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シープルおばさまは名探偵〜秋のパン祭り殺人事件〜  作者: 地野千塩


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秘密編-5

 栗子が足ツボマッサージを受けている間、亜弓は教会の礼拝室にいた。日曜礼拝で続々と信徒達が集まっている。初めての参加なので、とりあえず一番後ろの席に座って様子を伺った。


 礼拝室は天井が高く窓も大きい。窓からは秋の日差しがさしこみ、明るくて開放的な雰囲気だ。


 神社や寺はどこか薄暗い雰囲気があるが、教会は妙に明るく楽観的な空気も感じる。信徒達も笑っているものも多い印象だった。


 栗子からはお色気大作戦をやめようと言われた。同感である。偶然光からの連絡先はゲットできたが、それ以外はあんまり上手く行っている感じがしない。それにネーミングも昭和そのもので恥ずかしいノリだ。


 まあ、栗子が喜んでいるから良いと放っておいたが、本人が作戦変更したいというから仕方がない。


 礼拝は、讃美歌から始まった。


 オルガンと信徒達の歌声は美しく、眠気を誘う。明くて、平和すぎる空間の波に飲み込まれるようだ。本当に牧歌的だ。自分の様な不倫をしてた女がここの居ても良いものか、少し困るほどだった。


 その後に始まった三上牧師の説教も、亜弓のそんな思いを強くしてしまった。今日は夫婦の在り方の説教の様で、聖書を引用しながら夫婦仲がうまくいくコツなども話していた。意外と実用的な事を言っていて驚く。夫婦の営みもより夫婦が仲良くなる為に神様が祝福したものだから、自分の身体を大事にしましょうとも言っていた。


 そう言われてしまうと頭の中に今まで関わった数々の男が浮かんだ。同時に田辺の妻である文花の姿も。やっぱり自分はとんでもな事をしてしまったと罪悪感で押しつぶされそうだ。


 礼拝が終わっても亜弓はしばらく席に座って、ぼんやりとしてしまった。気づきと周りには三上牧師以外は誰もいなかった。


「あ、メゾン・ヤモメの新しい住人の方ですか」

「ええ、こんにちは」

「礼拝来てくれたんですね。ありがとう」


 栗子に言われたら事件調査の為にやってきたとはとても言えない雰囲気だ。


 三上牧師は亜弓の席の隣に座り、話しかけていた。


「今日の説教そんなに興味ありましたか?

「…」

「熱心に聞いてくれていて。未信者の方なのに珍しい」

「あの、私、不倫してたんです。奥さんには謝ったけど、本当に酷い事をしちゃったなぁって。神様の事も傷つける行為だなんて知りませんでした」


 三上牧師の眉が上がった。亜弓の言う事に驚いているようだった。


「今日子さんも不倫してたんでしょ。なんか死ぬ前に後悔しなかったのかなぁ…」


 人事だが、何も感じずに死んでしまった事は逆に辛いのではないかと思い始めた。


「今日子さんが不倫してたってどこで聞いたんです?」

「あ、偶然彼女のSNSを見つけてしまって。不倫の悩みが書かれてました」


 三上牧師はため息をついた。

 少し悲しそうな目をしていた。


「今日子さんも教会通ってたの知ってました?」


 それは栗子から聞いた。亜弓は頷く。


「彼女も不倫した事を罪悪感持っていてね。私に相談しにきたんですね。この事は絶対誰にも言わないでって、神様にも祈って約束したから、どいしても警察にも言いづらくてね」

「そうだったんですか…」


 そういう事情ならいくら牧師でも口を閉ざすだろうと亜弓は納得する。


「私でも気づいたから、警察でも知ってるんじゃ無いですかね?」

「だと思いますが…」

「他に今日子さんは何か言ってましたか?」


 三上牧師少し考え込んでいた。


「そうだなぁ。とにかく彼女は、悩んでいたことは確かです。それ以上はちょっと言えないです」


 やっぱりそうなるか。


 亜弓はこれ以上、三上牧師から話を聞くのは難しいと判断した。事件について大きな収穫はなかったが、こうして不倫が罪だと分かって返ってスッキリした。もう不倫なんてしない。そう強く思った。




 教会から外に出ると偶然、雪也に出会った。何か機嫌の良さそうな顔をしていた。


「タッキー!」


 雪也も亜弓に気付いて笑顔を見せた。


 子供の様な笑顔で思わず亜弓もホッとした。


 どちらが言い出したわけでも無いが、亜弓と雪也は並んで商店街を歩いた。ベーカリーマツダでカレーパンを購入し、食べ歩きをする。少々行儀は悪いがカレーパンはあっという間食べてしまった。


「ゆっきーは執筆はどうなの?」

「それがさぁ、意外と大変。文を書くのって大変なんだな。オバタリアンでも出来るからって舐めてたわ」

「そうよ。栗子先生、あれでも小説書くの大変なのよ」

「身に染みたよ…」


 珍しく雪也は反省した様子を見せていた。口の中がまだまだスパイシーなカレーの味が残り、自動販売機でお茶を飲んだ。驚いた事に雪也が買ってくれた。


「ところで、ハウスキーパーさんはどうなの?」

「うん?マーくん?」

「マーくんって呼んでるの?」


「なんか俺ってあだ名で呼びたくなる人なんだよね」


 だから栗子の事もオバタリアンと呼んでいるのだろうか。それにしたって他に良い呼び方は無いのだろうか。


「マーくんは料理上手いし、気が効くし最高だよ」

「へぇ」


 できれば、亜弓が雪也に料理を作りに行きたかったが、料理スキルがなくチャンスがあっても活かせないだろう。桃果に何か料理を教えて貰っても良いかもしれない。


「ところで俺、近所の川原で珍しい石みっけたんだ」

「どんな石?」

「みみがついててクマみたいなんだよ。自然であんな風に出来るのかね? そうだ、タッキーに今度やるよ!」

「本当?」


 思っても見ない展開だ。亜弓は喜んで頷いた。ようやく肉食女子としても進展があり心野中で密かに喜ぶ。


 亜弓は信じられない幸運に、しばし事件の事を忘れた。

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