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シープルおばさまは名探偵〜秋のパン祭り殺人事件〜  作者: 地野千塩


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お祭り編-4

 すっかり日が落ち、屋台や公園もライトアップされた。


 いよいよベーカリー・マツダの屋台で、パン祭りの抽選会が始まる。


 チヂミやパンを食べてすっかりいい気分になっている栗子と桃果は喜び勇んで列に並んだ。今日子の夫・光はこれから用事があると抽選会には出ず、帰っていった。


 栗子達のすぐ前には、メゾン・ヤモメの裏に住人・香坂今日子が並んでいた。香水でもつけているのか、ツンとしたレモンのような香りがした。香水だけでなく、爪もマニュキュアが綺麗に塗られ、控えめにアクセサリーも付けている。


 意識の高い美人である事は間違いないだろうと栗子は思ったら。不倫をしているかどうかわからないが、美容に気を使ってるし、不倫をしていてもおかしくない。ただ、さっき会った夫の光の態度ではとても不倫をしているとは考えられないが。


「おい、オバタリアンじゃん」


 そこへ雪也と亜弓もぞろぞろとやってきた。


「ちょっと、雪也。そんな口叩かないでっていつも言ってるでしょう」


 栗子は雪也の言動に呆れた。隣に亜弓がいるが、色っぽい空気はまるでない。この様子だときっと亜弓は雪也の言動にガッカリしたのだろう。


「でもオバタリアンは俺のお袋じゃないし」


 不機嫌そうにぷいっと顔を伏せる。栗子は雪也にこれ以上何を言っても仕方がないと思い、亜弓に話しかけた。


「滝沢さんも抽選?」

「タッキーも集めてたっけ?」


 桃果も不思議そうにしている。


「オレの付き合いだ。俺もシールを30点ためたからな」


 雪也はそう言ってシール台詞を他の3人に見せた。


「意外。まめに貯めてるのね」


 亜弓が一番驚いているが、栗子はその気持ちがわかる。こんなぶっきらぼうな雪也がシールを集めていたのが意外だ。


「まあ、俺は皿よりお菓子の方が欲しいんだ!」


 そうこうしているうちの列が進む。なかなかお菓子詰め合わせセットを当てた人はいないようだ。参加賞の焼き菓子一個がもらえるので、そう不満なものはいないようだが。


 ついに四人の前にいる今日子がくじを引きに行った。ハコからくじを引く。


「当たるかな〜」


 笑顔を見せながら、くじを引いていた。すると今日子の顔がパッと明るくなった。


 引いたくじを掲げて、当たったとはしゃいでいる。ベーカリーマツダの店主や和水もベルを鳴らし、列に並んでいるものもみんな拍手していた。


「シーちゃん、もう当たりでないかなぁ?」

「大丈夫よ。あと一本あたりがあるはずだもの」


 するとそこへ一人の男がくじ引き会場に乗り込んでいた。この町のトラブルメーカーの工藤だ。特にベーカリーマツダや幸子のティーショップで理不尽なクレームをつけていて、栗子も桃果も苦手な人物だ。脳の病気という噂も聞いたが、自分勝手な振る舞いがおばさん二人の目にもあまり、良い人物だとはとても思えない。


「なんでこの女が当ててるんだ!」


 しかも理不尽な事で言いがかりまでつけている。

 おばさん二人も雪也も亜弓もただただ困惑している。


 ベーカリー・マツダの店主や和水は意外と冷静だった。


 当の今日子は、何が起こったのかよくわからないようで、驚いたように目をパチクリとさせている。


「この女は不正にシールを得たんだ! この女が当てるのは許せない!」

「そんな事ないですよ〜」


 今日子はもはや泣きそうだ。祭りの客達が、トラブルでも起こったのかとゾロゾロと野次馬をし始めている。


「今日子さんは悪くないでしょ!」


 意外な事に亜弓がガツンと言い放っていた。


「そうだ! クソじじい、言いがかりつけんな!」


 雪也も亜弓に続ける。ベーカリーマツダの店主や和水も「言いがかりはやめてくださいよ」と言う。


「そうよ、工藤さん。何か不満があるかもしれないけど、関係ない人を巻き込むんじゃないよ!」


 栗子もビシッと言ってやった。せっかくくじ引きで気分が盛り上がっているのに水を刺された気分だ。仕事で正気を失わないと書けないドロ甘シンデレラストーリーをか書かなければならない。そんな中でお祭りは一時のストレス解消になる意味抜きだ。工藤の行いは見ているだけでも栗子は不快だった。


 こうしてビシッと言う栗子は、見かけと違いすぎると亜弓は驚いていたが、付き合いの長い桃果や雪也、商店街の連中は特に驚いていなかった。


「ちっ! 覚えてろ! クソババアども!」


 捨て台詞を忘れずにに工藤は、去っていった。


 ようやくこの場のみんながホッと胸を撫で下ろす。今日子は無事にお菓子の詰め合わせセットの大箱を受け取っていた。ただ、こんな言いがかりがつけられたので、あまり嬉しそうではなかった。


「では次の人、どうぞ!」


 ベーカリー・マツダの店主や和水に言われて、栗子はシール台紙を渡す。


「シーちゃん、頑張って!」

「うん!」


 桃果に応援されて、栗子は勢いよくくじ引きの箱に手を入れた。


 ドキドキしながらくじをめくる。参加賞という無残な言葉が見えるだけだった。


 おばさん二人は明らかにガッカリしていた。亜弓は笑って二人をなだめ、雪也は子供のようにくじ引きにやる気を見せていたが、結局外れてしまった。参加賞の焼き菓子はマドレーヌやクッキーを四人で分け合っていたところ、今日子に話しかけられた。


「あの、隣のメゾン・ヤモメの皆さん?」


 丁寧な態度で話しかけていた。近所だからよく挨拶はしているが、メゾン・ヤモメの連中と今日子はあまり話すことはなかった。


「さっきは助けてくれてありがとう。この焼き菓子セットもらってくださらない?」


 一同は驚きで顔を見合わせていた。


「でもせっかく当てたのに」


 栗子はさすがに当たったものを貰うのが悪い気がして言った。


「え? おばさんくれるの?」

「こら雪也! そんな口の聞き方はないでしょう。あなたもう子供じゃないでしょ」 


 二人のやりとりに今日子はクスクスと笑っていた。確かにこんないい大人が怒られている様子は笑うしかない。亜弓や桃果も苦笑していた。


 結局今日子のおしが強く、焼き菓子はメゾン・ヤモメの連中が貰う事になった。


 栗子は今日子にはちょっと悪い気もしたが、あまり遠慮するのも今日子の好意を無下にしてしまうきもした。同時に不倫をそているなどと噂をした事は、悪かったかもしれないと栗子反省する。夫の光も良い人そうだったし、今日子もこの通り気遣いのできる人物だった。栗子ならあの場所で、すんなり焼き菓子セットの箱を渡せるかどうかわからない。ちょっと後ろ髪は引かれていたかもしれない。


 メゾン・ヤモメの連中は家に帰ると早速、焼き菓子セットの山分けを始めた。雪也も一応あのあの場所にいたので、一緒に山分けだ。幸子は祭りの後片付けがあるので、まだ帰って来れない。栗子は幸子の分の焼き菓子も取っておく事にした。


 メゾン・ヤモメの一階リビングのテーブルの上で焼き菓子の箱を開ける。中にはマドレーヌ、クッキー、パウンドケーキ、ビスケット、マカロンなどの焼き菓子が小袋に入ってギッシリ詰まっていた。焼き菓子だけでなく、フルーツのゼリーやチョコレートも入っている。かなり豪華なお菓子セットだ。箱に入っていたパンフレットを見ると材料の卵や牛乳もこだわっている様だ。


「こなのもらってなんか悪いわ」

「そうね、シーちゃん。不倫していたのは私の見間違いだった。うん、きっとそうね」


 桃果も今日子について不倫に噂をした事を反省していた。


「私はマカロン欲しい!」

「俺はビスケット一択!」


 亜弓と雪也は豪華な焼き菓子セットに明らかにテンションが上がっている。


「ハイハイ。みんな一個ずつよ」


 この子供みたいな雪也がいるち喧嘩がなりそうだった。栗子はそうルールを決めて綺麗に平等にわけた。


 こうしてお菓子が手に入り、しばらくおやつの時間に困らないだろう。特に栗子は執筆中に正気を失いながら、現実には絶対ありえないイケメン王子を作らなければならない。


 自ずと脳内の糖分も大量消費されているようで、執筆中はクッキーやチョコレートなどのお菓子は手放せなかった。


「ただいま。あら、雪也くんも来てたの」


 ちょっうどそこへ幸子が帰ってきた。


「何? このお菓子。美味しそう!」

「実はね…」


 幸子の分をとっていた菓子を渡しながら、栗子はこの焼き菓子セットを貰った一件を説明した。


「本当ラッキーだったな。俺らついてる」

「本当、ユッキーてラッキーボーイ?」


 いつのまにか雪也と亜弓は渾名で呼び合うぐらい打ち解けていた。


「そ、そうなんだ」


 なぜか幸子は、渋い顔をして焼き菓子を眺めていた。


「え、何か問題?」


 何か納得がいかないようだ。


「いえ、うん。私の見間違いかもしれないし。なんでもないわ。栗子さん、お菓子ありがとう」


 幸子笑顔を見せた。ちょっと気になる事もあったようだが、問題ないようで栗子はホッとした。

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