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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第6章 Riss─綻ぶ─

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47話 不快な相席



 男は、自分が不審者だとほぼ確定されていることも知らず、次の質問をしてくる。


「先祖の写真は、見たことがあるか」

(まだ、先祖のこと聞こうとしてくる……)


 新手の占い詐欺師なのか、はたまた別の類の詐欺師か。ストーカー疑惑もまだ残っているので、ペトロは厭わしく思いながらもう少し付き合った。


「写真くらいは」

「どのくらい昔まで見た」

「どのくらい、って言われても……」

「その写真の中に、見目のいい女性はいなかったか」

(見目のいい女性……? キレイな人ってことか。でも、写真見たのかなり昔だし)

「覚えてないです」

「本当か」

「本当です」


 ペトロは平静を装いながら、一秒でも早く立ち去れる準備をするために、話しながらツィトローネクーヘンを食べ切り、カプチーノを残すのみとなった。


(この人の目的は、本当に何なんだ。オレの家族を探って、何かしようとしてるのか……? 変装してても、使徒だと見抜かれた。てことは、かなりの観察力がある。つまり……それだけ頭も良い!?  やっぱりこいつは、何かを企んでオレに近付いたのか! でも、一体何をしようと……。まさか……。オレの名前を手掛かりに血縁者を探し出して、詐欺を働こうと!? 戦闘に巻き込まれて手術して損害賠償を請求したけど、本人に邪険にされたから代わりに金を出せ! って、被害を捏造して、賠償金を要求するつもりなのか!?)


 ペトロの推察は、飛躍していそうだが……。頭の良い犯罪者は、荒唐無稽な手段さえ可能にする。使徒の家族に、手を出す度胸もあるだろう。だが。ペトロのこの飛躍的な推察が現実になったとしても、男は使徒のチームワークの前に手も足も出ず、お縄に付くことになるが。

 しかし。父親や祖父母に何かあったらと想像すると、許せない。警戒心MAXのペトロは少し怖かったが、これ以上の詮索はやめてほしいと言おうと、思い切って男の顔を見た。


「あのっ……」


 顔を向けると、向けられていると思わなかった男の黒い双眸と、目が合った。飄々としている独特な雰囲気の中に、ドラマで観る刑事や探偵のような探究心が見えた。

 それが、根深い執着のような探求心に感じたペトロだったが、不思議と、不審な男の視線からすぐに外せなかった。

 男はペトロの碧眼を真っ直ぐに見つめ、また次の質問をする。


「ネックレスは持っているか」

「ネックレス……?」

「T字が付いたネックレスだ」


 男は、ペトロの胸元に視線を落として尋ねた。ペトロは、今日はハイネックのニットを着ているので、ネックレスは見えない。それなのに男は、持っているのを知っているかのように訊いた。

 ペトロは悟られないよう、視線も手も動かさないよう意識する。


(何で、ネックレスのことなんか……。これを探してるのか? でも。だったらなんで、家族のことなんか……)


 このネックレスは、家族との思い出でもある大事なものだ。男がこれを探し求めていたとしても、手放す気はないペトロは嘘をつく。


「そんなもの、知りません」


 ペトロの回答を聞いた男は僅かに眉をひそめ、初めて表情を動かした。

 黒尽くめの男───怨嗟のマタイ(マタイ・デア・グロル)は、ペトロの答えを怪しんだ。


(知らないだと? なら、何度も感じた事のある()の感覚は何だ。『蝶』に迷い過ぎて、感覚が鈍ったのか? ……(いや)。ゴエティア達は、此の使徒にも他の使徒とは違う感覚を認めていた。それに、俺の感覚が鈍るなど絶対に有り得無い……。此奴(こいつ)。嘘をついているのか?)


 自身の感覚に絶対の自信があるマタイは、ペトロに疑心を抱く。

 ペトロの方は、会話をしながらも、少ぉ〜〜しずつこっそり男から距離を取り、どうにか出入口のすぐ隣の席まで移動することに成功した。緊張ですっかり口の中が乾いたので、残りのカプチーノを飲み干した。


(脱出の準備は万端! だけど、先に席を立ち難いな……。この人、いつまでいるんだよぉ。オレの何を知りたいわけ? ていうか。ストーカー男と話してるって、何なんだよこの状況!?)


 マタイがいつもの気配を無にしているので、男がやつだと全く気付かないペトロ。マタイはマタイで、人間が見ず知らずの黒尽くめの男にストーキングされる恐怖を一切忖度せず、態勢を変えることなく思考を巡らせる。


(嘘をついているなら、確証を得て問い詰めてやろう。此奴の過去を掘り返してやれば、容易に真偽が判明する。だが。ネックレスの存在を知らないことが嘘ではなく本当なら、俺と相互干渉をしたところで、肝心の手掛かりが掴めない可能性がある。一番相性が良いのはフィリポだが、奴が手掛かりを見ていればいいが……。期待は薄いか)

(この人、本当に何!? オレのことばかり探ってきて、全然名乗らないし。訊いてくるの、プライバシーなことばかりだし。てことは、やっぱり裏社会の人? オレから引き出した話を手掛かりに、犯罪を犯そうとしてる!? だったら、通報した方がいいのか? それとも。使徒の力をほんのちょこっと使って、気絶させて逃げるか?)

(ならば。俺の正体を明かし、此の辺りに居る人間全員を人質にし、真実を吐かせるか? そうすれば此奴も……)


 長く居座る曖昧模糊の究明と、脱出を目的に仕掛けようかと目論む二人の視線が、同時に交わった。けれどペトロは、黒い瞳にビビって、一般人に力を使うのはさすがに悪いと思い留まった。

 マタイも、ペトロの碧眼を見た瞬間、それまで考えていた策を思い留まらせた。


「……」


 沈黙を続けた男は、サッと立ち上がった。「っ!?」体勢を微動だにしなかったのでペトロはちょっとビクッとするが、男は何もせずに無言で去って行った。

 ブラックコーヒーは一口も飲まれないまま、冷たくなって放置された。

 緊張と恐怖から開放されたペトロは安心し、背凭れに寄り掛かって大きな溜め息をつく。


「はあっ……」

(帰ってくれてよかったぁー。この時間が、永遠に続くのかと思った……。あのストーカー、本当に一体何がしたかったんだ)

「家族に迷惑掛からなければ、それでいいんだけど」



 店を出たマタイは、怪訝な面持ちを露にして歩いた。


「何故だ」

(何故、強行に出なかった。俺は人間なんぞに同情はしない。感情移入など吐き気がする。囲まれているだけで虫唾が走り、直ぐにでも血の海にしてやりたくなる。此奴等は、治乱興亡(ちらんこうぼう)を幻想だと考える唾棄(だき)すべき衆愚。最早、存在価値など見出す意味も無い。なのに何故、あの目を見ただけで思い留まった? 何故だ!?)


 まるで。死徒の本能と存在しないはずの理性が衝突し、相殺したような自身の行動の意味がわからず、苛立ち、影を操って一瞬でゴミ箱をなぎ倒した。

 突然ゴミ箱が倒れ中身が散乱した怪奇現象に、通行人は何が起きたんだと振り向いた。




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