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第53話姉の願い 妹の想い 前編

「モカ様、カエデの様子はどうですか?」


「傷は見た目は浅いけど少し深めに刺されてるから、結構重症かもしれません」


「そうですか……」


 カエデ君の治療をしてくれたモカ様の言葉を聞いて、私の中の不安は一気に広がった。私がもう少しだけ早く到着していれば怪我をせずに済んでいたかもしれない、そう考えるとすごく悔しかった。


(守れなかった。私の力がないから……)


 ただ私は悲しみに暮れる。私はもう誰も失わない為に強くなったのに、結局また私は守りきる事ができなかった。


「ルチリア、お前が何も気にやむ必要なんてない。私達も力不足だったんだから」


 そのショックで一人黄昏ていると、ポチが私に声をかけてくれる。いつも彼女は私が落ち込んでいると声をかけてくれる。そのおかげで何度も立ち直ることができるのだけど、今回は簡単に立ち直れそうにはなかった。


「もっと早く気がつけばよかった。カエデが負傷している事に。それなのに私は、その事にも気がつく事が出来なかったの」


「だから全部自分のせいにするのか? そうやってまた、一人で抱えるのか?」


「何が悪いの? ポチだって言えないでしょ?」


「なっ、それは……私だって同じだけど、それとこれとは違うだろ。今回はルチリアだけの問題じゃない。ポカルミ村皆の問題だ。それにカエデが傷ついて、一番ショックを受けている人物が一人いるだろ?」


「シズクちゃんの事……よね」


「分かってるじゃないか」


 彼女が私よりもショックを受けているのは、先程の様子を見て分かっていた。目の前で大切な人が傷つけられ、自分が何も出来なかったという事実。それを受け入れるには必ず時間が必要になる。


「ルチリアちゃん、ポチ」


 私達が話をしていると、その本人であるシズクちゃんの声がする。


「シズクちゃん、大丈夫?」


「正直大丈夫ではないの。だって楓が……私を守ってくれた楓が……」


 我慢していたのか徐々に涙声になっていくシズクちゃん。私はどんな言葉をかければいいか分からなかった。


「シズク、お前が辛いのは分かる。だから辛い時には私達を頼ってくれ」


 その私に代わって声をかけたのはポチだった。


「……え?」


「お前はもうとっくに私達の一員なんだから、辛い時は皆で共有しよう。今回の件を私達はシズクを責めようとも思わないし、シズクのせいでカエデが怪我したとも思っていない」


「でもわたしが勝手に村を出ようとなんかしなかったら、楓は……」


「それにだってちゃんとした理由があるじゃないか。シズクは私達の為に頑張ってくれようとしたんだろ?」


「でも私は……」


「もういいのよシズクちゃん」


 ポチに何を言われても言い淀むシズクちゃんに、今度は私が言葉をかける。


「カエデは私達に言っていたの、シズクは何も悪くないから責めないでくれって」


「楓が? どうして?」


「カエデは分かっていたの。シズクちゃんが私達の為に動いた理由を。だから何も悪くないって言っていたの」


「楓……」


「だから私達も何も責めないって決めたの。私達はもう仲間なんだから、どんどん頼ってほしいな」


「ルチリアさん……私……私」


 シズクちゃんが私に泣きつく。それを私は優しく受け止め、その頭を優しく撫でてあげる。


「自分勝手な事をしてしまったのは分かっていたの。でも貴方達を救えないなんて嫌だった。もう誰かを失うような事だけは怖いの」


「カエデが教えてくれたけど、妹さんの事なんだよね?」


「うん……。あの時私は何も出来なかった。助けたいといくら願っても、何も出来なかった。だから医学を一生懸命勉強して、救えなかった命を救おうって決めたの……」


「だから私達も救おうとしてくれたんだよね。でもねシズクちゃん。それは私達はそれをもう受け入れているの」


「やったこともないのに、そんなの決めないでよ! 私は絶対何か道を見つける」


「シズクちゃん……」


 私もポチも何の言葉もかけられなかった。シズクちゃんの気持ちはすごく嬉しい。だけどもう私達はその事については諦めている。もう何度も何度も頑張ってきたからこそ、もう希望なんてないのも分かっていた。


(シズクちゃん、これだけはごめんなさい)


 私は心の中で彼女に謝罪したのであった。


 ■□■□■□

 雫を守ることは、明里の願いだった。


『かっちゃん、お姉ちゃんの側にいてあげてほしいの』


『雫を?』


『お姉ちゃん、私の為に無理しているの。でも私分かっているんだ。自分の命が長くないって』


『そんな事……言わないでよ』


 彼女は自分のために雫がずっと頑張っている事を知っていた。でもまだ小学生。できる事なんて限られている。


『お姉ちゃん、私がいなくなったら苦しむと思うの。だからお願いいたします、かっちゃん。お姉ちゃんをずっと守ってあげて』


『……分かった。僕が雫を守る。だから明里も頑張って』


『うん……』


 それは明里が亡くなる一週間前に、彼女が俺にかけた言葉だった。俺はこの時明里が亡くなる事なんてあり得ないと思っていたし、きっと体調が良くなるって思っていた。

 それは小学生だったからこその想い。それが叶わないとも知らずにずっと願っていた。それは勿論姉の雫も同じだった。


『楓、助けて。私沢山沢山考えても、明里を助ける方法が見つからないの』



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