第二十五話 パワー半減
フィオナは寝心地が最高なベッドで自然と目が覚める。
不思議なことに朝の時間帯になると周囲が明るくなっていたのだ。
朝日で目覚めたような気分でフィオナは起床して身支度を整える。
風呂場の水場で顔を洗い、髪にブラシをかけて整える。
朝食もお粥だ。代り映えのないメニューに内心がっかりする。
食堂の壁の絵のうち、朝の六時と思われるメニューをじっくりと観察しながらお粥を口に運ぶ。
「今日の朝ごはんは、焼きたてパンにカスタードクリームと生クリームといちごジャムを乗せて食べるでしょ。ふわふわのオムレツを一口食べて、厚切りベーコンを齧ったらすごくジューシーで、お口の中でハーモニーを奏でるわ」
口の中に入るものが豪華な食事だと思い込まないとやっていけない。
「レナード、カサドラ嬢が怖いんだけど。目が据わったまま絵をガン見してお粥を食べてるぞ」
「そっとしておいてやれよ」
そういうレナードたちも昨日と同じメニューを食べている。
「こうやって食べると気分が違うと思いませんか?」
「いや、それはカサドラ嬢だけだと思うぞ」
食べている間にまた鐘が鳴る。時計は六時を指していた。
食事が終わり、片付けをしたあと、出発の準備にとりかかる。
「探索二日目の今日はこれから書斎に行き、ボス本部屋を経て第十二階層を目指す。そこで昼の休憩後、第十三階層に行く。強行軍だが、異変があればすぐに報告してくれ」
「はい」
フィオナが返事をして大きいリュックカバンを背負おうとしたときだ。
荷物の重さのせいで、バランスを崩してよろめいてしまう。
慌てて体勢を直して背負うが、いつもよりも重く感じる。
ずっしりと肩に食い込むような辛さだ。
食材が減って軽くなっているはずなのに、明らかにおかしかった。
出る前にカバンの中を確認しているから、変なものは紛れ込んでいない。
体調は悪い感じはしない。
カバンが重い原因は分からないが、言えば負担軽減のために誰かがフィオナの荷物の一部を運ぶことになる。
迷惑をかけると思うと報告がしづらかった。
まだ運べない訳ではないので、フィオナは黙って歩き続ける。
「左側の通路の奥に本がいるぞ。カサドラ嬢、やれるか?」
「はい」
動きづらいので、リュックカバンは床に置く。
本から見えないところで待ち、ある程度本が移動して距離を詰めてきたところでフィオナは魔法で一気に近づき拳を本に喰らわせる。
ところが、本はまだ動くではないか。
反撃されそうになり、慌てて三撃を追加で与えると、やっと本は動かなくなる。
フィオナは本を読もうとするが、動揺で手が震えてページがめくりづらかった。
やっとの思いで呪文を唱えて魔法を取得する。
「どうしたんだ? 昨日まで一撃で本を仕留められたのに」
レナードがすぐに異変に気づいた。
「カバンも何で下ろしたんだ? 昨日は背負ったままでも戦っていたのに」
「……なぜか荷物が重く感じたんです。攻撃はいつもどおりしたはずなんですけど、なぜか威力が落ちたみたいです」
他人が察する変化を誤魔化せる気がしない。フィオナは正直に説明した。
レナードは一瞬考え込むが、すぐに視線を班員に向ける。
「休憩所に戻ろう。もしかしたら昨日取得した加護が何か悪さをしているのかもしれない」
フィオナたちは元来た道を戻るはめになった。
自分の不調のせいで、計画に支障が出始めて、フィオナは非常に居た堪れなくなる。
休憩所にすぐに到着し、食堂のテーブルを囲むように着席する。
「カサドラ嬢には悪いが、また鑑定をさせてもらう」
「はい」
「おい、いいのかよ。使用は許可制じゃなかったのか?」
学習したガザフがレナードに確認してくる。
「前に申請したとき、期間を今月中までにしたから有効期間内で大丈夫だ。それに迷宮探索中は緊急事態時には特例措置として使用を認められる」
「なるほどな」
納得したガザフはあっさりと引き下がった。
「では、鑑定をしよう」
以前のようにフィオナはレナードに手を握られる。
『知恵の女神フェルテナータの名のもとに全てを明らかに。迷宮で得た力を我に示せ』
レナードがフィオナの目をじっと見つめる。
「おかしいな。最近取得した"燃費向上"の加護は、魔法連続使用時の魔力消費が半減するだけで、攻撃力には関係ない加護だ」
「その前に取得した”運気上昇”は大丈夫でしたか?」
フィオナが念のため未確認の加護を尋ねる。
「ああ、これは”ルーレットで一度だけ強運になる”だ。全く関係なさそうだぞ」
「ギャンブルでの加護かよ」
これも当てが外れて、みんなの顔に焦りが増える。
「レナード君、カサドラ嬢の筋力や攻撃力の数値はどうなってる? 前より下がってないかい?」
ヒゲに触りながらハンスが、思案がな顔で確認してくる。
「ゴードンさんの予想どおり下がっている。筋力も少し低下しているが、様々な攻撃力が一気に減っている。一体どうなっているんだ?」
フィオナ自身のことなのに何も分からなくて、大きく影響を与える女神からの加護が恐ろしく感じる。
「ほんとにそれは変だな。調子の良いときと悪いときの違いって、一体なんだ? 寝るときに枕が変わると攻撃力が下がるとか?」
「そうか、それだ!」
「えっ、レナード、枕マジかよ?」
「いや、枕は関係ないが、攻撃に関する加護を改めて調べてみるんだよ。それが密かに影響しているかもしれないだろう?」
「なるほどな」
その結果、一番怪しい加護が出てきたのだ。
「みなぎる力は食事から、摂取物を攻撃力に変える。これだな。以前、カサドラ嬢は好物のミートパイを食べたときはやたら調子が良いと言っていた。食べ物が攻撃力に影響している可能性は高い」
「そうだな。お粥を辛そうに食べてたしな」
「これしかないよね」
三人はフィオナをじっと見つめる。
まだ断定はされていないが、フィオナは話を聞きながら、ほぼ確実だろうと考えていた。
お粥だけでは、いつものような満足感が得られないからだ。
自分の食事が原因だと分かり、フィオナは罪悪感で押しつぶされそうになる。
保存食を用意するときに、腹さえ満たせばいいと甘く考えてしまった過去の自分が情けなかった。
「も、申し訳ございません。お粥では力が出なかったせいで攻撃力が下がってしまったんですね。自分のことなのに全然把握できていなくて、本当に申し訳ないです。一体どうしたらいいんでしょうか?」
気を抜いたら涙が出そうになる。
フィオナは俯いて必死に堪える。
「試しに次の食事ではお粥以外をとってもらおう。それで元気になるなら探索は続けられるが、それでも治らなければ——」
「治らなかったらどうなるんですか?」
嫌な予感がして胸が苦しくなる。
「カサドラ嬢には申し訳ないが、探索は中止せざるをえない」
「そんな」
非情な決断にフィオナは言葉に詰まってそれ以上は何も言えなくなった。




