第34話 交錯
お待たせ致しました、引き続きお楽しみくださいませ。
「で、結局何があったんだ?」
ルーネの部屋にて。彼をベッドまで運んだエレンがひと息つくと、キャシーを椅子へと促し説明を求めた。
「私も正直よくわからないのよ。ルーネが指から光を発したと思ったら、椅子どころか石畳にまで穴が空いちゃったんだから」
それを聞いて鼻で笑うエレン。
「お前、まだ酔ってるのか?それとも、その時酔いすぎて変なもんでも見たか?」
「嘘じゃないわ、本当に見たのよ!なんならリュウも見てるわ!」
「ん?リュウはもう帰ってきたのか、気づかなかったな。随分早いこった」
「ええ、ルーネが連れてきてくれたわ。それにしてもびっくりしちゃった、リュウって女の子だったのよ?」
エレンも一瞬驚いた顔をしたが、すぐに納得したような顔へと変わる。
「なるほど、なるほど。気付けなかったが、言われてみりゃ確かにな」
「あら、なにか思い当たることでもあったの?」
「いや、そこまでじゃない。ただ、骨格は確かに女のものだったな」
「……ほんと、そういうところばっかりちゃんと見てるんだから」
「タマの取り合いしてるんだ、観察は全てに勝るさ。お前さんだってそうだろう?」
ニヤリと笑うエレンを呆れた顔でみつめるキャシーが、少し間をおいて、強引に話を戻す。
「そんなことよりも、よ。ルーネがあんな魔術を使ったのは見たことがないのよ。私も魔術は詳しくないけど、水の魔術にあんなものあったかしら?」
「先に振ったのはそっちだろうに……そもそも、お前さん以上に俺は魔術を知らねぇ。何せ座学は下の下だったからな、その辺の知識を期待されても困るぜ」
そう言うエレンはいつになく苛ついた様子に見えた。
「そもそも私だって魔術なんか全くわからないわよ。そうじゃなくて、ルーネが今までにそんな閃光を放つ魔術なんて使ったことがあった?」
「……少なくとも、俺たちが学校を卒業してバラバラに進むまでは、記憶にないな。確かにあいつは優秀な魔術師だろうが、人並外れてるわけでもないだろうに」
「そうよね。彼の副元素は風だったっけ?」
「なんだ副元素ってのは」
「主元素の他に扱える元素よ。魔術師は最大2つの元素を扱うって聞いたことない?」
「いや、ないな。だから俺に魔術のことは聞くなと言ったろう」
「……まぁいいわ。今まで見たことのない魔術だったから、なにか知ってるかと思ったけど期待して損したわ」
キャシーが皮肉交じりに言うと、エレンも鼻で笑って応える。
「そいつはどうも、お勉強のことなら戦争が終わってからにしてくれ」
そう吐き捨てたエレンが席を立ち、ノブに手を掛けようとしたとき、向こうからドアが開いて少女が顔を出した。
「おう、部屋間違えてるぜ、嬢ちゃん」
「いや、間違えてないぜ、エレン」
見知らぬ少女に名前を呼ばれて面食らったエレンだったが、その女の後ろから寝ぼけ眼のトキが歩いてくるのが見えた。
少女をもう一度見やると、少女もまた、悪戯っぽい笑みで返す。よく見ればその面構えは、以前戦った少女のものに違いなかった。
「……聞いちゃいたが、驚いたな。お前さんがリュウか」
「そういうこと。で、そこに立たれちゃ部屋に入れんだろ?入るか出るかしておくれよ」
これには流石のエレンもたじたじの態で道を譲るしかなかった。
「エレンも聞いていくか?さっき公示が出たぜ、ナタニエルが失脚するってよ。それでこれからのことでも話そうと思ってな」
「……それはいいが、ルーネは寝たまんまだぞ」
「問題ないさ、どうせ頭脳はキャシーの方なんだろ?」
「それはその通りだが……あんまりルーネを軽く見ない方がいいぜ。あと、俺はそういう頭使うことはからっきしだ、お前らで好きに決めてくれや」
そう言うと踵を返して部屋から遠ざかるエレン。その背中は相変わらず、少し怒りを含むかのように見えたのだった。
「……随分買われてるんだな、こいつ」
「うーん、そうね……でもルーネにしかできないことっていうのも結構あるのよ?それこそ、アンジュー公とのパイプなんて、彼がいなかったらどうにもならなかったわ」
「それもそうか」
残酷なもんだ、と静かにリュウが呟く。それは、ここにいる誰にもわからないような、小さな声だった。
「なにか言った?」
「いいや、何も。席、いいか?」
キャシーが頷くとリュウも席に着く。未だ酔いの覚めやらぬトキは壁に寄りかかってうとうとしていた。それをチラリと見て、キャシーはリュウと話し出す。
「彼はいいのかしら?」
「あぁ、オレから後で話すさ。それに、昼は頑張ってくれたみたいじゃないか、今くらい休ませてやったってバチは当たらないだろうよ」
そう伏目で話すリュウに、キャシーは初めて女としての顔を見た気がした。
「……そう、ならいいわ。それで、ナタニエルが失脚したんですって?」
「ああ、さっき高札が立って人だかりが出来てたからな。盗賊対策で仕方ないとはいえ、重税に辟易してた連中も多かったみたいでなかなかのお祭り騒ぎだったぜ」
「なるほどね、後任が私たちとの約束を反故にしなければいいのだけれど」
「なんか約束があったのか?」
「貴女たち盗賊の撃破と引き替えに、旅銀と義勇兵団の宣伝をね。でもよくよく考えたら、貴女たちが仲間になっちゃった以上、この街から義勇兵になってもらっちゃうとバレたとき面倒かしら」
「あはは、だがオレの仲間たちは100の兵にすら勝るって保証するぜ」
「よく知ってるわ、アルベルトとの戦いのときに嫌というほど、ね……そういえばあんた、伯爵には隠しておきなさいよ、死んだのはアルベルトの兵だけじゃない、伯爵の兵もいたんだから」
それを聞いてリュウは一抹の驚きと共に、合点がいった様子だった。
「そうか、あの有象無象を統率してた何人かがその伯爵の兵なんだな?オレとも何合か打ち合ったからな、だいぶ手こずらされたぜ」
「そういうこと。もう、また話が逸れちゃったわ。どうしてこうも……いえ、いいわ。で、今後って言ってたけど、何を話したいの?」
「おお、そうだそうだ。お前らの義勇兵団とやらは今後どう動くんだ?大まかな動きを知っておきたくてな」
「どうってったって……特に言うことはないわよ。とりあえずルーネの言うとおりまずはアンジュー公のいるプロヴァンス伯領まで向かうわ。それからのことはそのあと決めるしかないわ」
そのくらいかしら、と言いかけて、キャシーは重要なことを思い出した。
「ああ、あとはアクイタニア伯に使者も出さなきゃいけないわね。」
「アクイタニア伯?」
「ああ、あんたは知らなかったわね。実は斯々然々で……」
「……なるほどな、それであそこでやり合ってたわけだ。それにしてもいいねぇ、女だからと舐め腐った御貴族様の鼻を明かしてやったんだろ?」
「そんな大層なものじゃないわ。ちょっと馬鹿にお灸を据えてやっただけ」
だが言葉とは裏腹に、その口調は随分と弾んだものだった。
「とりあえず大体のことはわかった。詳細はルーネが起きてから、だな」
「そうね。でも代官の代理と話をつけたら、この街ともおさらばかしら。あんたもやり残したことがあったらやっておきなさいよ、いつ出立するかわからないんだから」
「ああ、忠告承ったぜ。夜も更けてきちまったし、この辺にしておくか」
窓の外を見ると、すっかり暗くなった夜空を星々が彩っていた。
「そうね。とりあえず帰りましょうか」
「だな」
リュウが地べたに座りながら寝ていたトキを起こす。寝ぼけ眼の彼に肩を貸すと、3人はルーネの部屋を出る。
一人残されたルーネは未だ動く素振りすら見せない。その体は、激動の2週間の疲れを癒すかのように深い深い眠りに落ちていた。
次話投稿は暫く未定となります。できるだけ早く戻ってくるつもりですのでどうぞよろしくお願い致します。




