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第49話十五年分の愛言葉 後編

 今になってふと思い出す事がある。それはまだ俺がルチリア達と出会ってから間もない事。


『ケッコン? 何それ?』


『ほら、カエデ君はいつかは王様になるんだから、誰かがお嫁さんになるんでしょ?』


『お父さんとお母さんみたいに?』


『うん! だからその相手にね……』


 まだ子供の頃の些細な約束だから、思い出すキッカケがなかった。でも今、彼女の言葉を聞いて思い出した。


「そうか……あの時も……」


「私は今日色々な事を知って、色々な事を思い出したの。だからあの時の事もしっかり思い出した」


「約束、というほどの事はしてないけど、確かにあの時俺はルチリアと何かしたよな」


「もしかして思い出してくれたの?」


「……ああ」


 あの時は殆ど冗談みたいなものだった。ましてや結婚なんて、そんなの考えてもいなかったしルチリアの想いにも気づけてなかった。


(果たして今の俺はどうなのだろうか)


 今のが彼女の告白ならば、俺も答えを出してあげなければならないのは分かっている。だけど今俺の中には、どうしても迷いがあった。


「ルチリア、一つ聞いていいか?」


「何?」


「さっきの言葉、俺は信じていいのか?」


「さっきの言葉?」


「俺はルチリアだけじゃなくて、ポチや他の皆が母さんみたいな未来を歩んでしまうのがすごく怖いんだ。さっきも言ったと思うけど、もう誰かをこの手で殺すなんてそんな事、できない」


 未だに腕は震えている。この感覚はもしかしたら一生残るかもしれない。もしその感覚が、またやってくる時が来たら、それは……。


「その事なら信じてほしい。私だけじゃなくて、他の皆の事も」


「でも絶対にないとは言えないんだろ?」


「ごめん、それは私も否定する事はできないの。でも私達はそれに怯えてばかりじゃ、毎日を生きていく事なんかできない。それはこれまでも、そしてこれからも」


「怖くないのか?」


「怖くないわけじゃない。ででもそれが私達獣人に課せられた使命でもあるの」


「使命って……」


 それを俺になんとかする事はできないのだろうか。こうは言っていても、本当は毎日が苦しいはずなのに、それなのにどうして彼女達は前を向けるのか分からない。


「カエデが心配する気持ちはすごく分かる。でも私はそんな使命以上に、大切なものを見つけたの。だからもう怖くない」


「大切なもの?」


「カエデ、私達でもう一度ナルカディアを作り上げない? カエデが人と獣人の和睦を願うなら、何かを始める事が大切だと思うから」


 ルチリアの大切なもの、それは自分の命よりもこの島の、この世界の未来の事だった。


「ルチリア、俺は」


「答えはすぐに出さなくていいの。でも私はカエデと一緒なら、それでいい」


「……ありがとう」


 ただすぐに俺は答えを出せなかった。母さんも同じ事を言っていたけど、俺にはそんな資質があるようには思えない。架け橋になる事は出来るかもしれないけど、それ以上の事を俺には……。


「私待ってるから。カエデがいい答えを出してくれる事を」


 ■□■□■□

 海底都市での出来事から二日が経った。俺はその間ずっとルチリアの言葉に対する答えを探していたが、やはり見つけ出す事はできなかった。

 でもそれと並行して、ある事が気がかりになっていた。


「雫が家から出てこない?」


「はい。恐らく私のせいなんです」


 あの日を境に何故か雫の元気がなかった。そしてその原因は自分にあるとモカは言う。


「もしかしてこの前二人きりになった時に、何かあったのか?」


「実は」


 何があったのかモカから聞かされる。それを聞いて俺は少しばかり驚いた。


「それを雫に話したのか?」


「はい。話しておかないといけないと思って」


「そっか。雫にも話したのか……」


「もしかして何か悪い事でもしたのでしょうか?」


「いや、俺の事はいずれ話さなければならないと思っていたからいいんだ。それよりも獣化病について話したなら、多分雫は何とかして助けたいと思ったんだろうな」


「でもそれは、どうしようもできない事なんです。だからシズクには諦めてもらうしかないと」


「だから何だよきっと」


「それは……どういう意味ですか?」


 雫はこういう話になると、どうしても何とかしたいという正義みたいのがある。それがいかに不可能な話だとしても、彼女の中に諦めようという気持ちはない。

 だがそれが空回る事が多く、彼女は今みたいな状況になっているのだろう。


「大丈夫、モカが気にやむ事はない。ただ、こればかりは雫も辛いんだろうな」


「シズクに何かあったのですか?」


「ちょっと昔な」


 彼女なりの正義には、源がある。ただ、それは彼女にとって決していい思い出ではないのは確かだ。その事は一番俺が理解している。


「ったく、仕方ねえな」


「どこへ行くんですか?」


「決まってるだろ。雫のところだよ」



 現在雫はポチの家の一室を部屋として借りている。ここ二日部屋から出てきていない事は、一緒に暮らしているポチも心配していた。


「カエデなら何とかできるのか?」


「ああ。任せておいてくれ」


 ポチの許可をもらい、彼女の部屋へ向かう。ノックをしても返事はなく、部屋の鍵は開けたままだった。


「入るぞ雫」


 一言断って、俺は部屋に入る。しかしそこには雫の姿はなかった。


「雫?」


 まさか一人で村を出たのか?

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