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シープルおばさまは名探偵〜秋のパン祭り殺人事件〜  作者: 地野千塩


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犯人逮捕大作戦編-5

 昼出版で亜弓と文花が会っているちょうどその頃、メゾンヤモメのリビングで栗子と雪也は作戦会議中だった。昼間、桃果が作ってくれた型抜きクッキーを片手に。二人で話す姿は優雅なティータイムでとても殺人事件について話している様には見えなかった。


「じゃじゃーん!」


 雪也はICレコーダーを栗子に見せた。


「なにこれ?」

「全くこれだからオバタリアンは。これで音声が録音できるんだよ」


 ICレコーダーは小さなあめやチョコの箱のようなサイズで、音声を本当に録音できるのか栗子には全くわからなかった。


「これでタッキーがおとりになって録音させば証拠ゲットだ」

「そんな事もできるのねぇ」


 ただただ栗子は関心するばかりだった。コージーミステリでがこんな風にしっかり証拠をとるものは少なかった。栗子が書いた「パティシエ探偵花子!」も捜査は全部アナログであり、インターネットや携帯すら出てこない。


「ところで優馬はどこ言ったのかなぁ」

「俺も探してるんだけど、見つかんね」


 雪也は午前中、この町や隣町で優馬を探していたが見つからなかったようだ。ただその過程で優馬が働いていたバイト先もわかった。隣町でガソリンスタンドやコンビニでバイトしていた事が判明し、話を聞きに行った。すると、やっぱり手癖が悪く泥棒に常習犯だった様である。その上、反抗がバレると女性上司を色仕掛けして口封じもやっていたらしい。


 亜弓の推測もどうやら当たっていたようだ。おそらく、優馬も今日子に似たような事をやっていたのだろう。今日子は不倫のつもりだったが、優馬としては口封じの色仕掛けだったのだろう。


「でも今日子さんは大地と付き合ってたんだろ」

「私の推測では、大地と今日子さんは付き合うようになって、揉めたんじゃないの。今日子さんは、盗みの事を公表すりつもりだったんじゃない?」

「なるほど。だったら優馬にも今日子を殺す動機あるって事だな」


 雪也はボリボリとクッキーを噛み砕いた。


「うまい。やっぱり桃果おばちゃんのクッキーうまいな。こうなったら今では優馬のクッキーなんてちっともおいしくね〜」


 栗子は苦笑して同意した。優馬にも今日子を殺す動機があることがわかった。憶測の域を出ていないが、間違っている気がしない。お互い今日子を殺したい動機のある優馬と光が共謀きょうぼうしていたとしてもおかしくはない。問題は、優馬の居場所だ。光は亜弓がおとりになって捕まえられそうではあるが、優馬については二人ともお手上げだった。


 ちょうどそこへ桃果もやってきた。クッキーが新しく出来上がったと、


 焼き立てのクッキーが皿いっぱい載っている。

 三人で焼きたてのクッキーを味わった。熱々で出来立てのクッキーは、さらに美味しく感じて三人であっという間に食べてしまった。


 まるで嵐の前の静けさのように、メゾンヤモメのリビングは平和だった。



 クッキーを食べ終えると、雪也は原稿を書かなければいけないと帰って行ってしまった。栗子も亜弓から指摘された箇所を訂正する改稿作業をしなければならない。夕飯は食堂でとらず、ちょっと栄養価が心配であるがシリアルバーで済ます事にした。


 初稿よりメンタルは楽だが、やはりシンデレラストーリーを書くのは心がグサグサとしてきる。一瞬優馬のときめいたが、実際はかなりのゲス男。殺人犯である可能性も高く、シンデレラストーリーを書いているうちに再び発狂しそうなメンタルになる。というか優馬のせいでもっと酷い気分だ。パソコン画面上でやたら、甘い言葉を吐き、やたらとヒロインの心を察して、やたらと恋愛の事しか考えていないヒーローが気持ち悪い。書いていると優馬が色仕掛けしてきたシーンが頭の中で浮かんできて、ヒーローの姿と重なってしまう。


 この調子だとろくに原稿は進められないと判断し、パソコンの電源をおとした。幸い初稿は早く書き終えたのでスケジュールには余裕があった。編集者と一つ屋根の下に暮らすという状況は、栗子の意識をほんの少し高くさせたが、やっぱり執筆中のメンタルは荒れに荒れる。


「ああ、コージーミステリが書きたい」


 再び弱音が溢れるが、いくら弱音を零したところで、コージーミステリを書くチャンスはない。色恋を望む読者にヒロインに都合のいいシンデレラストーリーの仕事しか無い。


 せめて現実の世界でコージーヒロインの真似事ができればと思い、机に引き出しからオペラグラスを引っ張り出した。


 窓からこっそりと隣家の様子を覗く。カーテンは締め切られ、人影はなかった。優馬は光の家にいる可能性も考えて昼間少しオペラグラスで見てみたが、変化はなかった。


 どうせ昼間と同じように何も変化がないだろうと油断していたが、カーテンに人影が見えた。


 栗子は身を乗り出してオペラグラスをしっかりと握り隣家を伺う。


 それだけでは何もわからない。光かもしれない。


 しかし玄関の方を見ると、なんと光と優馬が一緒に出てきた。夜なのでよく見えなかったが、二人とも黒っぽい格好をしていた。光はあの猫を抱いている。心底嫌そうな顔をしている。猫も同様な顔をしているのが何とも可笑しい。


 栗子は、テキパキと部屋着からパーカーとチノパンという格好に着替え、亜弓の部屋に直行した。


囮大作戦おとりだいさくせんは中止よ! コージーミステリ王道展開でいきましょう! 犯人と対決するわよ!」


 楽しそうに栗子が叫んだ。


「は?」


 戸惑っている亜弓を無理矢理着替えさせた。その後、二人して外に飛び出し、光と優馬を追った。

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