80話 五本の枝
クラブで夜通し踊り明かす若者以外、ほとんどの人々が眠りに就いている深更。人間に扮した死徒たちは、市街地を起点にそれぞれ個別に動いていた。
ティウブこと憎悪のバルトロマイは、北西方面のシュパンダウアー・フォルストへ。キィナこと嫉妬のマティアは、南東方面のゼティン湖を囲む森林公園へ。ケエブこと痛哭のタデウスは、北東方面のヴァンゼー湖側の森林公園へ。オツェルこと惨苦のトマスは、南西方面のノイエ・ヴィーゼンへ向かった。
そして、カアこと憤怒のフィリポは、ティーアガルテンの戦勝記念塔に来ていた。葉が付いた一本の枝を持ち、静かで灯りも乏しい暗闇の中、明かりも持たずに塔の周りをうろうろしている。
「ここに刺せって言ってもよー。芝生ばっかじゃ目立つし、不自然じゃねーか。どこに刺せばいいんだよ」
塔の周囲を不審者のごとく何度も歩き回り、相応しい場所を探し続けている。戦勝記念塔の周りは芝生のみ。ここに不自然だと思われないよう枝を挿せと命令を受けているが、フィリポの頭をどう捻っても自然にはできない。
「しょーがねぇな。一本しかないこいつの側にしとくか。対になるようにしとけば、何とか誤魔化せるだろ」
塔の北側に、高さ3メートルほどの一本の常緑樹が立っている。違和感を誤魔化せるとしたら、ここしかなかった。
フィリポは持っていた枝を、通路を挟んで木の向かい側の芝生に突き立てた。
すると。ただの枝はすぐに根を張り、早送りをするようにぐんぐん背を高くし、幹を太くし、枝葉を増やし、あっという間に向かい側の木と変わらない高さの樹木となった。
「これで、ここはOKだな!」
一方。野生動物が保護され、面積はほぼ森林で締められている広大な森林の、シュパンダウアー・フォルスト。
こんな深更の深い森林は、もちろん灯りなどない。新月の今日は余計に闇が深く、生き物の気配が逆に気味悪く思える。
その静寂の森の中を、闇に紛れた影となったバルトロマイは、積もる枯れ葉の音もさせずに目的地へ向かっていた。
迷うことなく奥へ奥へと進み、ある場所で影の中から人間ティウブの姿を取った。
そこには、石でできた石碑があった。長い年月が経っているのだろう。手入れもされず苔を生やし、風雨に晒され続けたせいで削られた表面はデコボコし、刻まれている文字も読み難くなっている。
「これだな」
そしてバルトロマイも、持っていた枝を石碑の側に挿した。こちらもすぐに根を張ると、太くなった幹は分裂して石碑に巻き付きながら成長し、枝葉を増やして樹木となると、すっぽりと覆い隠してしまった。
「『ホーローカウスト』へ、また一歩近付いた」
(あとは、成長してその時を待つのみ)
物質界でのもう一つの重要な指令を終えたバルトロマイは、影の中に消え、再び深更の静けさの中に溶けた。
ここまで読んで下さりありがとうございます
『イアメメ』はしばらくお休みとなります。更新再開までお待ち頂けると幸いです
(活動報告にもお休みの件を書いてます。よかったらそちらもご一読下さい)




