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火因町編-8

 今日の歓迎パーティーですっかりほろ酔い気分の栗子だったが、眠る前に亜弓を呼び止めた。亜弓はもうパジャマ姿だった。ワンピース状の薄いパジャマは、亜弓のスタイルの良さを強調している。


「ちょっと、私の部屋来てくれる?」

「え、なんですか〜」


 そう作家に言われたら、編集者としては逆らえない。亜弓は渋々栗子の希望に沿った。


 栗子の部屋は、見事に少女趣味しょうじょしゅみで亜弓は目を瞬かせる。


 本棚は少女小説や少女漫画はもちろん、コージーミステリもいっぱい入っていた。洋書もある。


 とりあえず椅子の腰掛けられるように勧められて、亜弓は座った。栗子はベッドの上に浅く腰を下ろす。


「やっぱりシンデレラストーリーを書くわ。我慢して」

「そうですか! よかったです」


 それを聞いて亜弓はホッとした。


「あなた、不倫相手の奥さの話ちょっとしてたじゃない。川瀬文花かわせふみかさんだったかしら?」

「ええ。変な女性ですよ…」


 文花の話は栗子に問い詰められて時々していた。


「彼女の話聞いてたら、ちょっとアイデアが浮かんだの」


 窓の外からは秋の虫の鳴き声が聞こえてきた。いかにも田舎という音だ。亜弓は実家の母や祖母の事を思い出す。母や祖母とはタイプが違うが、栗子といるとなんとなく実家にいるような気分にさせられた。この家が全体的に「おばあちゃんの家」という感じがする。何故だかわからないが、妙に懐かしい感じがする。古い家だからかもしれないが。


政略結婚せいりゃくけっこんしたのに、夫のめかけにちっとも動じないメンタル強い奥さんが主人公の話を書こうと思って。後でちゃんと企画書やプロットも書くけど、滝沢さんはどう思う?」


 このヒロインはやはりあの文花に話を聞いて思いついたのだろう。亜弓は文花本人は嫌いだが、エンタメの主人公になればよくなるかもしれない。栗子の描くヒロインは、真面目で可憐ないい子が多いし、たとえあの文花をモデルにしても、そうそう酷い感じにはならないだろい。何より、栗子が仕事にやる気を持っているようなのが嬉しかった。


「私は賛成ですよ。もちろんあのトンデモ奥さんをそのま描いたら読者に受けないと思いますので、色々と読者に共感がもてるエピソードを入れていきましょうね」


 プライベートに時間で仕事をするのは納得いかない気もしたが、こうして栗子がヤル気を出すのは良いことだ。しっかりサポートをして重版させ、セールス的にもサポートしなければ。亜弓もやる気になってきたとき、栗子はちょっと笑って一つ提案をしてきた。


「あなた、死んだ夫の息子の事気に入った?」

「嘘! バレてた!」


 バレて居ないと思って居たし、意外と栗子は鈍感だと思っていたのだが。


「バレバレよ。雪也にはバレてたないと思うけど。あの子は鈍くて、頭も性格も悪いの」

「意外とハッキリ言いますね…」

「私、昔アメリカやイギリスに住んでた事あるし、日本人のぼやっとした言語交換が意外と苦手なのよね。時々英語全部話したいぐらい」


 栗子に海外生活があるとは意外だった英語み話せるようだし、人畜無害のルックスとは想像できなようなものを持っているのかもしれないと亜弓は思った。


「まあ、今度の土曜日に火因町に商店街で夏祭りがあるから。雪也も来るはずだから、チャンスよ。滝沢さん!」


 茶目っ気たっぷりに栗子はウィンクをした少々古臭い仕草だったが、何故か可愛らしく見えた。栗子の魅力も羊の皮の下に隠されているのかもしれない。


 こうして亜弓メゾンヤモメの住民になり、町の夏祭りに参加する事も決まった。

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