指名依頼の内容は
ギルマスは訓練所の使用時間一杯を使って属性魔石の作成を練習した。
その甲斐あって、水・風・光の魔石は大量に用意できた。
「後は足らない火・土・闇の属性魔石を用意したら、準備完了だな。」
「これ職員たちで出来るかしら?結構キツイわよ?」
「そこんとこは、職員だけでなく冒険者にも手伝ってもらえばいいじゃないか。」
「信用における冒険者に手伝ってもらおうかしら。」
「その辺りはまかせるよ。俺はギルマスにやり方を説明するまでが、頼まれごとだからな。(アンナ達には俺自身が教えなきゃいけないけど、そこまでは言う必要はないだろ。)」
「カズマさんは手伝ってはくれないの?」
「俺が手伝ったんじゃ、結局は俺に全部押し付ける形にならないか?」
「それはそうなんだけど・・・。出来れば手伝ってくれたら嬉しいなって思うのよね。」
「職員や他の冒険者で無理なら、声をかけてくれ。出来るだけそっちでやるようにしてくれ。」
「わかったわ。でも、無理そうなら手伝ってよね?」
「時間があればな。」
俺はギルマスからの手伝い要請をかわし、訓練所を後にした。
数日後、ギルドからの呼び出しを受け、俺と薔薇の茨の面々はギルマスの部屋に来ていた。
「4人ともよく来てくれたわね。」
「ギルマス、何か御用なんでしょうか?」
「ギルドから呼び出しを受けるようなことは、してないと思うですが?」
「何か依頼で不備がありましたか?」
「ああ、お説教とかじゃないから、そんなに緊張しなくてもいいわよ。薔薇の茨に指名依頼をしたくて、呼び出しただけだから。」
「指名依頼ですか?」
「ギルマスが私たちに!?」
「ええ。ただ、この指名依頼はちょっと条件があってね。それをあなた達が飲んでくれたらお願いすることになるわ。」
「条件ですか?」
「特段無理な条件を付けるつもりはないわよ?とある冒険者に、依頼とはどんなものかを教えてほしいってだけだから。」
「とある冒険者ですか?」
「ええ。その冒険者は恒常依頼しか受けないのに、買取には、やけに討伐ランクが高い魔物を持ってきてね。ちょっとギルド内で問題になってたのよ。」
「ま、まさかその冒険者って・・・。」
「そう。そこにいるカズマさんよ。」
「カズマ、あんた何やってんのよ・・・。」
「ちなみにどんな魔物を買取に持ってきてたんですか?」
「聞きたい?聞くとショックを受けるかもしれないわよ?」
「そ、そんなにランクの高い魔物なんですか?」
「一番高いランクだと、フォーハンドベアーを無傷で買取に持ってきたわね。」
「フォ、フォーハンドベアーですって!?討伐ランクBの!?」
「しかも無傷!?」
「いったいどんな倒し方をしたら、無傷でフォーハンドベアーを倒せるって言うんですか!?」
「見てみなさい、カズマさん。これが冒険者の正しい反応の仕方よ?討伐ランクがきちんと理解できていれば、討伐ランクBの魔物を無傷で倒すことが、どんなに常軌を逸しているか解るのよ?」
「そんなこと言われてもな。あの熊、簡単に倒せたんだからしかたないだろ?」
「フォーハンドベアーが簡単に倒せたですって!?あんた、いったいどんな倒し方したのよ!?」
「ん?突っ込んできたら落とし穴空けて、落ちたらそこに冷たい水を大量に流し込んで終わり。なっ?簡単だろ?」
「簡単だろ?じゃないわよ!そんなに簡単に出来るわけないでしょ!!」
「カズマ。嘘を吐くならもっとましな嘘を吐いたほうがいいぞ?」
「そうですよ。そんな方法で倒せるわけないじゃないですか。」
「やっぱり、そう思うわよね。でも今のカズマさんの説明で、解体の時に胃から大量の水が出てきた理由がわかったわ。」
「胃から大量の水が出たんですか?」
「ええ。ボンガさんもなんでこんなに大量の水が出てくるんだって不思議がってたのよね。なるほど、溺死させたからなのね。」
「ああ、落とし穴で5メートルくらいの穴を作って、落ちたら水滝で冷えた水を段差きわきわまで流し込む。10分くらいしてから解除したら、溺死した熊の出来上がり。なっ?簡単だろ?」
「カズマ、それは簡単とは言わない。」
「そうよ。それにあんた、フォーハンドベアーの討伐依頼は受けれないでしょ?依頼はどうしてたのよ?」
「ん?依頼なんて受けてないぞ?恒常依頼のついでに倒したからな。」
「はぁ!?依頼を受けてない上に、恒常依頼のついでですって!?」
「ああ。」
「あんた、冒険者を舐めてるんじゃないでしょうね?」
「舐めてなんかないぞ?ただ、身を守るためにやったことなんだからな。」
「カズマはそのつもりでも、依頼を受けていた冒険者がいたらどうするんだ?」
「そん時はそん時だろ?」
「あ、あんたねぇ・・・。」
「ねっ?指名依頼をしてでも、依頼とはどんなものかを教える必要があるのが、解ってくれたかしら?」
「はい。このままでは、カズマがおかしなことをしでかす可能性が、高いと思います。」
「アンナさんもそう思う?私もそこを危惧してるのよ。」
「おいおい。人を非常識な人間みたいに言うなよな。」
「あんたが非常識でなくてなんだって言うのよ!」
「そうですよ。普通の人は恒常依頼のついでに討伐ではなく、依頼のついでに恒常依頼を受けるもんです。」
「と言うわけで、あなた達にはカズマさんに依頼とはどんなものかを教えてほしいのよ。もうわかったと思うけど、指名依頼の条件はカズマさんを一緒に連れていくこと。それだけよ。」
「わかりました。知らぬ仲ではありませんので、カズマには依頼がどんなものかを教えることにします。」
「徹底的に叩き込みますから、安心してください。」
「ところで、指名依頼の内容ってなんですか?内容によっては準備に時間がかかるんですが?」
「じゃあ、依頼を受けてくれるってことでオーケーね。依頼の内容はオーユの街まで行って欲しいのよ。詳しくはオーユのギルドで聞いてもらうことになるわ。」
「オーユの街で、ですか?」
「ええ。魔物の討伐依頼なんだけど、何種類かあるらしくてね。」
「種類があるタイプですか。」
「もちろん、オーユの街のギルドマスターとも話をつけてるから、スムーズに依頼を受けれるはずよ。
それに、これはギルドからの依頼だから、宿の手配も万全よ?食事に関しては自分たちでお願いすることになるけど。」
「なあなあ、そのオーユの街ってどこにあるんだ?」
「カズマさん、オーユの街がどこにあるのか知らないんですか?」
「知らん。」
「オーユの街はここから馬車で一週間ほど行ったとこにある鉱山の街です。観光名所というわけではないので、そんなに旅人は訪れませんが、商人はよく鉱石の買い付けに行ったりしていますね。」
「鉱山の街ということは、鍛冶が盛んなのか?」
「そうですね。確かに盛んではありますが、ドワーフがそこまで多くいるわけでもないので、品質でいうとそこまで高いわけではありませんね。」
「なるほど。(鉱山の街なら温泉が期待できるかもしれないな。買ったバスタブにもまだ入ってないけど、温泉があるなら是非とも入りたいな。)」
「出発はいつ頃にすればいいですか?」
「そうね。準備なんかあるだろうけど、遅くとも1週間以内には出発してほしいわね。」
「1週間ですか。わかりました。」
「それじゃあ、頼むわね。あと、出発する前に一度ギルドに寄ってもらえるかしら?オーユの街のギルドマスターに宛てた手紙を渡すから。」
「わかりました。それじゃあ、3人とも一度宿に戻るぞ?打ち合わせをしなきゃならんからな。」
「わかったわ。買い出しや馬車の手配で忙しくなるわね。」
「ちょっと、待ってください。ギルマス、依頼報酬はどうなるんですか?」
「あら?話してなかったかしら?」
「そういえば、聞いてませんでしたね。」
「依頼報酬は金貨10枚。つまりは白金貨1枚ね。」
「それは一人ですか?全員ですか?」
「もちろん、一人白金貨1枚よ。ちなみに依頼外の魔物も買取させてもらうわよ。ああ、あとこの依頼を達成したら、アンナさんとアイナさんはBランクに、エレナさんはCランクに上がるから頑張ってね。」
「えっ?」
「うそっ?」
「ほんとですか?」
「ええ、昇格条件はこの依頼で満たせるから、間違いないわよ?まあ、気負わずに、いつも通りにやってくれたら問題ないでしょうね。」
「「「わかりました。頑張ります。」」」
俺とは対照的に、やる気に漲る3人なのであった。




