、どうやらこの子この世界の人間じゃないみたいなの」


「拾ったって、人を物みたいに言うなよ」


「へぇ〜、この子がぁ?」


 至近距離までやって来て、俺の目を見るミルフィーナ。


(ち、近っ)


 その上、結構可愛いからドキドキしてしまう。


「名前は何て言うのぉ?」


「か、カエデです。あ、あのよろしくお願いします」


「よろしくね〜」


 おまけに話すスピードが遅いので、ここまでの会話で一分は使っている。


(時間かかるから、余計にドキドキする……)


「とりあえず他の皆にも報告してくるから、またね」


「バイバ〜イ」


 ひとしきり挨拶をしたので、ルチリアに連れられて次の家へと向かう。


「最近やけにざわつくと思ったら、やっぱりそうだったか。オレ……私もそんな予感してたんだ」


 次に訪れた家の住人は、とにかく毛深い。百獣の王のライオンが、人間になったのかという感じの女の子が出てきた。


「それで、そこにいるのは今日の晩御飯か?」


「そんな訳ないでしょ! そこで拾ってきた訳あり男児よ」


「へえ、こいつ男なのか? 道理でおいしそうなわけだ」


「俺は食い物じゃないっての。俺はカエデ。とりあえずよろしく」


「オ……私は百獣の王だ。よろしくな」


「名前が百獣の王か。相当イタイ奴だな」


「待て待て冗談を本気にするな。私は、ぽ、ポチだ。ポチって名前なんだ」


「ぽ、ポチ? そ、その姿で? ぽ、ボチって」


 見た目と名前のギャップに笑いがこみ上げてくる。


「だから嫌なんだよ! この名前」


「わ、悪い。悪気はないんだけど、面白くて」


「やっぱりこいつは夕食にするべきだ!」


「まあまあ、カエデもその辺にしてあげて。ポチはポチだけど、これでも強い子なんだから。名前はポチだけど」


「あんたもフォローしろよ!」


「ポチって……」


「そこに直れぇぇ!」


 結局俺の笑いが収まったのは、それから五分経った後だった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 ポチの家を出た後、俺が連れて来られたのは空き家。どうやら今の二人がこの村に住んでいる村人らしい。


「え? マジ?」


「本当はもう一人、いたりするんだけど。今はいないの」


「じゃあここに住んでいるのは四人だけなのか?」


「昔はもっといたんだけどね。ちょっと色々あったのよ」


「色々?」


「色々は色々よ。とりあえずここがあなたの家ね。丁度空き家があってよかった」


「ここ、俺の家にしていいのか?」


 先程も言ったが、ここに建っているのは別荘レベルの大きさの物。一人で生活するには勿体無いくらいだ。


「勿論条件付きよ。さっきからチラホラ耳にしているけど、近頃この近辺には魔物が増え始めているの。あなたも遭遇したあれよ」


「あれが魔物なのか?」


 あの可愛げのない猫はどうやら魔物だったらしい・


「で、今調査中だったの。そこで偶然あなたに居合わせたって感じ」


「そうなんだ。それで、俺にもその調査を手伝ってほしいと」


「簡単に言うとそんな感じかな。勿論食事とかは出るし、家財道具は用意する。いきなりこんな事言われて困るだろうけど、お願い!」


 必死に頼むルチリア。確かに突然こんなこと言われて、


(はいそうですか、とは頷きにくいな……)


 そもそも相手は得体の知れない物だ。しかも俺は、運動神経もあまり良くない方。下手したら戦いになりかねないというのに、こんな体で生き残れるなんて思えない。


「そこまで言われると、断りにくいんですけど、俺そういうの向いてないんです。元々運動とかできないんで」


「心配ないです。私が戦い方について手取り足取り教えてあげますから」


 手取り足取り? 何とも意味深な発言にしか聞こえてこないのだが、そこまで言うなら……。


「だからどうか……」


 ばたん


「え?」


 そんな倒れそうになるまで頼まれても、と思ったが違うことに気がついた。


「ちょっ、ルチリアさん?!」


 突如起きた非常事態に動揺してしまう。何と彼女の体からは血が流れていたのだ。


「誰か! 誰かー!」


 ■□■□■□

「えっとつまり、ルチリアは虚弱体質なのに、俺を助けたのか?」


「簡単に言うとそんな感じなんだ。オ……私も長年一緒にいるけど、かなりの数で倒れている」


「この血は?」


「倒れるとルチリアの体から何故か血が出るんだよ。恐らくちょっとした怪我でも、出るんだろうな」


 突然ルチリアが倒れてい俺は動揺したが、よく聞くとそういう体質らしい。最初会った時は、強い子だなとか思っていたけど、無理を承知で俺を助けてくれたのか彼女は。


(何か申し訳ないな……)


 直接的な原因でなかったとしても、俺にも非はある。事情を知らなかったとはいえ、怪我をさせてしまったのは紛れもない事実だ。


「う……あれ? 私……」


 そんな事を考えている間に、ルチリアが目を覚ます。あれからまだそんなに時間は経っていないので、どうやら重傷ではなかったらしい。


「悪かったルチリア。俺なんかの為に無理までさせて」


「無理なんかしてないわよ。それに命の危険に晒されている人を見捨てることなんてできなかった。だから気にしないで」


「けど……」


「とにかく、あなたが無事だったんだからそれでいいの! はい、お終い」


(いくらなんでも責任を感じるな)


 無理やり話を終わらされて、気持ちがモヤモヤする。しかし当の本人は何もないよと笑顔すら見せていた。


「カエデって言ったっけ? そんなに気負わなくていいんだぞ? 私も何度か助けられてるから、ルチリアには」


 そんな不安を和らげてくれるかのように、ポチが言葉をかけてくれる。


「その度に怪我しているけど、今もこうして生きているんだから、そんな難しい顔をするなよ。それでも感謝したいなら、頼み事を聞いてあげればいい」


「そっか、頼み事か……」


 魔物の調査を手伝ってほしい、それが彼女の頼み事。俺なんかにできるのかとか思っていたけど、それ以上に体が弱いルチリアが頑張っているのだから、協力する以外に道はない。


「分かった、俺協力するよルチリア。その魔物の調査」


「カエデ君……」


「ただし、今度からは無茶しないでほしい。これは俺なりの恩返しなんだから」


「分かった。じゃあ早速だけど、特訓を始めるわよ」


『あんたは少し休め!』


 こうして俺は、ルチリアへの恩返しという意味で、魔物の調査の協力をする事になった。


(この先に何が起きるか不安ではあるけど……)


 今は彼女を守れればそれだけでいい、そう俺は決意するのだった。

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