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10:じわじわジリジリ水面下




 物事は静かに、水面下で行われるものである。



 侍女のネネを橋渡しに、リュネットとクルードが連絡を取り合っているなどつゆ知らず。ダルネスとナルシアは相変わらず、他人を蔑みあざ笑う生活を送っていた。




 それに根を上げたのは、リュネットではなく使用人たちである。ナルシアの傍若無人の振る舞いにより派閥ができ、空気がギスギスしていたが、加えて嫌がらせまで加わったら勤めてなどいられない。



 屋敷からは、ひとり、また一人と消えて行った。

 しかし、ダルネスもナルシアも鼻で笑って気にしていなかった。


 使用人ならいくらでもいる。

 募集をかければ、金欲しさにやってくる。

 そう、高をくくっていたのだが──問題は、問答無用で襲い掛かってきた。



 ダルネスの世話係、ピヨールが逃げ出したのだ。旧知の仲であるピヨールの失踪は流石に堪えたようで、ダルネスは珍しくリュネットに泣きついた。



 『誰も私を愛してはくれない……リュネット、お前は違うだろ?』



 ……自分から「妻売り」に申請をし、愛人まで作り好き勝手やっているのに、何を言っているのだこいつは。と、リュネットは心の底から思ったのだが──



 彼女はそれを逆手に取った。

 ダルネスにひとり、真面目な使用人を紹介したのである。

 規律正しく、落ち着いた声を持つその使用人を、ダルネスはとても気に入った。




「おい、ショーン! 彼女がナルシアだ! 挨拶をしなさい!」

「はい、ダルネス様。初めましてナルシア様。わたくし、ショーン・マクラベルと申します」


「まあ! 素敵な青年ですこと! ダルちゃんのお付き? いいなぁ、ナルシアにもついてくれない?」

「はははは、冗談が過ぎるぞナルシア! お前にこんな男を付けるわけにいかない、すぐに食べられてしまうぞ? わたしがお前にしたように、な♡」

「きゃ♡ もぉ~、ダルちゃん、そんな恥ずかしいこと言っちゃダメ♡」


「はっはっは!」

「ふふふ♡」



「────……はは」




 いちゃつく二人に、ショーンは心を閉ざし、笑顔の仮面を身に着けた。これも全て、念願成就のためだと、静かに拳を握りながら。








 夜の帳が降りたダルネス領の外れ。

 没落貴族が手放した屋敷の中。


 かつての栄華を物語る広間の天井は崩れ、月明かりが無遠慮に床を照らしていた。


 壁には薄汚れた古い壁画が残り、埃の積もった家具が散らばる。暖炉の中で赤々と燃える火が、荒んだ部屋温める。



 だが、それが照らすのは、廃墟と化した部屋の中と──そこで酔いに浮かれる二人の男だ。




「はっはっは! おいラヴィズ、もっと飲め! 上質の酒だ、振舞ってやろう」





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