自業自得だったようだ
「さて、きりきりと説明してもらおうか。」
「そ、そんな怖い顔しないでよ。えっと、カズマさんって前にお願いしたのに、ずっと恒常依頼しか受けてなかったでしょ?」
「まあ、ランクを上げるつもりがないからな。」
「でも、買取でランク以上の魔物を持ってきてるわよね?」
「ああ。依頼の最中に襲ってきたのを返り討ちにしてたからな。」
「それがギルド内で問題になったのよ。FランクなのにDランクやCランクの魔物を買取に出してるって。」
「それの何が問題なんだ?」
「実はカズマさんが倒してるんじゃなくて、誰かが倒したのを横取りしてるんじゃないかっていう噂が広まってきてるのよ。」
「はあ?そんなわけないだろ。全部俺一人で倒したものだぞ?」
「わかってる人も多少はいるけど、大多数がカズマさんのことをよく知らないから、こんな噂が広まってるんだけどね。」
「確かに俺のことを知ってるってなると、極一部に限られるな。」
「だから、カズマさんには悪いとは思ったんだけど、強制的にランクアップしてもらうことにしたのよ。ランクさえ適切なら、CランクやDランクを買取に出そうが問題ないからね。」
「なるほどな。そこは理解した。だが、ランクアップの条件はどうするつもりだ?俺は恒常依頼しか受けてないんだぞ?通常の依頼を受けてない以上、条件を満たしていないはずだ。」
「その点は買取に出した魔物が、カズマさんのランク以上が複数だったってことで、特例を適用することで問題は解決したわ。」
「特例なんて作っていいのかよ?」
「カズマさん用の特例じゃないわよ?適用って言ったでしょ?昔からある特例でね、自身のランク以上の魔物を一定数倒してきた者には相応のランクを与えることってなってるの。」
「それはホントか?なんか無理やりな感じが否めないんだが?」
「実際に過去に数例だけど、特例を認められた冒険者もいるのよ。」
「なるほどな。なら特例の適用も理解した。だけど、いきなりCランクってのは何故なんだ?俺の予想だが、過去の特例適用でも最高がDランク位なもんじゃないのか?」
「確かに過去の特例が認められた冒険者でもCランクっていうのは居ないわね。」
「なら、俺もDランクが妥当じゃないのか?」
「とある魔物を無傷で倒してなかったら、Dランクにしてたでしょうね。」
「とある魔物?なんだそれ?」
「フォーハンドベアーよ。」
「フォーハンドベアー?ああ、あの四つ手の熊のことか?」
「そうよ。普通、魔物を無傷で倒すこと自体が無理に近いのに、カズマさんはよりにもよって、討伐ランクBのフォーハンドベアーを無傷で倒して来たんだもの。
それ以外にも、討伐ランクCのアサルトディアやマーダスネーク、アサシンマンティスなんかも無傷、もしくはそれに近い状態で買取に出してたのよ?これでDランクなんて言ったら、今いるDランク冒険者たちが可哀想になってくるわ。」
「それは、結構楽な倒し方を発見したからなんだがな・・・。」
「どんな倒し方をしたのか興味はあるけど、今はそこじゃないから置いておくとして、それらのことから異例ではあるけど、Cランクにランクアップとなったわけ。」
「じゃあ何か?すべては俺の自業自得だということなのか?」
「端的に言えば、そうね。多少なりとも自重して通常依頼を受けて、ランクアップをして行ってくれてればこんな事にはならなかったかもしれないわね。」
「楽に倒せるからって遠慮しなかったからな。魔物のランクも気にしてなかったし。」
「通常依頼を受けてくれていれば、おのずと魔物のランクも知っていったんでしょうが、恒常依頼ばかり受けてきた弊害ね。」
「はぁ~ぁぁぁ。わかったよ。ランクアップを受け入れればいいんだろ?」
「ええ。カズマさんならきっとそう言ってくれると思っていたわ。それとCランクに上がった以上、恒常依頼の受注は控えさせてもらうわね。」
「なんでそうなるんだよ。恒常依頼はランクフリーのはずだろ?」
「あのねぇ、Cランクの冒険者が恒常依頼しか受けないなんて恥でしかないのよ?普通、恒常依頼は何かの依頼を受けたついでに片づけるもので、それをメインに受けるなんてFランクの子供たちくらいなものなの。」
「それじゃあ、今までみたいに恒常依頼のついでに魔物を倒す、ってことはできなくなるのか・・・。」
「普通は逆なのよ。依頼で魔物を倒して、そのついでに恒常依頼を完了する。カズマさんは一度誰かの依頼について行って、依頼がどんなものか知って欲しいわね。」
「誰かについて行くってもなぁ~。知り合いなんてほとんどいないしな。」
「あら、薔薇の茨や守護者がいるじゃないの。」
「両方とも全員が女性じゃないか。女性の中に男一人だなんて、そんな身狭な思いはしたくない。」
「なら、全然知らないパーティーについて行く?そのほうが、身狭な思いをすると思うんだけど?」
「そう考えたら、確かに知り合いのほうが気が楽ではあるが・・・。」
「ああ~、もう。とにかく、カズマさんには一度薔薇の茨か守護者の依頼について行ってもらいます。これはギルドマスターからの命令という形を取らせてもらいますからね。」
「なっ!?横暴だぞ、ギルマス!」
「横暴でも結構。どちらに頼むにしても、依頼にはついて行ってもらいますからね。そうと決まれば、どんな依頼があるか、どちらに依頼するかを考えなくちゃ。
ああ、カズマさんがついて行く依頼はギルドからパーティーへの指名依頼って形を取らせてもらうから、逃げられないわよ?」
(その前に依頼を俺自身で依頼を受けて、街から出てれば問題ないんじゃね?)
「因みに、依頼が決まるまでカズマさんが依頼を受けるのは禁止するからね。」
「そこまでするか!?」
「ええ。今回ばかりは強権を発動させてもらうわ。そんな変な依頼は回さないし時間はかけないから、そこは安心してていいわよ。」
「どうしても逃がさないつもりだな?」
「当然でしょ?それと、話さなきゃならない話はし終わったから、もう帰っても問題ないわよ?あっ!そうそう、大事な物を渡し忘れてたわ。
はい、これ。Cランクのギルドカード。これでカズマさんもCランク冒険者ね。おめでとう。」
「はぁ~ぁぁぁ。ありがとうと言えばいいのか?あと、依頼に関してはできれば簡単な物にしてくれると有難い。」
「それは今ある依頼を見てからでないと、何とも言えないわね。まあ、できるだけ希望に添えるようにはするわ。」
「あと、指名依頼をするなら薔薇の茨にしてくれ。」
「あら、カズマさん自身からのご指名?」
「あの3人なら、俺のことを大概わかっているからやり易いんだ。」
「わかったわ。それじゃあ、薔薇の茨に指名依頼を出すことにするわね。」
「ああ、頼む。」
俺はギルマスにそう言うとギルマスの部屋を後にした。
宿への帰り道、俺はがっくりと肩を落としていたのは言うまでもない。
(マジで面倒なことになったな。いきなりCランクになった上に、今までのように恒常依頼を隠れ蓑に魔物狩りができなくなるのは面倒だな・・・。)
俺は部屋に戻るなりベッドに倒れこみ、天井を見上げながら先ほどのことを考えていた。
「ギルマスの言い分もわからんではないが、それにしたって急すぎる。しかも、強権まで発動するだなんて一体何を考えているんだか・・・。」
「俺はただ、楽な倒し方を見つけたからそれを実践していただけなのに・・・。」
俺は自分のことは棚に上げて、ギルマスが悪いかのように呟いていた。
おそらく、事情を知っている人が聞いたら、「お前が悪い」と言われるのは間違いないだろう。
「でも、ギルマスに構わないと言ってしまった以上、どうにもならないか・・・。」
「それなら、依頼の達成が楽になるように、多少なりとも今のうちから準備をしておくのがベストだな。」
俺は考え方を変え、今後が多少楽になるように、必要なものを街で購入することにした。
(足りないものは異世界ネットを使っても構わんだろうが、基本は街で揃えないと後々面倒なことになるだるからな。)
ベッドから体を起こし、俺は街ブラをするために宿を後にした。