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17 強行偵察②


『――進路クリアーです。行ってらっしゃいませー』


「アラン・ウォーレンス。【M・TMA-04 コアⅡ】。出撃する。2人は俺についてきてくれ』


『了解。ターニャ・ラドフスキー、【コアⅡ】、出ます』


『ロランド、【コアⅡ】、続いて出ます』



 ボーデンからの発信許可が下り、アランら3人は格納庫からスラスターを吹かして飛び立っていく。少しずつ【ガーベイジ】との距離が開いていく中で、ターニャが純粋な疑問をアランへと投げかけた。



『大尉、質問があります』


「どうしたターニャ伍長」


『【ガーベイジ】にTMA射出用のカタパルトが設けられていないのは何故なのでしょうか』


「TMAの運用を想定していなかった旧式の輸送艦だからだ。与えられた予算ではTMA固定用ハンガーを設けるのが限界だったそうだ」


『なるほど。急場凌ぎで間に合わせているのですね』


「そういうことだ。設備面に関して要望を出しても承認されることはないと考えておいてくれ」


『了解です』



 淡々と向けられる質問に対し、同じく淡々と返答していく。何処となく似通ったような雰囲気漂わせる2人の受け答えは【ガーベイジ】の艦橋にも聞こえており、モラキンは渋い表情で艦長席に踏ん反りかえっていた。

 これ以上問いかけを続けなかった点からして、ターニャは設備への不満があったから問いを投げたのではないことが窺えた。知り得た後は無言で目の前の事への対処に当たる様子は、出撃前にも見せていたからである。

 知らない事柄をそのままでは済まさず、きちんと明確に。知識の集積に貪欲な姿勢と淡々としゃべる様子からは機械的な性質が感じられる。周りに馴染むこともなく己を貫くこうした様を見れば、以前の配属先で何かしらの問題を発生させたことが容易に想像できた。



『……アラン大尉。私からも質問していいでしょうか』


「問題ない。言ってみろ」



 着実にコロニー【208】に近づいていく最中でロランドも口を開いた。低く、重みが感じられる口調は何かを案じているようにも感じ取れる。



『格納庫の奥に、大破した【ケルベロス】がありました。激しい戦闘の末にああなったのでしょうか』


「そうともいえる。先の大規模作戦終了後で我々が担当した任務において、たまたま逃亡を図る巡洋艦と輸送艦に遭遇した。死に物狂いの抵抗を受け、月面に落下した結果があの有様だ」


『なるほど。ちなみに、どういった経緯で配備されたのですか』


「あれは照準システムの調整不備で味方機を誤射した”曰く付き”の機体だった。現物を残しておきたくない連中が押し付けてきた厄介者だったんだ」


『そう……、ですか。返答、ありがとうございます』



 若干言葉を詰まらせながらロランドは礼を述べる。明らかに様子がおかしい震え声を聞いたアランは、とあることを察してしまった。

 それから程なくして、コロニー【208】の3箇所ある出入り口の一つである第二港にアランたちは到着する。今回の作戦に参加する別部隊も迫ってきており、後はその場で待つのみとなった。

 


「各員、その場で待機。本作戦を共に実行する別部隊合流後、コロニー内部へと進入する」


『『了解』』



 コロニー外壁に接触しない位置で姿勢制御用のスラスターを吹かしながらアランたちは別部隊の到着を待つ。そうした彼らへと、閉じられつつある港各部窓のシャッターの隙間からカメラのフラッシュが向けられていた。

 単純な興味本位から焚かれるものなら好ましいのだが、現実はそうではない。”敵”であるこちらが実行しようとしている『強行偵察』に反発する者たちの抵抗方法の一つだからだ。

 誰でも乗り気にはなれない今回の作戦。それでも「自分たちに拒否権はない」と心中において割り切ったアランはその輝きがシャッターの向こうへと消えるその時まで眺め続ける。



『……大尉』


「グエンか。秘匿回線を使うとあらぬ疑いをかけられるぞ」



 心地いとは言えない状況下で他の者には聞こえぬ秘匿回線を繋いできたのは待機所にいるはずのグエン。少々重苦しい雰囲気を発する言葉に纏わせる彼は、そのまま続けた。



『今回来たロランドってやつ、もしかして――』


「恐らく”ロイを誤射した”のは彼だろうな」


『気づきました? 格納庫で【ケルベロス】に苦い顔向けてて、さっきの回線聞いた時点で確信したんすよ』


「問題は、何故このタイミングで”塵溜”に配属されたかということだ。考えたくはないが……」


『いや、上の連中なら躊躇いなくやるでしょ。証拠隠滅に長けてるってのは俺や大尉が良い証拠ですしね』


「……そうだな」


『んじゃ、そろそろ切ります。武運長久、祈って待ちますよー』



 心のこもっていない軽い送り出しの言葉を告げた後、グエンは秘匿回線を切る。静かになったコクピットにおいてアランはため息をつき、新たな波乱の渦中となるはずのコロニー【208】を見据えるのだった。

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