4、クジョウの嵐
グツグツグツ……
何やら台所から、得も言われぬ異臭が漂い、慌ててドミノがしっぽを伸ばして換気扇を付ける。
「凄い臭いばい、本当に大丈夫ね?」
エリは一番大きな鍋をコンロにかけ、左手に杖を持ち、右手にお玉を持ってかき回しながら何やらブツブツとつぶやいていた。
「静かにせよ、集中できんではないか。なかなか黄金に輝かんのじゃ。
うむー、何かが違う。私の魔力は完璧じゃから、やっぱり材料が悪い」
「だから、しらんよーって言ったろ?」
鼻にしっぽを巻いて、部屋に充満する臭いが何だか黄色く見えてくる。
「たまらんばい、もう」
ドタッと、居間から何かが倒れる音がして、慌ててドミノが見に行く。
するとそこには、先程までテレビを見ていた日本人形のような着物姿のママが、ぱったり倒れていた。
「ママが倒れたばいっ、エリ!」
「うぬう、もう少しなのじゃー」
トタトタとドミノが駆け寄って、しっぽでママさんを介抱する。
「ママさん、ママさん」
「ああー、ドミちゃんママもう駄目……」
「しっかりするばいっ、ママさん。ああ、一太早く帰ってきてー」
キンコンキンコン
タイミング良く、ドアのチャイムが鳴り響く。
「一太ばいっ」
パッとドミノがドアへ走る。
しかしそこは異様な雰囲気が漂っていた。
ドンドンドン
「ちょっとっ隣ですけど、この臭いどうにかしてよ!」
ドンドンドン
「お宅のネコがうちのランを!弁償しろっ」
ドンドンドン
「蜂をまき散らして、どういうつもりよっ」
ドンドンドン、ドンドンドン
いきなり外から沢山の来訪者が文句を言いにやってきていた。
ドアの前はワイワイと人が押し寄せ、口々に苦情や文句を言っている。
ドンドンドン、キンコンキンコン
「ちょっとっ、ここに住んでんのわかってんのよっ!ママの声戻してよっ!」
「ピーピーピーチュンチュン!」
何故か何やら、オカマらしき声も聞こえる。
「わーんっ、一太あっ、助けてえっ!」
ドミノはどうした物かと途方に暮れて廊下にへたりと座り、おいおい泣き始めてしまった。