第五話 初出勤
そういうわけで魔法司書(見習い)として採用されたフィオナは、家族や使用人たちに驚かれ、それからとても喜ばれた。
「今度こそ長く続くといいわね。ぼこぼこ、絶対にバレるんじゃないわよ」
母が難題なことを言う。
「気をつけるね、なるべく。では、行ってきます」
みんなに見送られて王都の屋敷を出発する。一応、貴族の娘なので、メイドのメリルをお供につけている。
「お嬢様、見習いは一体どんな仕事をするんでしょうね?」
「想像もつかないわね。でも、私が手に入れた魔法を気にしていたから、それの聞き取りかもしれないわ」
「魔法の本に関しては、何とか誤魔化せそうですけど、加護はどうされるのですか?」
「バレるまで黙っているつもりよ」
「ですよねー。言えないですよね。ぼこぼこにして得たなんて」
メリルが苦笑するので、フィオナも笑うしかなかった。
職場の魔法省は徒歩で通える圏内なので、予定どおりの時間に到着する。
「ではお嬢様、行ってらっしゃいませ」
「うん、頑張るわね」
彼女から弁当をもらい、見送ってもらう。
迷宮のすぐ隣にある、大きな重厚感のある石造りの建造物。ここに入るのだ。今度は関係者として。
胸を期待で膨らませ、フィオナは初出勤をする。
受付で事情を話すと、取り次いでくれる。すると、面接でお世話になった人が現れた。レナードだ。
面接と同じようにスーツ姿をしている。
今日も彼の頭には小鳥がいる。キョロキョロと周囲を見ていた。
「カサドラ嬢、よくきたな。改めて自己紹介しよう。レナード・セレストだ。君の上司となる」
彼に笑顔はなく、事務的で淡々とした説明だ。一見恐そうだけど、頭上の小鳥はペコリとお辞儀をして可愛らしい。見ていて自然と笑みが溢れる。
「はい、よろしくお願いします」
同じように小さく頭を下げる。
「うん。これから案内するから、ついてくるといい」
「はい!」
フィオナは新人らしく、せめて返事だけは元気にする。
廊下を歩き、階段を使って上の階へ行く。
「ずいぶん大きな荷物だが、それは一体なんなんだ?」
レナードはフィオナの荷物を見下ろす。
「はい、お昼ご飯用のお弁当です!」
「それ全部がか?」
レナードが疑わしそうに見つめている。
なにせ両手で持つサイズの三段弁当なので、普通の女性の弁当にしては大きすぎる自覚はあった。
「すみません、このくらい食べないと体力が持たないんです」
普段地下図書館迷宮でストレス発散のため、激しい運動しているからだが、そこまでは話せない。
「そうか、色々と大変なんだな。よかったら持つぞ?」
「いえいえ、とんでもないです。私には重くないですし、自分の持ち物くらい自分で持ちます!」
なんて親切な紳士なの!
あの婚約者ダミアンとは大違いである。
彼の頭上にいる小鳥は機嫌良く首をリズミカルに振っている。その姿を見ながら、「あなたの飼い主は優しいのね」と心の中で思っていた。
レナードに案内されて、二階のある広い部屋に入ると、事務用の机がフロア中に整然と並んでいた。
きょろきょろと周囲の様子を見回しても、高そうな道具はとりあえずなさそうなので安心する。
うっかり触れて壊したら大変だからだ。
割と空席が目立つが、中にいる人たちは忙しそうに働いており、入口の近くにいる三人は打ち合わせのような会話をしている。
「おい、例の新人がやってきたぞ」
レナードが声をかけると、会話を止めて一斉に彼を振り向く。それからフィオナは三人と目が合った。
「初めまして! うわ、すごい美人!」
「顔で採用したって疑われそう!」
近づいてきたと思ったら、そう叫んだ二人は、速攻でレナードに激しく睨まれて、顔色を変える。
「あの、お話は聞いています! あなたのおかげで、今すごく盛り上がっているんですよ!」
睨まれなかった一人がそう言うと、便乗して他の人も口を開き出した。
「そうそう、誰が検証に行くか、競争率が激しかったんだ!」
「俺たちは居残り組だけどね!」
すごい興奮しながら話しかけてくるので、フィオナの背中はのけぞり気味である。
「あの、初めまして。カサドラと申します。見習いの身分ですが、一日でも早くお役に立てるように励みたいと思います」
あらかじめ考えてきた挨拶を述べると、相手もハッと我に返ってばつの悪そうな顔をする。
「挨拶もなしにいきなり話しかけてごめんね」
そう謝って、集まってきた人たちは自己紹介をしてくれる。
「まぁ、いっぺんに名前を言われても覚えきれないよね。遠慮せずに名前をまた聞いてくれていいからね」
「お気遣いありがとうございます」
「ところでカサドラ嬢、話は戻るけど、図書館迷宮でパーティーメンバーによって出る本の種類が変わるって本当?」
「ええ、お話を伺っているとそうみたいですね。採用の面接のときに取得済みの魔法を申告していたんですが、その中に未発見の魔法があったらしいんです」
「えっ、どういう条件だったとか、詳しい話って」
「その話はこれから教えてもらう予定なんだ。ちゃんと情報は共有されるから、安心して待ってほしい」
口を挟んできたのは、レナードだ。
「彼女にまだ席も教えていないんだぞ。荷物くらい置かせてやってくれ」
「ああ、申し訳ない。つい新情報に興奮してしまって」
「気持ちはわかるよ。では、失礼する。カサドラ嬢、席はこっちだ」
レナードに自席を教えてもらう。彼から魔法司書見習いの名札までもらい、さっそく胸につけたら、本当に採用されたんだと、さらに実感できて嬉しかった。
働くにあたって必要な説明を一通りしてもらっているうちにお昼時間になる。
レナードは食堂を利用すると言い、職場からいなくなった。
自席で食べても良いとのことなので、フィオナはさっそく机の上にお弁当を置いた。
すると、先ほどフィオナに話しかけてきた同僚たちが、再び近づいてくる。
「一緒にお昼を食べ、えっ、一人でそんなに食べるの?」
「はい」
「すごい食べるんだね。ねぇ、休憩室に行くんだけど、良かったら一緒にどう?」
「はい、ありがとうございます!」
さっそく職場の同僚たちと話せる機会が増えてフィオナは嬉しかった。
フィオナが所属するのは、「探索課」である。実際に地下の迷宮まで行き、利用者の安全に繋がるように、階層ごとに現れる魔物の本について調査する課だ。
「レナードさん、色々厳しいけど、すごく真面目で仕事は熱心だし、頼りになるから心強いと思うよ」
「そうそう、なにせ魔法司書の中でも数人しかいない特級の魔法司書の一人だしね」
「魔法の取得に熱心で、何度も高レベルな魔法にチャレンジしているのよ。私も見習わなきゃ」
これから世話になるレナードのことも色々教えてもらえて、とてもよい機会だった。
魔法司書にはランクがあり、階級に応じて担当できる階層が異なるらしい。
特級ともなると、現在確認されている第十五階層まで下りれるとのことだ。
午後の就業時間が始まり、またレナードとの仕事が始まる。
「それじゃあ、まずは取得した魔法を実際に見せてもらおうか」
「え、全部ですか?」
「そうだが?」
何か文句あるか?みたいな目で見られたが、フィオナに断わる理由は大変以外にない。
それが仕事と言われれば、やるしかない。
こうしていきなりの無茶振りが始まったのである。




