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シープルおばさまは名探偵〜秋のパン祭り殺人事件〜  作者: 地野千塩


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秘密編-4

 日曜日、栗子はマッサージ師の大地の整体院にいた。疫病えきびょうの影響か、あまり予約は入っていないようですぐに予約が取れた。


 足ツボマッサージを30分。金額は2500円。意外と高くはなかった。


 ベッドに寝そべり、タオルを膝にかける。


「こんにちは、大地さん」


 驚いた事に大地はげっそりと痩せていた。目の下は真っ暗で、いつもの様な健康的な活発さを感じられない。髪の毛もワックスでセットされていたが、心なしかベタついているように感じた。


「栗子さん…」

「どうしたの?」


 大地栗子の質問には答えず、足ツボマッサージの説明をはじめ施術せじゅつをはじめた。


 痛さと気持ちよさが交互に押し寄せ、確かに健康に効きそうだ。初稿しょこうを上げた疲れが解消する様だ。


 左足のマッサージが終わり、右足と比べる。左足の方がほんのりと赤くなり血行が良くなっているのがわかる。


「すごいわ。すごい、執筆のストレス解消できそう」


 過剰に褒めてやると、大地は少し照れたように笑った。今日初めて笑顔を栗子に見せていた。


 右足の施術せじゅつもはじまり、栗子は思い切って質問してみた。


「そういえば、この町で殺人事件があったのよね。もしかしてあなた犯人?」


 大地が犯人だとは思っていない。ただ、こう言って相手がどう反応するのか気になった。


「いたっ!」


 大地は今までで一番強く足裏のツボを押した。目はウロウロと彷徨い、明らかに動揺どうようしていた。


「もしかして、あなた、今日子さんの不倫相手?」


 大地の事を不倫相手だとは思ってもいない。でも再びカマをかけた。何か知っていたら、何か態度で現れるだろう。


「どうしてわかったんですか…」


 大地は栗子の施術せじゅつをやめ、ダラリと腕を垂らしていた。そこにはいつもの様な元気な大地はどこにもなかった。ひたいに汗を垂らし、明らかに動揺を見せていた。


 まさか不倫相手が大地だったとは。カマをかけておいて栗子も驚く。桃果は大地では無いと言っていたが、本人が認めている以上、否定はできない。


「お祭りの日に、彼女ができたっいうのは本当だったのね…」

「さすが作家さん…。洞察力どうさつりょくがすごい…」


 俯いて、大地は栗子の事を褒めた。ただ、それは栗子の洞察力があったというよりは、偶然うまくいっただけだ。そもそも栗子が書いている少女小説は洞察力も大事だが、いかの読者に夢を見せるファンタジー世界を作るのが重要だ。時には気が狂うほどにキラキラで夢みがちな世界を作らなければならず、現実とのギャップがえぐい。特に栗子の現実は特にパッとしないので、このギャップには毎回苦しまされた。


「そんな事ないわよ」


 大地に褒められ、当てずっぽうで言った事がたまたま当たったとは決して言えない雰囲気だった。


「警察には言った?」

「いえ。私達は連絡も逢瀬もこの施術室せじゅつしつだったので、意外と誰もバレず…」


 という事はここで不倫そていたというのか。綺麗な施術室だったが、一気の薄汚く感じた。


「でも私は殺してません。あの日の朝は、昔の同僚と呑んで朝までソイツの家に居たんです」

「アリバイがあるのね…」

「帰る時、元同僚のマンションの住人とも挨拶しましたし、俺には無理ですよ」


 そこまで言われると、犯人だとは言い切れなくなってしまった。再び大地は施術せじゅつを始めた。心なしか無駄に力を入れている様に感じた。


「イタタ」

「犯人だと疑ったばつですよ」


 大地はちょっと子供っぽく笑った。なるほど、この笑顔なら今日子の様なアラサー主婦もキュンとなるかも知れない。決してイケメンでは無いが、母性本能をくすぐる様な可愛い顔立ちである。


「ところで今日子さんとはどうして気があったの?」

「ああ、俺はベジタリアンなんですよ。元々健康マニアだったからの、興味があって」


 今日子もベジタリアンだった。そう言った縁もあるのか。もっとも不倫なので、感心することではないが。食の趣味が一致するカップルの少女小説も良いかもしれないと思ったりもした。


「今日子さんの旦那もベジタリアンだったのかしら?」

「ああ、それは無いって言ってましたよ。食事について揉めてたとか」

「まあ、夫婦で食の好みが違うとちょっと大変ね」


 栗子も夫の嫌いな食べ物をうっかり買ったり作ったりすると大変だった。でもそれで殺人の発展するかどうかはわからない。正直、死んだ夫について良い感情はあまり無いが、殺してやりたいと思うかは判断がつかなかった。


「ところで犯人に何か心当たりはある?」

「それはわかんないですけど、今日子さんの元カレが怪しいですよ。まあ不倫カップルだけど、あまり良い別れ方はしなかったらしい」

「誰かわかる?」

「さあ」


 ここで大地は施術せじゅつを止めた。足はスッキリと気持ちいい。足だけでなく全身もスッキリした気分だ。執筆のストレスはだいぶ軽減された。


「ああ、確か今日子さんはマー君って読んでた。喧嘩別れしたとは言ってたが、それ以外はわからないな」

「警察には言った?」

「言ってませんよ。今日子さんに変わった様子とかなかったかは聞かれましたけど、不倫している事は言って無いです。今のところ栗子さんの方がリードしてますね」


 そう言って無邪気に笑っていた。身体はスッキリとしたし、大地が不倫相手だとはわかったが、進展した気がしないそれどころかもう一人不倫相手がいたとは。そうは言っても良い別れ方はしていないようだから、その男が犯人でも全くおかしくない。この男を探す事が先決だろう。


「ありがとう。すっかり元気になったわ」


 栗子は大地に礼を言った。

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