お色気大作戦編-3
「どう思いますか?幸子さん」
「そうねぇ。あの美人奥さんが不正にシールを得ていたのは意外だね」
幸子の言っていた事はもっともだった。幸子は作家だったし、夫も公務員である。家も庭付きの二階建て立派だ。服やファッションにも気を使い、SNSではオシャレな生活をアピール。とてもお金に困っているとは思えない。それにパン祭りで得られる景品もケーキ屋スズキで普通に売っている焼き菓子と白い皿だ。たいして珍しいものでもない。正直なところ不正までして手に入れるほどの景品には思えなかった。事実、当てたものは栗子たちがあげてしまっている。幸子の行動は不可解だった。
そんな事を考えていると、若い男が入店してきた。
「拓也くん、いらっしゃい」
幸子が優しい笑顔で出迎えていた。どうやらこの男が、ケーキ屋スズキの店員もしている鈴木拓也のようだ。明るい茶髪が印象的で、人懐っこい雰囲気のする若い男だった。派手な髪色も接客業だとしてもあまり気にならない感じだ。むしろ本人のルックスによく似合っている。
「拓也くんは何食べる?ここはおごりでいいから」
「いえ、うーん。どうせうちのケーキだからなぁ」
「あはは、そうね」
このカフェのケーキは全部ケーキ屋スズキからおろしているものだという。
「じゃ、コーヒーくれる?」
「わかった」
幸子は厨房の方へ行ってしまった。
「栗子さんからメールもらったんだけど何の話?」
初対面の人間にタメ語とはけっこう度胸があるようだ。顔を真っ赤にしていた和水とは性格が違うようだった。
亜弓はとりあえず自己紹介をした。和水と同じように編集者として取材をそたいと説明した。こちらもあっさり信じてくれたようだ。
「ふーん。わかったよ。協力してやるよ」
上から目線だったが、亜弓スルーする。男は基本的にプライドが高いし、そこを指摘するとめんどくさい事になる事は経験として知っていた。
そこへ幸子がコーヒーをテーブルに置いて行った。おっとりと優しそうに微笑むと、さすがに拓也もちょっとデレっとした表情を見せた。
「あの事件の事を聞きたいんだけど、何か知ってる?警察には何か言った?」
「警察は香坂さんが何かトラブルがなかったか聞き込んでいたぜ。まあ、工藤さんと揉めてた事は話したけど」
「そう。何で揉めてたか知ってる?パン祭りのシールは関係ある?」
そういうと拓也は石のように固まり始めた。一言も発していない。
そこへ幸子がやってきた。
「何か知ってるんだったら教えてくれない?」
「お願い。仕事に必要なんだよ」
二人がかりで頼みこむと、拓也はようやく口を開いた。といっても和水のように誤ったりしなかったが。
「香坂さん、綺麗じゃん?」
「そうだね。美人」
亜弓は同意しておいた。
「だからパン祭りのシールを二、三十枚まとめてあげたんだ‥」
亜弓も幸子もため息が出る。亜弓もこう言った理由でサービスしてもらうこともあるが、あとで必ずトラブルになるので断っていた。幸子も呆れた表情だ。おそらく彼女も似たような嫌な経験があるのだろう。
「そんな事しちゃダメよ。私、遠目で見てたけど、やっぱり不正にあげたのね」
幸子に怒られた拓也だが、何故かちょっと嬉しそうにニヤついている。もしかしたら年上の綺麗なお姉さんに叱られて喜んでいるのかもしれない。
「それで、工藤さんと今日子さんがトラブっていたみたいだけど、それはどう思う?」
亜弓は出来るだけ声を抑えて冷静にいった。
「それは悪かったよ。でもいくら工藤のじーさんでもシールごときで殺すか?」
拓也が言っている事はもっともだった。
「それもそうね」
幸子も拓也の意見に同意していた。亜弓も頷く。それに工藤が犯人なら、警察が捕まえているのではないだろうか。
「他に何か事件で気づいた事ない?」
「そうだなぁ」
拓也はしばらく考えていた。
「そういば、大地さんとこのマッサージ受けてたみたいだった。足ツボマッサージが最高だったとは言ってたけど」
亜弓はその大地については知らなかったが、何か事件について知っているかもしれない。メモに書きつける。
「まあ、旦那とはラブラブって言ってたぜ。旦那の誕生日にうちのケーキ買いの来ていた。旦那が好きだっていうチーズケーキとクリームチーズのスフレ買ってた。先月ぐらいだったかなぁ? なんか関係ある?」
わからないが、亜弓は一応その事もメモ帳に書きけた。




