エピローグ
事件が完全に解決し、火因町にもようやく平和が戻った。
栗子もシンデレラストーリーの改稿を進めていたが、亜弓からあのスケベ作家・田辺哀夜と会ってほしいと頼まれた。もちろん二人きりではなく、田辺の担当編集者の常盤純と同席するらしいが。なんでもこの事件をネタに田辺はミステリの新作を書きたいのだと言う。
「どうですか?本当は自分でコージーミステリを書きたいんじゃ無いですか?」
亜弓は心配していたが、意外なほどにそんな執着はなかった。確かにコージーミステリを書きたい事は事実であるが、この事件を作品にするのは抵抗はある。特に優馬に色仕掛けをやられたシーンについては、あまり小説にはしたくない気分だった。
「いいんじゃない?」
「へぇ意外」
「まさか、私がコージーミステリ作家になるには遠い道のりって事ね」
こうして三人人で昼出版の応接室で会う事になった。
田辺は妻・文花が作ったというクッキーを手土産に持ってきた。綺麗にラッピングされて見た目だけでも美味しそうだ。
「いやぁ、うちの文花ちゃんは料理だけはそこそこ上手いよ」
田辺は栗子の想像以上にダラけた雰囲気の男だった。この男が亜弓と不倫していた事が信じられず、思わず見つめてしまう。この男の様子を見ると、不倫も女性というより、田辺自身がきっかけを作って居るのでが無いかと思ってしまうぐらいだった。
「そうですか…」
「今回の犯人って、奥さんの料理が不満で殺害したんだろ? その気持ちわかるわ〜」
「ちょっと先生、そんな事言ってたら文花さんに呪い殺されますよ」
「やめて、おー怖い!でも本当に文花ちゃんのご飯は不味いんだよなぁ」
田辺はわざとらしくプルプルと震えた。作っているものは美しいラブストーリーなのに、田辺自身はどうも軽薄で気の弱そうな印象が拭えなかった。まあ、人気恋愛小説家という事を加味すれば、少しカッコよっこ見える部分はあるので、不倫の常習犯である事にも納得したが。
それでも事件の事で盛り上がり、田辺は熱心に取材をしてきた。常盤も時々フォローを入れ、あの話しにくい優馬のお色気大作戦の話題も意外と自然とする事ができた。
「田辺先生も気をつけてくださいよ。意外とこういう色仕掛けってある気がします」
栗子がそう言うと、田辺がしゅんとそていた。何か心あたりがあるのかもしれないが、それは栗子とは関係ない事だった。
こうして取材が終わり、田辺は足早に帰っていった。妻の料理はまずいが、健康的な和食なので医者に食べるように勧められているそうだ。笑顔で妻の話をする田辺を見ていると、意外と夫婦仲は悪くないのかもしれない。
外はもう夕方だ。
自分もメゾン・ヤモメに帰らなければ。
「栗子先生ー!」
亜弓が小走りにやってきた。
「今帰り?」
「そうです。今日は、残業したくないので早く終わらせましたよ」
二人並んで駅の方へゆっくりと歩く。
「それにしても良いんですか?田辺先生にこの事件のネタを全部あげちゃって」
亜弓はまだこの事について納得いかないようだった。
「良いのよ」
栗子は笑って亜弓を見た。
確かに少し惜しい気持ちはあるが、自分でこの事件を書くつもりはない。犯人の配置もデビュー作である「パティシエ探偵花子」と似ているのもネタにしにくかった。やはり田辺の方がいい感じにアレンジしてくれると思う。
「それより、コージーミステリを書くより、実際探偵をする方が楽しくなっちゃったのよ!」
まるで人のいい羊もような顔で栗子は笑った。
「あーあ、また火因町で殺人事件起こらないかしら?」
その発言にさすがの亜弓も呆れたが、栗子に新しい目標ができるのじゃ良い事かもそれないと思った。
栗子の探偵としての人生はまだまだ始まったばかり!
ドキドキしながら次の冒険を待ち望んだ。
これにて完結です。
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