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シープルおばさまは名探偵〜秋のパン祭り殺人事件〜  作者: 地野千塩


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火因町編-7

 歓迎パーティは終盤に差し掛かり、お酒が弱い幸子は、酔いすぎたと自室に戻ってしまった。


 一方、酒に強い亜弓は全く平然な顔をしていた。

 意外な事におばさん連中の栗子と桃果も酒に強く、順調にワインボトルを開けていた。


 テーブルの上の皿はほとんど空だ。付け合わせのプチトマトやパセリがほんの少し残っているだけだ。


「そろそろロールケーキを出そうかね」

「やった! 桃果のロールケーキ美味しいんだよねぇ」


 おばさん二人はキッチンに行き、冷蔵庫から今日の昼間に作ったロールケーキを取り出し、適当に切り分け皿に盛り、食堂に持って行った。ロールケーキの断面は、バナナやイチゴ、キウィフルーツ、蜜柑みかんで色鮮やかで可愛らしい。


「美味しそう!」


 亜弓もロールケーキを見て、思わず喜んだ。


 みなワインを片手にロールケーキを食べはじめた。お酒に強い連中とはいえ、すっかり気分はおおらかになっていた。


「そういえばシーちゃん、裏の香坂さんの噂知ってる?」

「そういえば聞いてなかった! 桃果、何知ってるの?」


 香坂さんの噂はあれ以来亜弓の引っ越し騒ぎのバタバタで聞き逃していた。


「香坂さんって誰?」


  亜弓は首を傾けた。


「裏に住んでる美人マダムよ。シーちゃんと同じ作家さんみたい。ネットで書いたライトミステリが人気になって本になったとか」

「へぇ。作家さん。もしかうちの出版社で出してないかな? 香坂ってどっかで聞いた事あるのよね」


 亜弓は言った側からスマートフォンで昼出版に刊行が載ったサイトで検索しはじめた。トップページにかつての不倫相手の田辺哀夜の『愛人探偵』の広告が載っていたが、酒が入ったせいかあまり気にならなかった。


 有弓の予想通り、香坂今日子こうさかきょうこという名前の作家の本が出てきた。昼出版の文芸局が担当している様だ。聞き覚えがあるのはこの為か。かつての同僚・常盤純ときわじゅんの担当作品だったと記憶している。


 香坂のSNSのリンクも載っていたので調べてみると、日因町の在住である事がプロフィールにあった。料理やガーデニングなどの優雅ゆうがな生活が写真月っで綴られている。元々香坂今日子という名前でそこそこ有名なインフレエンサーで料理や断捨離の本も出していたようだ。作家としてはフォロワー数もそこそこあって、熱心なファンも多そうだった。顔写真も載っていたが田舎の住人の割には洗礼された美人だった。都内にいても目を引きそうな上品なマダムという雰囲気だ。


「それで、桃果。香坂さんの何の噂があるの?」


 栗子がおっとりとた声で質問すると、桃果は声を潜めて語った。


「香坂さん、不倫してるみたいよ!」


 栗子も亜弓も驚いた。不倫といえば亜弓もいい思い出が無いので、自然と眉間にしわが寄った。ただ、SNSの写真を見る限り、モテそうな女だったし不倫をしていてもおかしくない。美人はそれだけ誘惑が多いのだと亜弓は実感を伴って思う。


「どこでみたのよ、桃果」

「家に若い男を連れ込んでるの見たもの。たぶん知ってるのは私だけね、他の連中は誰も言ってない」

「本当?」


 栗子は好奇心を抑えきれず、桃果の話を聞き入っていた。男は何人かいるらしく、一人では無いらしい。


 ロールケーキを食べながら、少し冷めた気分で亜弓は桃果の話を聞いていた。他人の不倫にこうして好奇心を隠せないおばさん二人にげんなりとしてしまう。特に栗原子は見た目は人畜無害じんちくむがいそうなおばさんなので余計に嫌なギャップを感じる。桃果その点は見た目通りであるが。


「でもそんな男をとっかえひっかえしてたら旦那にバレるんじゃ無いですか?」


 冷静に亜弓が突っ込んだが、聞く耳を持たれず、二人で下衆ゲスな会話で盛り上がっている。


 まあ、夫がパートナーのに不倫をしつこく調べていなければ、そうそうバレないかもしれないが。すっかり忘れていたが田辺の妻・文花ふみかのようにパートナーの不倫を調べる事の方が稀なのだ。


 ちょっとおばさん方にゲスさにウンザリとし、ワイングラスを持って窓辺へ行く。


 ちょうど香坂家がよく見えた。二階建ての立派な新しい家だ。


 一人の男が裏の勝手口から出てきた。夜でよく見えなかったが、家から出てきたという事は香坂の夫だろう。


 メガネをかけている。少し髪の毛は薄くなったひ弱そうな男だった。


 男は勝手口のそばに座ると、手に持っていた袋パンを食べはじめた。コンビニで売っているメロンパンだった。200円もしないが糖分のカタマリで、忙しい亜弓でも滅多に食べないパンだ。手軽だが栄養を思うと、ちょっと胃が痛くなるような思いがする。袋の裏を見ると添加物てんかぶつがドッサリ入っている。よっぽどの事が無い限りこのような菓子パンは食べない。味もそこまで美味しいパンだとは思えない。


 男はまるで天国に居るような顔でメロンパンを頬張っていた。亜弓はあの男はは舌がバカなんだろうなと思いながらワイングラスを傾けた。

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