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百年戦争異聞録 ―没落貴族と十人の英雄―  作者: 乱坂 螢音
盗賊の街
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第9話 選別

2週に1度くらいのペースが基本となるかもしれません……出来る限り週1で投稿できるようには致しますので、これからもよろしくお願いいたします。

 一際綺麗にサファイアが光ると、荘厳な声で告げる。それは、古代の魔導具と言われても、エヴィルの残した罠と言われても納得できるような、人ならざる不思議な声だった。


「うむ、眠りにつくその日まで、この力はお主らのものだ。精々上手く使いたまえ。起きよ同胞たちよ、久方ぶりに起きるときが来たぞ!」


 言葉の意味がわからず首を傾げるルーネだったが、次の瞬間その意味を理解する。箱の中の他の石が、喋り始めたのだった。


「あら、仕事かしら?」

「ん、今回はこの言葉を使えばよいのだな」

「ったく、もうちっと眠らせろや……」


 口々にバラバラのことを喋りだす石たち。しかし、サファイアがそれを止める。どうやら、彼がこの石達のリーダーのようだった。


「おや、眠っている間に随分と数が減ったようだが……まぁよい。さて、お主らにどの力が相応しいか、選ぶとしようか。だが、我々に相応しくないと判断されたものに力を与えることはできない。それは重々承知しておいてくれたまえ。それでは、そこにいるのは2人か?一人ずつ順番に我々の前に立ちたまえ」

「いや、3人だけど……」

「おっと、それは失礼した。我々には視覚はない、力のみで周囲を観測しているのでな、動きがないものはわからないのだよ、許して欲しい。そんなことよりも、だ。早速並んでくれたまえ」


 その言葉がどういう意味か3人には全くわからなかったが、今はともかく、言うとおりにしようというのが3人の共通意思だった。そして、3人が目を見配せると、箱の前に最初に立つのは、ルーネに決まった。


「さて、お主の力を我らに流せ。それが我々の糧であり、同時にお主らにどの力が相応しいのかを決める試験ともなる」

「力……?」

「うむ、我らを起こした力を再び流せば良いだけのことよ。お主が流したのでないとしても、同じ力は使えるのだろう?我々はその力をお主から感じるからこそ言っておるのだ」


 ルーネには力とはなにか、想像もつかなかった。しかし、流せる力など、魔力以外のものは思いつかなかった。試しに、マナを箱に流してみると、サファイアが満足そうに告げた。


「素晴らしい力だ。不純なものの少ない素晴らしい力だ。本来なら奴でもいいところだが、奴はここにいないのか……よし、私がお主の力になるとしよう。異論があるものはいるか?」


 石たちが沈黙を貫くと、再び満足そうに、サファイアが話す。


「こんな良い力をありがとう、お主なら私が持つ力を存分に扱えるだろう。よろしく頼むぞ」

「あなたの力って……」

「それはまた後だ。先にもう一人……いや、二人か。その選定をしようぞ」


 石がルーネの言葉を遮り、次の者に同じ事をするように告げる。エレンがキャシーに先に行くよう告げると、渋々ながら、キャシーが箱に魔力を流した。すると、今度はサファイアではなく、深い褐色のこれも美しい石が、透き通るような声で喋り始めた。それは、ガーネットと呼ばれる宝石だった。


「この力は粗削りだけれど私好みの力ね。気に入ったわ、あなたには私の力を貸してあげる。お名前は?」

「カトリーヌ。カトリーヌ・グリフィズよ。あんた達のことは信用してないけど、とりあえずよろしくと言っておくわ」


 つんけんとした態度でキャシーは答える。その目には、ありありと不信感が浮かんでいた。なぜそこまでの態度をとるのか、この時のルーネには知る由もない。

 ガーネットは気に留めることもなく、上品に話し続ける。

 

「あら、女の子だったのね。それにしても酷いわ、所詮私たちは道具、使い手を裏切ることなんかできっこないのに」

「エヴィルの道具ならなんとでも言うでしょうね、そんな言葉は信用ならないわ」


 気が立った様子のキャシーをルーネが宥める。しかし、ガーネットはキャシーの発言を聞いて気を悪くする様子もなく、クスリと笑う。


「芯の強い子は嫌いじゃないわ。今はなんといっていただいても構いませんわ。でも、私の力は使ってくださると嬉しいわね。さ、おしゃべりはこの辺にして、最後の子の選別といきましょうか?」


 そういうと最後の一人に立つように促す。しかし、エレンはそこに立とうとはしなかった。


「どうしたのエレン、君の番だよ?」

「あー、いや、俺はやっぱいいわ……」


 伏し目がちにそれを拒絶したエレン。ばつが悪そうな彼の態度は、普段の勇猛で剛毅な性格からは考えられないものであった。

 彼はルーネの説得にも応じようとせず、足早に部屋を出ていってしまった。


「ちょっと待ってよエレン!?」


 走り去るエレンをキャシーが追いかける。体力に劣るルーネでは、彼ら2人に着いていくことはできないからだ。

 再びしんと静まり返った部屋。少し間をおいて、サファイアが静かになにかを呟いたが、ルーネにはそれを聞き取ることはできなかった。改めてルーネの名を呼び、サファイアは話を続ける。


「……まぁよい。先ずはお主に我が力をお見せしようか」


 しかし、その時だった。街の教会の鐘が鳴り響く。その音は、時刻を知らせるときのような普段の様子とは違っていた。速く激しく叩かれるそれは、異常事態を示す鐘の音。

 何があったかと窓を開けようとした時、キャシーが部屋に飛び込んでくる。エレンを追っていたキャシーだったが、彼女によればどうやらエレンが街に入ったところで見失ったらしい。キャシーの足は決して遅くはなかったが、エレンもまた身体能力は非常に高く、人ごみにに紛れられたらもうわからないとのことだった。


「それで、この鐘はなんの鐘なんだい?」

「そうよ、大変なの!代官も話していた盗賊の襲撃があったみたいなの!」


 ぎょっとしてルーネはキャシーの方を見る。無言で頷くキャシー。急いで窓を開くと、そこには逃げ惑う群衆と、煙が見えた。宿の三階にある彼らの部屋からは、その様子がよく見える。彼らがここでしたのはエレンの心配よりも、ここから逃げるべきか、戦うべきかの算段であった。正直、エレンは放っておいても死ぬような人間ではない。彼らは、昔からエレンの膂力と戦闘のセンスは嫌というほど思い知っているのだ。


 そんなことよりも、捕虜として預かっている負傷兵や男爵、伯爵が死んでしまえば、遺恨が残るのは間違いない。よりによってアクイタニア伯を相手にするのは避けたいことだった。できれば、伯のような豪傑は味方につけたい。義勇兵という吹けば飛びそうな戦力も、後ろ盾次第では訓練と装備で最低限生き残ることは可能であるからだ。


 ここから躍り出て盗賊たちを止めに行くのは正直分が悪い戦いである。戦いは綿密な準備がされていなければ、後手を取った方の負けである。それに、先ほど見た様子、盗賊は20はくだらない人数がおり、街の三方から攻め上がって、ギルドを目指すようなルートを取っていると予測がつく。

 決心がついたかのようにルーネが口を開く。奇しくも、それはキャシーと同時のことだった。


「伯爵と男爵にも助けを請おう」

「クズと伯爵にも助けてもらわない?」


 再び目を見合わせ、少し笑いあう二人。先ほど一瞬流れた緊張も解れたようだった。そうと決まれば話は早い。二人はそれぞれサファイアとガーネットの指示によってそれを身に着け、キャシーが残りの宝石を腰の巾着へしまうと、二人の所へ交渉に行くのだった。


 時は九つを少し回った頃。かがり火の炎だけが、街を照らす。そのなかで、盗賊たちとの闘いが刻一刻と迫ってきていた。


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