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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第6章 Riss─綻ぶ─

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43話 生の空気



 再びペトロたちと共同生活を始めたハーロルトは、また事務所の手伝いをしながら、自身の宿命と戦う覚悟を作るための日々を始めた。

 その生活が始まって二日。一緒に事務所にいたヨハネが悪魔出現が感知し、留守を頼もうとしたが、一緒に行かせてほしいと同行を願い出たので、ヨハネは一瞬の判断で許可した。

 しかし。ハーロルトはまだ使徒のような身体能力は発揮していないので、場所を教えて先に現場へ向かった。


 ヨハネが到着したのは、宿舎から西へほぼ真っ直ぐの、シューネベルク区庁舎前。中心地ほど賑やかではないが、飲食店などの路面店が軒を並べ、旧集合住宅(アルトバウ)近代集合住宅(ノイバウ)の新旧の建築物が建ち並ぶ。

 ベージュ色の壁に焦げ茶色の屋根、中心に塔を据えたシンメトリーのシューネベルク区庁舎前には、区旗・州旗・国旗そしてEUの旗が掲揚されている。黒い文字盤に金の英数字の時計が設置された塔の天辺にも州旗が掲げられ、秋の風にはためいている。


「ヨハネ!」

「ペトロ。ヤコブ!」


 庁舎前に倒れる、身なりがあまりよくない老父を注意しながらヨハネが避難を促していると、電動キックボードを抱えたアルバイト中のペトロと、休みで出掛けていた私服のヤコブが到着した。


「区庁舎前ってだけで気を遣わなきゃならねぇのに、法務審査局までセットって面倒くせぇな」


 区庁舎のすく横には、司法省の法務審査局の建物がある。大学で法学の学位を取得し司法の職を目指す者たちが継続教育コースで研修しているが、上院司法・消費者保護省も入っているので、将来司法に関わる有望な人材だけでなく、現役の裁判官など偉い人もいる。


「仕方ないだろ。悪魔はTPOを考えないんだから」

「とりあえず、区庁舎内からは一歩も出ないようにお願いしておいた。法務審査局の方にも、情報共有してくれてる」

「協力的で本当にありがたいな」


 そこへ、ハーロルトが運転する事務所の車が到着し、区庁舎の駐車場に停められた。


「ごめん。遅くなっちゃった!」

「ハーロルト。お前まで来たのかよ!?」


 戻って来てまだ二日しか経っていないというのに、ハーロルトが戦闘の現場に現れて、その行動力が信じられないヤコブとペトロ。本当に意思が変わったんだと内心感嘆するが、やはり心配の方が勝ってしまう。


「事務所の手伝いさせとかなくていいのか。ヨハネ」

「ハーロルトが、来たいって言ったんだ。戦いの雰囲気にも、慣れてもらった方がいいだろ」

「そうだけど、邪魔にならねぇか?」


 ヤコブが懸念を口にしたその時。倒れた老父が叫び出した。


「ゔああああ……っ!」

「領域展開!」


 避難もある程度完了したので、区庁舎と法務審査局を避けてヨハネが守護領域を展開する。ハーロルトも領域内に残り、悪魔から離れるよう指示された。

 老父から現れた悪魔は、四肢の他に、肩や腰からウネウネした触手のようなものを生やしている。


「面倒くせぇ戦闘はしたくないから、俺が深層潜入して来る」

「わかった。ペトロは、ハーロルトを守ってくれ。一般人だから、狙われる可能性がある。余裕があったら、僕の援護も頼む!」

「了解! お前は、オレの側から絶対に離れるなよ!」

「うん。わかった」


 ペトロは、守護領域間際までハーロルトと下がり、援護態勢を取る。

 ヤコブは深層潜入を開始し、ヨハネが単独前衛の布陣で、ハーロルト緊張の瞬間───悪魔との戦闘が始まった。

 悪魔は四肢は使わず、うねらせていた四本の触手を硬化させ鋭利な武器と化して、敵と見做したヨハネを連続で襲う。

 猛スピードの投げ槍を、後退、左に右に回避すると、硬質化した触手は道路のコンクリートを砕き、突き刺さる。触手は、ヨハネを執拗に追って来る。


「降り注げ! 祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン!」


 ヨハネは光の弾丸を降らせた。硬化している触手は案外千切れたが、すぐに再生し、ヨハネが避ける度に、足場にした車やトラックの車体を遠慮なく貫通させていく。


「ダΓ%、§ηジ¿イ……!」


 悪魔は背中からも二本の触手を生やし、硬質化させた黒い槍でペトロとハーロルトを狙う。


「穿つ! 闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)!」


 ペトロは両脇に二つの光の玉を出現させ、光線を放ち触手を焼き払っていく。「&@∅ッ!」


「大丈夫か。怖くないか?」


 ペトロは目の前の敵から顔を逸らさず、背後にいるハーロルトに訊く。


「前よりは全然。わりと大丈夫」

「こんなの普通だからな。これにビビッてたら、お前に戦いは向いてないってことだ」


 一般人に近い人間が紛れ込んでいると感知した悪魔は、ヨハネと並行してペトロたちも狙い続ける。

 ペトロは光線で触手を焼き払いながら、あることを感じていた。


(なんでだろ。こいつは戦闘経験のない一般人なのに、変に安心感みたいなものを感じる。ユダが一緒にいた時と似てるけど、〈バンデ〉の感じとは少し違う気がする。不思議だ。全然別人なのに……)


 そんなことに少しばかり気を逸して、正面の触手に集中していた。その時。


「ペトロ! 背後だ!」


 触手から遠ざかり旧集合住宅(アルトバウ)のテラスの上にいたヨハネが、長く伸びた鋭利な触手が、ペトロの死角からハーロルトに迫っていることを知らせた。


(やばっ!)

防御(フェアヴァイガン)!」


 触手が迫る気配の方向に振り返り、防壁で不意打ち攻撃からハーロルトを守った。そしてすぐさま、闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)で二本の触手を焼き払う。


「ごめん! 大丈夫か!?」

「大丈夫……。やっぱり、足手まといだったかな」

「迷惑掛けるとか考えるな。一緒に戦うってことは、広い視野で悪魔にも仲間にも意識を向けて、助け合うことだ。それが仲間だ」

「広い視野……。チーム戦だからってことだね」

「そういうこと!」


 何度焼き払っても再生し、ハーロルトに恨みでもあるかのように狙って来る触手に、ペトロは何度も光線を放つ。


(余計なことに気を取られるな。集中しろ、オレ!)




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